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72/101

72・双子というものは


 昼食の用意が整ったところでピア嬢が到着した。


「遅くなりまして、申し訳ございません」


いやいや、ピア嬢は何も悪くない。


おい、双子、何とか言えや。

 

「こちらが悪いのだ。


申し訳ない、勝手に予定を変更してしまって」


ウンウン、お前らが悪い。




 ピア嬢を交えて会食となる。


双子と団長、俺、部屋の隅に立つ護衛はラカーシャルさん。 


ギディがいつも通り俺の給仕に付く。


「これは魔獣の肉ですか?」


双子は自分たちの事情より飯のほうが大事らしい。


バクバク食いやがる。


 俺の偏食はいつもと同じで、ギディが上手く誤魔化しながら手早く皿を片付けていく。


なるべく相手の速度に合わせるけど、成人男性の場合は量も多いのでなかなか合わせ辛い。


「あれ?、コリルバート様は少食ですか」


双子弟は遠慮しないな。


ズケズケ訊いてくる。


「ええ、まあ」


「でもコリル殿下は魚料理はお好きですよね」


ピア嬢がフォローしてくれる。


「はい、シーラコークの魚は美味しいです」


俺はピア嬢に笑顔で返す。




 俺は、双子兄の視線に気づく。


そんなに見られると食べづらいんだけど。


「コリルバート様は、ご病気か何かで食事を制限していらっしゃるのですか?」


ふむ、偏食がバレたっぽい。


「いえ、ただ好き嫌いが激しいだけです」


恥ずかしくて少し顔が赤くなる。


まるで小さい子供みたいだな。


「無理をすれば食べられるのですか?」


んー、なかなか追求が厳しい。


「コリル殿下は魔獣が大変お好きでいらっしゃるので、魔獣の肉を食べるのはあまりお好きではないようです」


ピア嬢、何で知ってるの。


話したこと、あったかな?、覚えがない。


俺はピア嬢に説明させてしまい申し訳なく思う。


「無理に食べると、その、戻してしまうので」


食事中にする話ではないので、俺は小声になる。


「そうでしたか」


双子は食べることが好きらしく、食べられない俺がかわいそうだと思ったようだ。




「あの、私に厨房の隅を貸していただけませんか」


双子兄が真剣な表情で俺を見る。


「は?」


俺は目を瞬いて双子兄を見返した。


「うちの兄は公子のくせに料理をするのが好きでね。


腕前も相当ですよ」


あの高級飲食店で修行をしたこともあるらしい。


双子弟が自慢気に話す。


はあ、それは良かったですね、だからなんで?。




 双子兄の言葉が熱っぽくなる。


「コリルバート様が食べられないのは魔獣を想像してしまうからでしょう」


確かに俺は魔獣好きで、幼い頃から見たこともない魔獣の名前や特徴を調べたり、一緒に遊ぶことを想像するのが楽しかった。


それを食べるのだと知った時のショックが大き過ぎて、それから無理になったみたいだ。


詳しくは幼過ぎて、あんまり覚えてない。


「シーラコークの魚が食べられるのは、市場で売っている魚がほとんど切り身だけで、全体の姿が分からないからではないかと。


それに、コリルバート様は魚の魔獣には詳しくないでしょう?」


おー、双子兄、めっちゃスラスラ喋るな。


晩餐会ではあんなにおとなしかったのに。


ピア嬢もポカンとしている。




 そこに団長の爺さんが口を挟んだ。


「それでは、こうしてはいかがでしょうか?」


爺さんの案は、双子兄には俺の食事を作ってもらう。


材料、その他、必要なものがあれば、これから市場で買い物なり、自宅へ取りに行くなりすれば良い。


その費用と護衛はこちらで用意する。


気に入れば滞在も可能。


「他に何か付け加えることはございますか?」


団長の問いかけに、俺は分からないからピア嬢と双子に任せる。


「私はコリル殿下さえよろしければ、問題ないと思います」


ピア嬢は頷いている。


「こちらとしては厨房をお借りするだけでも良かったのだが。


使い慣れたものを取りに行って良いなら、心置きなく腕が振るえる」


双子兄はうれしそうに立ち上がり、さっそく部屋を出て行った。


せっかちな人だ。


