鴨志田一「Just Because!」(メディアワークス文庫)感想
11 Just Because!
(ジャストビコーズ!)
(鴨志田 一/2017年11月/メディアワークス文庫)
新聞広告(たしか産経)でのメディアワークス文庫
新刊案内で知りました。
この一作だけがイラスト入りで大きく紹介されており、
ああ、今月のプッシュはこれなのだなと。
イラストは、電車内にてやや離れて座る制服男女。
それぞれうつむき、別の作業をしています。二人とも
つまらなそうに、でも実は互いを意識しているかのように。
おお、いいな。どう見ても、これは王道青春物。
今夜の仕事帰りに買おうと決めました。
直後、題名をネット検索してみたら、新刊のはずなのに
たくさんヒットして困惑。
えっ、どういうことだこれ。作者も同じだから、同名の
別作品でもないようだし。
調べてみると、実はこの作品はアニメの原作小説だった
のでした。
しかも、既に放映はかなり進んでいるようで、各話ごと
に感想を熱く語るファンの文章が、ネット検索結果に
何ページもずらり。スゲエ。相当の人気作らしい。
それらを眺めるにつけ、この作品は明らかにアニメが
メインで、小説の方はどちらかというとおまけ的な位置
付けなのかなあと私は思いました。
小説が好評だったから改めてアニメ化したというわけ
ではなく、あくまでアニメ制作と小説連載(2017年10月号
より「ダ・ヴィンチ」にて)は同時進行のように行われ、
作者はその両方に関わる、という方式だったみたいなので。
じゃあ、小説単体としては余り楽しめないかもしれないなと、
ある程度覚悟しつつ読み始めました。
この予感は、まあ、それなりに当たりました。
率直に言って、ラノベとしては(小説としては)濃さが
足りないかなと。
ページごとの情報量がやたら均質なのも気になりました。
読んでいても何か一本調子なんですよね。
通常、小説には、急激な場面転換があったり、複雑な
情景描写、心理描写が延々と続く箇所があったりします。
漫画化や実写化が困難な部分で、言わば小説ならではの
表現手法です。
ところが、この小説にはそういうものが見当たりません
でした。多分、作者御自身の頭の中で、明確な絵が(映像が)
既に完成されていたからではないでしょうか。
アニメ制作現場に参加することによって。
もっとも、逆に言えば、この小説、読めば読んだだけ
スルスルと場面が思い浮かぶので、そこは新鮮な感覚でした。
最終的には、読者の好みの問題なのかもしれない。
さて、物語は高校生活終盤が舞台です。
受験勉強、残り少ない登校日、受験、卒業。
その合間を縫って、慌ただしく恋愛する少年少女。
そう、「君に恋をするなんて、ありえないはずだった」に
似た設定ですが(過去記事参照)、あちらはスタートが
高三「の夏」でしたからね。
受験や卒業近しとはいえ、学校行事として球技大会や
文化祭は残っていました。
片や、こちらは、何と高三の二学期の終業式がスタート。
しかも放課後。
私は、読み始めて早々にずっこけそうになりましたね。
作者さん、あなた本当に高校生活を描く気あるんですかと。
もはや書くところがないじゃん。どうすんの、これ。
表紙イラストの制服、嘘じゃあるまいな。
しかし、まあ、もちろんというか、杞憂でした。
初日から一度に大量のイベント発生。青春濃縮還元。
転校生は来るわ(男。主人公)、そいつは旧友と再会して
野球の勝負をするわ、片想いしていた女の子にも再会する
わ(ヒロイン)、旧友は別の女の子へ告白しようとするわ。
何か映画のオープニングみたいだなあと、ちょっと感動。
さすがヒットアニメ、こりゃ面白そうだぞと、私は
早速「つかまれ」てしまったのでした。
そのあと、「レールの下にぶら下がる形の懸垂式
モノレール」が出てきました。
私は、「何だか俺の地元の湘南モノレールみたいだな」
と思いました。
そしたら、実際にそうでした(苦笑)。
読みながら「ええっ」と声を立ててしまった。
何と、偶然にも私の地元が舞台だったのです。
(私自身はモノレールは使わず、横須賀線で東京まで
遠距離通勤しています。)
後日、気づいたのですが、自宅最寄り駅の駅ナカの書店に
この本が平積みにされ、「当駅が舞台です」といった宣伝の
張り紙までありました。全然知らず、別のお店で買っちゃい
ました。ご、ごめんなさい。
というわけで、舞台は湘南・鎌倉。
主人公・瑛太は中二の三学期に福岡へ転校し、今回、
再び戻ってきたわけです。
高三の三学期のみ、ほとんど卒業のためだけに転校した
つもりだったのに、初日から三角関係が再開したという。
そう、ヒロイン・美緒は瑛太の旧友・陽斗が
好き。
瑛太はそれを知っており、美緒も「知られていること」を
知っています。
その他には、
・陽斗は、美緒が自分を好きなことを知らない。瑛太の
美緒への想いには気づいている
・美緒は、瑛太が自分を好きなことを知らない
・そこへ、更に別の後輩女子も絡んでくる
結構な修羅場ですが、希望もある感じですよね。
実際、話は余り暗くならず、皆、悩みながらもさわやかに
進んでいきます。
男同士の友情やライバル心もしっかり描かれており、
この辺の「ラノベらしくなさ」が心地よかった。
とはいえ、瑛太は美少女に近寄られる頻度が高めで、
どちらかといえば女の子に「モテめ」でしたけどね(笑)。
ここは若干、ラノベ寄りかな。
小説作品としては密度が物足りないと前述したけれど、
言い換えれば、ストーリー上、外せないキャラやシーンが
無駄なく配置されていて、読後は心の中に太い線がスッと
引かれた感じでした。