五.五話 クレティア=ローズの出立
.五話 等と付く話はサブストーリーのつもりで書いています。
同時刻、ある馬車の中では三人の貴族の娘が楽しく談話を交わしていた。
その中の一人は侯爵の地位を持つ娘、クレティア=ローズ。二人は一つ下の伯爵という地位を持つ娘だ。
彼女らも王妃という地位を目指し、グレイラット学園の受験に向かっていた。
「ふふふ、やっぱりクレティアが最強ですものね」
「ええ、私は当然王妃になるわよ! ……確か、あんた達も入学はしたいのよね?」
「そうですよ、やはり王妃を決める為のグレイラット学園、そこに入学さえ出来れば箔も付くのですからね。頼りにしてますよ」
「任せなさい! 私に護られてれば合格なんて余裕よ」
「流石クレティアです!」
自信満々のクレティアと、それを取り巻く二人の女子。やけに楽しげな空気が流れているが、クレティアは最後家を出る際にお母様に向けた言葉が少々心に引っかかっていた。
時は少し遡り、彼女らが馬車に乗る前夜、ローズ家の食堂にて。
ローズ家は今こそ希少性は薄れているが、代々、女を当主として動く家系だ。故に女性が強い時代の最前線を引っ張る家の一つとして家名を高めていた。
「クレティア、分かってますね」
「ええ、承知してますわお母様。必ずローズ家の次期当主として王妃の座をもぎ取って来ますわ」
「そうです。今回ばかりは、失敗は許されません」
クレティアは対面で紅茶を飲むお母様を見つめる。
「それとクレティア。何度も言いますがあの子達との交友関係は程ほどにしなさい。今回ばかりは譲歩しましたが、貴女は少し友達に対して入れ込み過ぎです」
「またその話? もう耳にタコが出来るほど聞いたわよ、断るわ」
互いに断固とした口調で交す。
「いいですか、本来私達のいう交友関係とはギブアンドテイクの関係でしかないのですよ。私達は下の者を護る代わりに、下の者は雑務をこなして報いる。それを私達は交友関係と呼んでいるに過ぎないのですよ」
「だから護っているじゃないの」
「護りすぎだと言っているのです。貴女のそれは過保護でしかありません」
「沢山護って何が悪いと言うの?」
徐々にクレティアの態度に苛立ちが現れる。右足の爪先を小刻みに動かし、口元のティーカップを握る手に力が入る。
「そんなことでは、いつか裏切られると言っているのです。甘い汁を啜っているだけの貴族を放置していたら、いつか裏切られますよ」
「お母様はあの子達の事を悪く言いたいのかしら? 薄情者だとでも?」
「いえ、」
「いいわ、分かったわよ」
クレティアは口元に置いていたティーカップを静かに皿に戻すと、席を立ち上がった。
「お母様とは分かり合えないということがね。あの子達を悪く言うのであれば、お母様でも許さないわ」
鋭い眼光を放つクレティアは、お母様が何か言おうとしても、聞く耳を持たずに部屋へと戻っていった。
お母様も苛立ちを隠さないままにメイドに食器を片すよう言いつける。立ち上がり、クレティアの寝室へと向かい扉に手をかけたが、固く閉ざされていた。
お母様は何かを諦めると、自身の寝室へと戻った。
そして現在、クレティアは母親に見つからないよう家を抜け出し、この馬車に乗っていた。
「………」
「あら、どうしましたか」
「ねえ、私って過保護だと思うかしら?」
「………えっと、それはどういう?」
「いえ、何でもないわ。何か暇つぶしになるようなものないかしら?」
「でしたら────」
そうして、クレティアは心にもやを抱えたまま会場へと向かっていった。