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ハズレ王子〜輪廻の輪に乗り損なった俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


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71・訓練というものは


 ん?、誰も反応してくれない。


どうなの?、ねえ。


「ほう、その費用というのはどうなんだ?」


ずっと黙っていた団長の爺さんが、金庫係に訊いてくれた。


「あ、はい。


えーっと、コリルバート殿下は今まで、ご自分でお金というものをあまり使わない方でしたから、貯まっているお小遣いで十分にまかなえます」


金庫係は業者からの見積書を見ながら答える。


良かった。


俺はホッと胸を撫で下ろす。




 魔法契約書の件のお蔭で、俺の偏食を誰も気にしていない。


今のうちに苦手な料理を食べ終えたことにして、俺はのんびりと果物に手を付ける。


いつもなら「もっと食べろ」と、無理矢理に皿の上に乗せられる肉もなく、スープも華麗にスルー出来た。


その代わりに、客用にしか出てこない美味しい果物を多めに堪能する。


うむ、満足だ。


 食事が終わると何故かバタバタと金庫係が消え、団長もいなくなり、ギディは後片付けで忙しい。


俺は馬車を用意させて、ピア嬢を玄関まで送る。


彼女一人なら家まで俺が一緒に乗って送って行くけど、今日は侍女や護衛もいるので大使館前で見送ることにした。


「では明日、午後からお伺いします」


例の双子との面会がある。


「お待ちしています」


俺はピア嬢の言葉に頷いた。




 馬車に足を掛けていたピア嬢が振り返る。


「先ほどのお話」


「はい?」


俺はピア嬢のかたわらに一歩近付き、彼女の顔を見上げる。


「その、大切なお話でしたのに、私なんかが聞いて良かったのでしょうか」


少し困ったような顔をしていた。


「ピア様は私にとって、シーラコークとの間を繋ぐ架け橋のような方です」


俺の個人的な外相そのもので、無くてはならない大切な人だ。


その代わりなどいない。


「そもそも、四年前のあの日、貴女が優秀過ぎたんですよ」


冗談混じりに心から褒めた。


ピア嬢が顔を赤くして「まあ」と照れる。


「これからもよろしくお願いします」


笑顔で軽く彼女の手を握った。


 そして「おやすみなさい」と馬車の扉を閉める。


御者に合図を送ると、馬車は静かに動き出した。




「なーんだ、口づけぐらいするのかと思ったのに」


背中からエオジさんの声が聞こえ、俺の顔は真っ赤になる。


「そ、そんなの出来るわけない!」


見てる人がいっぱいいるんだから。


「いや、あそこまでいったら、しないほうが失礼になる場合もあるぞ」


へっ?。


「だ、だって、俺はまだ十三歳だし」


小柄だから年相応に見られたことはあまりないけど。


「ふむ。 コリルは剣も魔法も卒業した割には、こういう事は苦手か」


部屋に向かって歩きながら、エオジさんは何か考え事をしている。


 そして部屋に入って一言。


「よし、明日から女性の扱い方を教えてやる」


「はあ?」


部屋の中で寝る準備をしていたギディと俺の二人、呆れた声が重なった。


「エオジさんに習っても上手くなる気がしませんが」


俺もギディの意見に完全に同意だ。


「エオジさん、相手いるの?」


俺は、そもそも独身のエオジさんに教えてもらいたくない。


さっさと着替えて寝よう。


「おーまーえーらあ」


「おやすみなさい!」


すぐにベッドに飛び込んで、あっという間に寝てしまった。




 翌朝、預り所で弟たちの世話をし終え、大使館に戻って朝食後。


「二人とも庭に出ろ」


「えー」


俺とギディはエオジさんに庭に引き摺り出された。


「ほら」


木剣を持たされ、まずは素振りである。


クソッ。


庭にテントを張って寝泊まりしている兵士たちも顔を出して眺めている。


「よし、二人で俺に打ち込んで来い」


「ふぁい」


そこ、ウズウズしないで、脳筋さん!。


「エオジ、わしらも混ぜてくれ」


ギャー、やっぱりそうくるか。




 十名ほどいる大使館待機の兵士たち全員を相手に打ち合う。


げっ、一人ずつにしてよ。


