表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ王子〜輪廻の輪に乗り損なった俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/101

49・部族というものは


 俺たちの行商の次の目的地は、東の国境にある砦だ。


そこで東の一族と待ち合わせになっている。


とても閉鎖的な一族だとかで、直接街には入れない。


東の砦までは王都からでも丸二日かかるので、俺たちは一度野営をして、翌日の夕方までに砦に入る予定だ。


 ゴゴゴたちには水が必要なので、野営地は必ず水辺にあった。


「滝かあ」


ドードーと水の音がすると思ったら、結構大きな滝があった。


「はあ、涼しいですねえ」


ギディも隣に来て水しぶきを浴びる。


夏もそろそろ終わりの季節だが、まだまだ日中は蒸し暑い日が続く。


「東の名所の一つです。 夏はこの通り涼しく、滝は冬でも凍らないので有名なんですよ」


副隊長のホーディガさんの解説付き観光である。


大きな川というか、水の量が多い。


なるほど、だから凍らないんだな。


今夜はこの近くにある行商者用の施設に泊まる。




 ゴゴゴたちを開放して世話をした後、俺たちは食事を摂りながら打ち合わせだ。


国内の街道沿いは、大小の宿泊施設が何ヶ所かある。


ブガタリアでの魔獣狩りや行商の者たちが利用するので、国が整備をしている場所だ。


 国民の収入といえば、薬草採取や家具製作、魔獣の素材を使った国内向けの武器防具。


部族ごとに特徴があるので、こうして王都から買い付けに回っているというわけである。


ブガタリアは、材料としての木や鉱石などの素材は豊富だが、武力と魔法で何とかしてしまう民族なので魔道具というものはあまり発達していない。


シーラコークの逆だね。


あっちは魔道具が普及しているせいで、個人が魔法を使うことがあまりない。


便利な魔道具で事足りるからだ。


言語や習慣が違う雑多な人種がいるし、使えば同じ動きをする魔道具のほうが便利で安全ということだろうね。




 翌日、順調に進んで東の国境の砦に到着する。


兵士たちがズラッと並んで出迎えてくれた。


いや、視察じゃねえし、そんなのいらん。


 すでに東の部族の関係者は入っているようで、ゼフから降りると数名の男性が近寄って来た。


「コリルバート殿下、遠いところ、ようこそいらっしゃいました」


軽い感じで話しかけて来たのは長身の若い男性だった。


黒髪に白い肌、瞳が灰色なのはブガタリアの部族の者でも隣国との混血だからだろう。


この人、さっきグロンに乗ってるギディに挨拶しようとしてたよね。


まあ、顔を知らないなら、そうなるだろうな。


あっちのほうがスラッとしてて王子っぽいし仕方ない、くすん。




「ありがとうございます。 皆さんもお疲れ様です」


俺はニコリと微笑む。


「コリルバート様はお疲れでございますので、ご挨拶は手短にお願いします」


俺の横に来たギディが、さっと牽制する。


「ああ、そうですよね。 そのような小さなお身体では移動も大変でしたでしょう」


「どうぞごゆっくり」と早々に引き上げて行った。


「何か胡散臭いですね」


ギディとエオジさんがコソコソ話し合っている。




 俺はさっさとゴゴゴたちを開放して食事やブラッシングの世話を始める。


「おやおや、殿下自ら魔獣の世話とか。 やはり魔獣好きという噂は本当のようだ」


さっきの青年が話しかけて来た。


今は一人のようである。


「はい、ゴゴゴは可愛いです」


俺はブラッシングの手を止めずに大声で話す。


グルルッ


ブラシを掛けられているグロンはちょっと警戒してるな。


ツンツンとゼフは食事中だ。




「私は東の長の息子ババーラシと申します」


勝手に挨拶を始める若者。


俺は手を止めず、顔も向けない。


「あの、殿下。 少しお時間をいただけませんでしょうか」


聞こえていないと思ったようで、ババーラシと名乗った若者が声を張り上げた。


 食事の打ち合わせを終えたギディが駆け付けて来る。


「すみませんが、本日はもう」


若者を遮ろうとしたギディが突き飛ばされる。


