表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ王子〜輪廻の輪に乗り損なった俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/101

68・紹介というものは


 俺はラカーシャルさんに頼んで普通のお茶のカップに水を入れてもらって飲んでいる。


ツンツンは背中から降りて長椅子の下で気配を消した。


さっきの公女が来た時、あまりにもピリピリしてたので、今は少し休ませている状態だ。


あ、ダンスも初めてだったかも。


振り回してごめんよ。


 団長の爺さんはシーラコークに知り合いが多いらしく、あちこち挨拶して回っている。


ラカーシャルさんは体格の良い迫力美女なのでブガタリアではモテそうだが、シーラコークではあまりお誘いはないみたいだね。


「弱い男には興味ありません」


だそうで、今日もドレスではなく礼装用軍服である。


惚れ惚れするほど良く似合ってるけどな。




 俺は談話用のテーブルの一つを一人で独占して、護衛のラカーシャルさんとそんな話をして時間を潰していた。


周りはほとんど年上だし、話が合いそうな相手も見当たらない。


歓迎会だというのに、皆、遠巻きにしていて近付いて来ないのは、例の公女のせいかな。


俺のことを「魔獣狂い」だの、「餌は人間」なんて噂を流してくれたらしいからね。


 だけど、退屈だからって俺も早々に帰るわけにはいかない。


それが社交ってもんだ、ってエオジさんが言ってたけど、そもそもあの人って社交に関係あるんだっけ?。


そんなことを考えながら俺はボーッとしていた。


「おくつろぎのところ失礼します、殿下」


ピア嬢が一人の青年を連れて戻って来た。


「構いませんよ、どうぞ」


ピア嬢は俺の前に座り、青年は立ったまま自己紹介を始めた。


「先ほどは一族の者が失礼いたしました」


ふむ、自分も公主一族だと言いたいのね。


それにしては目が泳いでいて弱々しい。


二十歳過ぎだろうに、身体付きも貧相の一言だ。


まあピア嬢の紹介だし、ツンツンも警戒してないから大丈夫かな。


ツンツン?、寝てないよね。



 

 その青年は、やはり公子の一人だった。


それも歳も上から数えたほうが早い、年長クラス。


金髪茶眼の公主陛下に良く似ている。


さっきの騒ぎを、公主どころか主催側の誰ひとりとして、俺に対して謝罪に行かないので仕方なく来た、というところらしい。


 問題児の公女シェーサイル姫は、あの容姿のお蔭で一部国民にはとても人気がある。


「あの子を産んだ母親も早くに亡くなっていまして同情する者も多く、つい甘やかせてしまいまして」


年長だから、自分も責任を感じていると。


ただ、それを遠回しに、差し障りのない言葉にして謝罪している。


ふうん、だから、なに?。

 



