二乃〖love letter box〗
いつかこの扉をあけて、勇者様がきてくれる。そんな昔のアニメのワンシーンを何回も何回も頭のなかで反芻する。
勇者様なんて、こないのだ。だってわたしは魔法使いではない。特別な存在じゃあないのだ。わかっていても、いつか、この心の扉を開いてくれるような、この目の前の扉をあけて、ごめん、待たせたって、きてくれたらいいのに。
本日二回目の目覚め。
薄暗い部屋のベッドから起き上がるといつものドアを見つめる。今日もドアはぴったりと閉められたまま、誰かの気配もない。
ギシ、立ち上がるとスプリングが軋む音をたてて、そのまま自らドアを開ける。
とうに始業時間をすぎた時計、今日も、起きられなかった。
いや、起きなかったんだけれど。
のろのろと準備を始める。
あ、唇が切れてる、いつも気が付くと歯でむしってしまうから。そんなことするまえにリップクリームでも塗らなくちゃ…
11時ちょっと前の授業の合間までには学校に着こう、着かなくちゃ、そう決意したはずなのに、気づけばカーテンも開けないまま、安いリップクリームをくるくると何度も何度も唇に塗りつけていた。
もう、いいか。
布団は自分を守る小さな膜の様だ。
わたしは、その布団にくるまって時が過ぎ去るのを待つ。
チカチカと光るスマホが連続音をたててわたしを呼びたてる。
二乃~~やすみ?大丈夫?
ずる休みでしょ~~二乃ちゃんはやくきて~~!
何時にくるかんじ?
有難いことだとわかっている。きっとみんな休み時間なんだろうな、学校にいる所謂いつめんと呼ばれる数人がみんなバラバラに連絡をいれる。ひとりひとりに返事を送るともう一度、わたしはわたしの膜に潜り込む。
きっといつも無理をしている。
生活にプレッシャーに感じている。
心のなかには水面張力でかろうじて溢れないコップがあるようなもの、他愛ない刺激ですら、わたしのコップは溢れだして雫が目から溢れ落ちる。
ああ、いつまで、こんな毎日が続くんだろう。
いつかこの扉をあけて、勇者様がきてくれる。そんな昔のアニメのワンシーンを何回も何回も頭のなかで反芻する。
考えるのはやめよう。わたしは魔法使いではないのだから。二乃は喉の奥からあがる熱いなにかを飲み込んでまた目を閉じた。
「If Today Was Your Last Day」
わかってはいるけれど。
ニッケルバックの、ぜひ和訳を。
最高です。