ちゃんとエオジさんに護衛を頼むようにギディに言付けた。




 そんな兄を見送った双子弟は、団長に深く頭を下げた。


「ありがとうございます、団長殿」


「なんの。 公子殿下らの母上様からも頼まれておりますゆえ」


えっ、何のこと?。


「晩餐会でお会いした時に、何かあったら息子を頼むと」


うーん、団長も一枚噛んでたのか。




 そして別室に移動し、食後のお茶を飲みながら、双子の事情を聞くことになった。


俺は念のため、部屋に防御結界を張り、部屋を見回して頷く。


「あ、こいつは気にしないでください」


俺の足元にはツンツンが伸び伸びと横になっている。


双子弟の顔が微妙に引き攣ってる気がするけど、まあいいか。




「先にわしから、コリルバート殿下を巻き込んだことをお詫びしなくてはならぬ」


団長の爺さんが謝罪する。


「いいよ、別に」


それと、堅苦しい言い方はやめて欲しい。


「綺麗な言葉で飾る必要なんてないよ。


俺に話を聞かせたいなら、子供でも分かるように話してくれ」


「なるほどの。 マッカス殿が褒めるだけのことはありそうじゃ」


は?、何でここで祖父じい様が出てくるのかな。


「それより、今のうちにある程度は教えて欲しい」


見張りはおそらく、今は双子兄に気を取られているはずだ。


俺の雰囲気が変わったと感じた双子弟とピア嬢が姿勢を正す。


爺さんは元から背筋ピーンである。




「僕ら双子は、公主一族の男子の中では一番年上になる」


姉が二人いたが、すでに他国に嫁いだそうだ。


つまり、跡継ぎだということか。


「でも、僕らの母の国はシーラコークにすればあまり交易も盛んではないし、戦略的にも要所にあるわけじゃない」


へえ、シーラコークでも軍事関係は考えてるんだ。


双子弟が俺に「分かる?」みたいな表情を見せるので、手振りで先を促す。


「五年前、僕らが十六歳になった頃、一つ下の弟が亡くなった。


容姿は地味だったけど、とても優秀なやつで、後ろ盾になる母親の国も大国だった。


僕らも彼が跡継ぎで良いんじゃないかと思ってたんだ」


ピア嬢の瞳が悲しそうに揺れる。


知り合いだったのかも知れない。


「それから、さらにその下の弟が、港の荷下ろしの事故に巻き込まれて大怪我をした」


それを聞いた公子たちは警戒し始める。




 そして、公宮内では犯人探しが始まった。


「港で怪我をした弟は偶然の事故といえなくはないと思う。


でも、最初の弟は明らかに誰かに斬られていた」


公主宮の庭で。


「なるほど。 宮内に出入り出来て、動機がある者」


双子弟の顔が歪む。


「真っ先に疑われたんですね」


俺の言葉に双子弟が頷いた。


「僕らは跡継ぎになりたいわけじゃない。


弟を殺す理由はない」


双子兄は店で修行するほど料理人になりたかった。


双子弟はただ二人で一緒にいることが幸せだった。


「だけど、誰も信じてくれなかった」




「それからしばらくして、宮内の公主館で毒騒ぎがあったんだ」


誰かの祝いか何かの席で一族が揃っていた。


「身内のみで客はいなかった。


そこで出された料理を食べた者が次々と倒れたんだ」


一族内でギスギスしていた時期である。


双子は食欲もなく、あまり料理に手を付けていなかった。


 俺はため息を吐く。


双子にとって不利な状況しかない。


「幸い、死人は出なかった。

 

身体の不調で吐いたり、腹を壊した者が何人かいたくらいで」


うん?、それって毒なの?。




 俺は目を閉じて考えてみる。


頭に浮かんだのは、痩せた顔の公主陛下の顔だった。


「ねえ、ピア、教えて。 公主に跡継ぎは必要なの?」


「え?」


俺には分からない。


ハーレムの主である公主陛下は、何故、次々と妻を娶り、子供は一人と限定しているのだろう。


「それってさ、跡継ぎ争いをしてくれって言ってるみたいだと思って」


後ろ盾になる国は、それぞれが自国の血を引く公子を躍起になって跡継ぎにしようと公主陛下にへつらう。


「その争いで邪魔になるのは、優秀な跡継ぎ候補なんだよね」


決まらないことが肝心なんだ。



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