一人対多人数な想定の訓練は確かに必要だけど、イテッ!。


ブガタリアの武術は剣と体術が混在していて、剣を避けても拳や脚がくる。


「クソッ、ギディ!」


「はいっ」


俺はギディと二人で組んで、防御と風の魔法を使う。


ギディもエオジさんとデッタロさんに鍛えられてるから、兵士たちに引けは取らない。


小柄な体格を利用してちょこまか動き回る俺を、大柄な兵士たちはなかなかとらえられないでいる。


「ほお、殿下はなかなか多才でいらっしゃる」


いつの間にか、口髭の団長さんも庭に出て来て見物していた。


いや、アンタ、無謀な訓練を止めろや。


イジメだろう、こんなの。




「ハアハアハア」 


ようやく、終了の声が掛かり、俺とギディは地面に転がる。


ラカーシャルさんが出て来て、俺たち二人の片足を掴んで日陰まで引き摺ってくれた。


「よく最後まで持ちましたね、殿下」


答えるどころか、しばらく動けそうにない。


でも気分は悪くないな。


これがブガタリア気質ってやつかも。


隣を見ればギディも疲れた顔はしているけど、嫌そうではない。


 シーラコークはブガタリアに比べ、潮風のお蔭で夏は過ごし易い。


俺は日陰に風の流れを魔法で呼び込み、涼む。


「殿下は器用だな」


側に座ったラカーシャルさんは目を細めて笑っていた。




 キュキュ


突然、ツンツンが姿を見せた。 


珍しく俺のお腹の上に乗る。


グワッ、そこでピリピリするのは止めて欲しい。


「誰か来たみたいですね」


ラカーシャルさんが建物のほうを見て、立ち上がる。


 俺は身体を起こし、ギディと二人で部屋に向かうことにした。


風呂と着替えの間くらいは、エオジさんか団長さんが相手をしてくれるだろう。


接客用の服に着替えていると大使館員と団長さんが来た。


「殿下、晩餐会でお約束したという若者が二人、訪ねて来ております」


風呂の間は待たされたか、かわいそうに。


まあ、そんなに急ぎでもなさそうだったのかな。


「双子の公子殿下ですな。


お約束は本日の午後からと聞いておりましたが」


うん、俺もそのつもりだった。


まだピア嬢も来ていない。




「ピア嬢に、客が到着したと遣いを出して。


公子殿下には俺が応接室で会う」


伝令が出て行った。


昼に近い時間なので、ギディには一応昼食の準備を頼む。


俺の護衛には団長さんが付いた。


 相手が二人なのでラカーシャルさんも部屋の中に入る。


「ようこそ、予定の時間には少し早いようですが」


相手は公子、しかも成人男性である。


ニッコリ笑って無害な子供アピールしよう。 


「す、すみません、コリルバート様。


事情がありまして」


弱気兄が汗をかきながら答える。




「ああ、外にいるアレのせいですか」


双子がビクッと身体を縮める。


ツンツンが警戒していたのは双子ではなく、彼らを付けていた者たちだ。


俺は大きく肩を上下して、わざとらしくため息を吐く。


今頃はエオジさんに捕まっているか、追い払われているだろう。


双子は顔を見合わせ、そして兄は俯き、弟は顔を上げた。


「実はもう少し親交を深めてからと思っておりましたが、そうもいかないみたいで」


ふむ、複雑な事情があると。




 それにしても、そんな事情を子供の俺に持ち込むのはおかしくない?。


自分たちだって、俺には今まで興味が無かったんだろうし。


「えーっと、一族が良く利用している店がありまして、そこでコリルバート様の噂は耳にしておりました」


うへっ、あの高級飲食店?。


確かに美味しいし、大商隊がシーラコークに着く度に俺宛に食材を持たせてくれた。


今回も「落ち着いたら行くよ」と店には知らせてある。


だって、押し掛けて来そうで怖いから。




「申し訳ないですが、ピア嬢が着くまで、しばらくお待ちください。


今、昼食の用意をさせていますので」


俺はにっこり笑って「待て」をする。


双子の事情は何となく察しているけど、首を突っ込む気はない。


当たり前だ、他国の事情なんだから。


ヤーガスアの事情には思いっ切り巻き込まれてたじゃないかって?。


ほっとけ。


「分かりました」


双子も頷いたので、俺はのんびりお茶を飲む。


胃が痛いけどな。



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