 何か聞いたことがある話だなと思ったら、外相の息子のサルと同じパターンじゃない?。


母親を亡くして、境遇が似てるから仲良くさせて、年頃になればちょうど良いからって婚約させたということか。


なんじゃそりゃ。


 婚約は白紙に戻ったけど、姫はどう思ったんだろう。


清清した?。


それともイジメる相手が居なくなって困った?。


だから、俺に八つ当たりしたのか。


だとしたら今回だけでは終わらないよなあ。


はあ、面倒くさっ。




「謝罪はお受けいたします。 どうぞ、お座りください」


俺はチラリとラカーシャルさんを見る。


彼女はピア嬢を俺の隣に移動させ、青年を向かい側に座らせた。


給仕を呼んでお茶とお菓子を運ばせる。


「私は特に気にしていませんから」


俺は笑って応対し、相手を伺う。


「そう言っていただけて感謝します。


やはりブガタリアは懐が深いというか、我が国があまりにも他国に対して横柄でー」


子供相手にずっとグダグダとシーラコーク国の体制批判してるけど、大丈夫なの?、この人。




「兄さん、こんなところに居た」


元気そうな声が割り込んできた。


俺が顔を上げると気弱青年によく似た男性だ。


あー、双子かな?。


 シーラコークのハーレムは基本、妻一人に付き子供は一人なんだそうだ。


年齢の違う兄弟は存在しない。


「あ、キミ、さっきシェーサイルと話してた子だね。


勇気あるなあ。


っていうか、シェーサイルに興味を持たれるなんて大変だろ」


勝手に気弱青年の隣に座り、給仕を呼んでいた。


ふむ。


馴れ馴れしいけど、はっきりしたものの言い方は好感が持てる。


「そうなんです。


コリルバート殿下はシェーサイル姫様に色々と誤解されていて」


ピア嬢は何か思うところがあるようで、積極的に話を進める。


でも、公女に関する詳しいことは、こんなところでは話せない。


誰が聞いているか分からないしね。




 軽い雰囲気の弟のほうが、


「ふんふん、じゃあ今度、大使館にお邪魔していいかな?。


その話、とっても興味があるよ。


ね、兄さんも聞きたいでしょ」


と、言い出して、「そうですね」と、ピア嬢が俺の顔を見て頷く。


「あ、いや、まあ」


しどろもどろの兄も一緒に、後日、大使館で会うことになった。


ラカーシャルさんにスケジュールを調整してもらい、二日後の午後に会う約束をする。




 さて、そろそろ未成年は引き上げても良いだろう。


近衛団長の爺さんも戻って来たので、陛下に挨拶して帰ることにした。


俺は立ち上がり、ツンツンに合図を送って背中に登らせる。


ピア嬢は父親の外相と一緒にいたので、帰りは向こうに任せていいのかな。


後で確認しよう。


 まずは公主陛下のいる一段高い席に向かう。

 

公主家の従者に声を掛け、都合を確認してもらう。


了承をもらったので席の近くまで行き、立ったまま正式な礼を取った。


「本日は大変豪華な宴を催していただき、ありがとうございました」


「楽しんでいただけたかな?。


しかし、立派な息子を持つガザンドール殿が羨ましい」


座ったままの陛下と握手をする。


 周りは女性ばかりだ。


これ、全部奥さんなのかな。

 

年齢もバラバラだから、娘もいるのかも。


「そういえば、外相家のピアーリナ嬢とはすでに約束されているのかな?」


うおっ、陛下が突然、突っ込んで来た。


ツンツンがピリッとしたのは、周りの女性たちの反応のせいだろう。


俺を見る目が肉食獣ぽくて怖い。




「いえ、ブガタリアでは二十歳になるまで特定の異性とはお付き合いしてはいけないのです。


ただ、私とピアーリナ様とは四年前から友人としてお付き合いをさせていただいています」


嘘は何一つ言ってない。


なるべく子供らしく、詳しいことは大人に訊いてね、という感じで答える。


「まあ、それじゃ、私たちでもまだお近付きになれるかしら?」


だいぶ年上のオネエサンが俺を値踏みするようにジロジロ見てくる。


「はい、そうですね。


では七年後にお待ちしております」


俺はニッコリとあどけない笑顔で、その場を離れた。




 出入り口に向かう途中でピア嬢に声を掛ける。


「では、殿下の馬車で家まで送っていただけませんか?」


「ええ、構いませんよ」

 

団長の爺さんに確認し、一緒に外へ出た。


 馬車に乗り、動き出してすぐにピア嬢が話し掛けてきた。


「公主陛下とは何のお話をされたんですか?」


ああ、気になってたのか。


「俺とピアの関係を聞かれたから、友人だと答えておいた」


「そ、そうですか」


俯くピア嬢が微妙な顔をしていた。




「俺たちの間には四年間の月日がある」


簡単には割り込めないさ。


俺は馬車の揺れに身を任せながら話し続ける。


「それに」


ピア嬢のような優秀な人材は貴重だし、外相の娘さんだ。


シーラコークは彼女を高く評価しているだろう。 


そんな女性を他国の者がくれ、とか言えない。


「ピアは将来、外相になるかもしれないから、今のうちに仲良くしておかなきゃね」


俺は冗談抜きで彼女を持ち上げる。


「そんなこと、分からないじゃないですか」


ピア嬢は、まんざらでもなさそうに頬を染めて目を逸らした。


間もなく外相家に到着し、馬車を下りて玄関まで付き添う。


 晩餐会までのサポートだから、彼女はもう大使館での寝泊まりはない。


既に、彼女の従者が荷物を引き上げているだろう。


「三日間、ありがとう」


俺はピア嬢に深く感謝した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