第二話「自己紹介」
今宵美影視点
式が終わり廊下に出れば今まで見たことのない景色を俺は目にした。
"スゲェ…これが光ヶ丘"
目にするものは全て初めてのものばかりであった。普通の高校ではない、これがアイドル科なのだと改めて実感した。
誰もを笑顔にするアイドルになりたくてこの私立光ヶ丘学院を小さい頃から夢見ていた。金持ちでもなんでもない俺は勉強も実技もすべてを完璧にこなさなくては受かることが出来なかった。そんな俺が夢だった光ヶ丘に入学できたこと、親の反対を押し切ってでも努力してきたことに空を見上げ拳を握りしめた。
自分の席に座った途端妙に視線を感じた。入学式で隣だった2人とは縦並びで挟まれ前の席にいる紫頭のヤツが俺をじっと見ている。なんとか無視をしながら時間が経つのを待っているうちに気の合う生徒同士が仲良く話し始めグループができはじめていた。
私立光ヶ丘学院はアイドル活動をする中でユニットを作ることができる。広場などを使ったLIVEを行うことができるらしく専用の衣装もそれほどの経験を持ったユニットは学費から出されるそうだ。ずっとそれが俺にとって憧れだった。アイドルユニットを結成して将来もアイドルとして頂点をとる、そんな夢心地の気分でいた。
まずは誰かと話すことから始めよう…と辺りを見回しても孤立しているのは前の席と後ろの席の2人だけで。一体この席の順番は何で決められているのか…、嫌な席を引いたと内心思った。
交互に2人を見る。
「お前ら名前は?」
近寄り難いオーラを放つ2人に、これでもかと負けじと怖そうな態度を取りながら話すと後ろの席にいた黒紺色の性格悪そうな女みたいなヤツに
「それ?僕に言ってる?まずは自分の名前から名乗るのが普通じゃないの?」
いかにもな言葉を言われる。内心キツ過ぎて心が折れかけた。俺は入学前から沢山練習した自己紹介を今ここで見せてやろう、そんな気持ちで
「俺は今宵美影、トップアイドルになる男!覚えてて損はないと思うぜ!」
ニヤッとした表情で満足気に親指で自分を指す。だが相手には響いていないのか益々機嫌の悪そうな顔で
「トップアイドル?お前が?」
睨むような表情でそう言われる。コイツとは無理だ!!そう思っていた矢先、俺をずっと見ていた紫頭の男が「まあまあ、」と面白そうなものを見たかのような表情で話しかけてきた。
「この子は雪白翼、で、俺は陰由良杏里。よろしくな。トップアイドル♪」
この2人は幼なじみらしい。仲良くなれないと思っていたが何故か妙に落ち着く2人であった。何人話し相手がいても困らないだろうと言う気持ちで
「よろしくな!杏里に翼!」
俺は手を差し伸べた。杏里と握手をする。
「なんで僕まで…」
嫌そうな表情をする翼の手に杏里が手を引く。
これが俺達の初めての自己紹介。
ただの話し相手にはちょうどいい相手か、なんて自分も思っていた。




