第七話「幸せ」
陰由良杏里
回想
どうしてこうなった。
元から俺は良い暮らしをしていた。
誰もが羨ましがっていた。
俺だって楽しかったし幸せだった
あいつらが居なければ
小さい頃からキッズモデルとして沢山活躍していた。褒めてくれるし気分は良かった。家の環境も良かった。
誰よりも幸せだったと思う。
鶴北財閥の手で俺たちの家族はめちゃくちゃにされた。耐えきれなくなった親は対立し、そのまま離婚。母さんはその事があって死んだ。父さんはどこにいるのか知らない。あんなに幸せだった家庭があいつらのせいで粉々になった。
所詮自分たちよりも裕福で幸せな家庭が目障りだっただけだろ。
あぁ、母さんに会いたい__
モデルは辞めなかった。そうしないと俺自身が居なくなってしまうんじゃないかって思った。
俺の居場所はここしかないのかもしれない。
またアイツらが事務所に来た。今日は息子の響を連れて。あの父親は俺の方を見て笑ってくる。憎たらしかった。
何故かあの男の息子は俺とよく話そうとする。
いつだって初めましてが決まりだった。毎日毎日お前の存在を消すしか俺の心が落ち着かないから。安心して暮らしたい。でも、あの幸せが戻ってきたらまた繰り返し負のループがおきるに違いない。
ある日事務所に俺と同じ年齢の新しい子が入ってきた。
名前は
雪白翼
入りたくて入ってきたような輝かしさがなかった。自己紹介の時には何も発さなかった。教育もまともにされてないなんてこんな酷い親も世界にいるもんだな
雪白翼も業界で知られるようになった。俺とも共にする機会が増えた。
「俺の名前は陰由良杏里、翼くんよろしくね」
なんだか年下と話しているように思えた。外見だけ綺麗にされて心は何も綺麗にされなかったただの空っぽの人間。可哀想に。
「ぼくは…ゆきしろつばさ」
本当にそれだけしか話さなかった。気色が悪いなんて初めは思った。けど、日を重ねるごとに助けてあげたいと思った。
あの子とは話す機会が増えた。小学校もまともに通っていなかったと聞いた。
その時の俺は多分唖然としていた。
俺は母さんがしてくれたように翼には笑顔で接した。ちゃんと感情を知って欲しいし優しい人だって世界には沢山いるんだって教えたかった。母さんから貰った愛を投げ捨ててはいけない、そう強く俺は感じていた。勉強と仕事で忙しい時は見れなかったけど翼に少しは外に出ていいと許可が出た為、俺の家で小学校の勉強から教えた。これが中学一年生の頃だ。
すごい楽しそうだった。
初めてキラキラしたこの子の目を見た。最初は死んだような目をした人形と呼ばれたあいつがどんどん成長していく。
ちゃんと母さんみたいにできてるかな__
俺は私立光ヶ丘学院に入学した。翼は親がこの学校に行かせることが夢だったらしく嫌でもアイドル科に入学させたらしい。裏口入学だ。俺は翼がどこかに行かないように毎日アンテナを張っている。いつか本当に死んでしまうんじゃないかと思う時もある。
友人を作るのは得意だ。ただ優しそうな笑顔で接すればいい。この頃は変な男とよく話す。今宵美影って奴。1番をめざしてるとか馬鹿な話しか聞かないけど久しぶりに結構笑った。残酷な現実なんて知らないような純粋な目をして
アイドルになる
って張り切ってて本当に珍しいやつだと思った。前の幸せとは違うけど楽しい
鶴北響もこの学校に入ったと聞いた。親の力で入ったのは言われなくてもわかる。別に響自体は嫌いではなかった。鶴北の血で響ができている事が気持ち悪かった。
3人で階段を下りている途中、いじめに会うあいつを見た。美影がすぐに殴りに行くから俺は逃げようと思った。俺まで助けてくれた扱いはされたくなかった。
可哀想だな。俺を見ているようだった。
俺はまた、響にこう言うんだ。
「俺の名前は知ってるらしいけど…どこかであったかな?人の名前と顔を覚えるのが苦手だもんで…まぁよろしくね。」




