戻ってきた者のエピローグ
ビルの屋上。
そこには男女が一人づつとラジオが一つ。
そのラジオからニュースが流れる。
話題は一週間程前に東京都の渋谷上空に現れ、そのまま落下した正体不明の謎の施設についてだ。
「私は火星からテレポーテーションしてきたのだと思います」
「テレポーテーション？」
「ええ、実は火星には地球とは比べ物にならないレベルの文明があり、あの施設はその文明の何かしらのトラブルの結果だと考えています」
ラジオから流れる評論家か学者だかの的外れな予想を聞いて思わず男が吹き出す。
「火星ねえ……どうにもこの手の奴らは宇宙人って奴が好きだね、何故パラレルワールドって言う発想が出てこないのか、そうは思わないか？」
話を振られた女はただ一言「そうね」とだけ答える。
「あー、上の空ですか、まあ気持ちはわかるぜ？ 十数年振りに帰って来たと思ったらこんな事になってるんだからな」
男の目線の先にはビルに取り付けられたモニター一面に大きく映し出された新首相となった男が映っていた。
女はその姿を確認すると屋上を後にする。
男もその姿を目で追うだけで、特に何かしようとはしていない。
「ねえ」
女が立ち止まり、振り返る。
「後悔はしてない？」
「その質問、そっくりそのまま返すよ」
ふっと、笑ってみせる男。
「ねえ、もし私があの時本当に……」
死ぬつもりだったとしたら？
……いや、やめておこう。
自然と言葉が止まる女。
「ん？」
「いえ、なんでもないわ」
女はまた屋上のドアの前へと進む。
「なあ！」
今度は男が呼び止める。
「俺は後悔してないからな！」
男の言葉に少し驚いてみせた女だったが、直ぐに平常心に戻る。
「知ってるわ」
女は笑顔で答える。
そのまま扉を開き屋上を後にする。
男は女が見えなくなるまで見つめた後、空を見上げる。
「これからが最後の仕上げだ」
空は雲ひとつない青空だった。
