第三話「5月」
今宵美影視点
桜も散り綺麗な葉が枝につく5月
俺はあの握手から二人とは話すことがなかった。
話しやすい友人ができて中学の頃の日常のような生活に戻っていった。
ここの学校は普通科の授業と同じ授業を受け、たまにアイドル科の特殊な授業を受ける。大して普通の高校と変わらない。入学前に憧れていた頃とのギャップを感じている。
この頃は特待生がいるやらで学校中が騒がしい。俺はそんなことよりもいつになったらユニットを結成しアイドルらしく活動ができるのか、それが知りたかった。だがその話がされることは何一つなかった。
ここはアイドル科のクラスであるのか
悩みは増える一方であった。
昨日もらったチラシのことを思い出す。夢を諦めることは出来なかった。チラシではあまり知られていないユニットが講堂でLIVEをするということが書かれていた。
夢への熱が冷めないように、俺はそれを恐れた。
講堂の中に入ると中にはほとんど人がいない。自分の思っていた想像とは全く違う光景が広がる。
アイドルが目の前にいる
なのに集中して見ることが出来なかった。自分の想像していた講堂の風景と全く違う。その事ばかりが脳裏にちらつきLIVEを楽しむことができなかった。
オリジナルの曲なのだろうか。安っぽい衣装
静かな講堂で周りを見渡す。
少し遠くにだが周りとは違うオーラを放つ二人を目にした。
陰由良杏里と雪白翼
彼らは人を惹き付けるオーラ、誰よりも眩しいオーラを放っていた。
誰とでも話せる俺でも話しかけにくい。
思い切って両手で手を振って大きな声で彼らを呼ぶ。
二人は気づいてくれた。
杏里は微笑みながら小さく手を振ってくれた。翼は虫を見るような目でこちらを見てきた。
「どうしたの」
そう杏里は問いかけ、この異様な講堂について聞くことにした。
「本当に何も知らずにここに入学してきたんだな。」
呆れたような表情をする翼。
「特待生でもないアイドル科の連中のLIVEなんて誰も得するはずがない。LIVEをするユニットは観客に来た人数で成績が変わる。…特待生でもない普通の俺達のような生徒のLIVEを見に行っても別に成績は上がる訳でもない。 その成績はアイドルとしてのランクにも繋がる。そのランクが上限を足せば特待生になれる。あとは家柄とかで特待生になれたとか言われてる同級生もいたね。」
「僕からも言ってあげるけど…夢を見たって叶うはずがないんだから。君もあのさっき居た子達になりたいの?」
「え…、じゃあ俺どうすんの」
理解ができなかった。確かに入学前とのギャップで不安ばかりだった。こんなあっさりと夢が壊れるなんて想像もできなかった。
「馬鹿なの?…まぁこんな話裏話に過ぎないんだけど。杏里だって特待生になれるぐらいの実力はあるのに学校側が嫌ってるんだもん。あまり目立ってしまう生徒もダメなんでしょ?別になりたくてアイドルになったわけじゃないし僕はいいんだけど」
裏話?特待生?…金?
話の意味がさっぱり分からない。
「…んー、まとめるとお前は一番にはなれないってこと。これでわかったかな」
俺に対してこの言葉だけは絶対に聞きたくなかった。
必死で勉強してやれるものを探して、やっとの思いで入学できたんだ。小さい頃からの輝かしい夢がこの一日で潰された気がした。
なんだかやっと現実に戻ってきたような気がした。