「従者は黙れっ。 私は長の息子、次の部族長だぞ!」


へえ、東の部族は息子に甘いようだ。


エオジさんが自分のゴゴゴの世話を終えて近付いて来る。


俺がグロンの背中から見下ろすと、出て来るなと合図された。




「ほお、部族長の息子さんは、よほど偉いとみえる」


エオジさんは、ギディに手を貸して立ち上がらせた。


「はっ、従者など、平民や下位の者とは比べものにならぬわ」


なんでそこで胸を張るかな?、どこにそんな要素があるの?。


アンタは父親が長だってだけの、ただの部族の若者でしかないでしょうに。


「では貴様は耳が遠いのだろうな。


殿下は本日はもうお疲れになったから下がれと言ったんだが」


聞こえなかったということにしてやろうというエオジさんの温情である。


ギディは俺の言葉に忠実に従って行動したに過ぎない。


突き飛ばされるようなことはしていないんだ。


 いかにも騎士なエオジさんが出て来て若者は焦りだす。


「わ、私の話を聞けば殿下も納得してくださるはずだ。 話をさせてくれ」


「ならば尚のこと、乱暴を働いたのは不味かったな」


うんうん、言ってやってエオジさん。


俺は、グロンの背から無表情で若者を見下ろす。


「チッ」


何故かエオジさんではなくギディを睨んで去って行った。


まったく、何しに来たんだろう。




 俺はグロンから降りて、ギディの側に行く。


「大丈夫?」


「あ、はい、まったく」


軽く身体を叩き、男が去った方を見ている。


「ちょっと様子を見て来ます」


そういうギディに俺はツンツンを付けてやる。


「ツンツンは気配遮断と魔力感知が使える。


今日は魔法を使っていないから魔力は余ってるはずだ」


驚いた顔のギディの背中にツンツンが這い上がって行く。


「ひぇ」


「大丈夫だよ、ツンツンは小さいからギディをかじったりしないさ」


俺とエオジさんで顔を見合わせて笑うと、ギディは背中を気にしながら、その場を離れて行った。




 砦の食堂で夕飯を食べていると、ギディとツンツンが戻って来る。


俺がツンツンを撫で回している間に、エオジさんはギディの食事の用意をしてくれた。


 東の部族は砦の広場にテントを張っているそうだ。


「かなりの人数で来ていますね」


肉を頬張りながらギディは小声で話をする。


「報告は後でいいよ。 ゆっくり食べな」


こくんと頷くとギディの食事のペースが上がる。


いや、だからさ、ゆっくり食べろって。




 俺たちは八人なので、砦の兵士用の部屋を借りた。


広めの部屋に八つのベッドがある。


木製のかったーいやつだけどね。 布団もペラッペラだし。


俺はそんなのは構わないんだ。


野営もそんなに変わらないからさ。


 全員が一部屋なのはありがたいよ。


砦の責任者に礼を言って、部屋に戻って防御結界を発動する。


「何かあったんですか?」


事情を知らない副隊長が眉を寄せた。


エオジさんが簡単に説明すると、むうと黙り込んだ。


代わりに事務方の青年が口を開く。


「あの部族は何というか、王都の部族や王家をあまり良く思ってないですよ」


結構前から、らしい。


「へえ、じゃあ話って何だろう。 予想出来る?」


ここでホーディガさんが予想外の話をし始める。




「私でよろしければ」


副隊長であるホーディガさんは、ここにいる八人の顔を見回し、ここだけの話として外に漏らさないことを約束させた。


「以前から東の部族は隣国ヤーガスアとの距離が近いんです」


他国民の取り込みが進んでいるせいで、祖父母や親戚が他国に居る者が多いという。


 中規模国のヤーガスアは元々ブガタリアとは同じ民族。


しかし近年、その容姿がイロエストに近くなっているというのだ。


ヤーガスアとイロエストは国境線も長く、川や山といった明確な境がない。


「交流が盛んといえば聞こえは良いですが、イロエストはそこまで甘くない」


大国イロエストと、ブガタリアと同じ発祥の武寄りの国ヤーガスア。


「それで、ヤーガスアはブガタリアをどうしよってんだ?」


エオジさんが首を傾げる。


俺は何か嫌なものを感じて、ゾクリとした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