五十嵐雄策「終わる世界の片隅で、また君に恋をする」(電撃文庫)感想
9 終わる世界の片隅で、また君に恋をする
(五十嵐雄策/2017年5月/電撃文庫)
タイトルにもう一工夫欲しい。ありがち過ぎです。
実際、「これ前にも買ったっけ」と書店で迷ったほど。
この作品に限らず、ラノベには時々ある現象。
一般に、ラノベの本は外装ビニール付きで立ち読み不可
なので(お店や作品にもよるけど)、結構切実。
で、もし買わずに帰宅し、「実は読んでない作品だった」
ことが後で判明しても、じゃあ改めて買うかというと、
そこまで興味もなく結局買わない、なんて例も。
これ、私だけじゃないと思うのだけど。
(今回は買ったわけですが。未読だと判断し。)
しかも、今回のこれ、明らかにタイトル負けしています。
世界がどうのとか、そんな壮大な話ではなく、一つの
高校の、しかも限られた人物のみでほぼ完結するのです。
表紙イラスト(ぶーた)は真顔で背中合わせに立つ
制服カップル、本自体は約300ページの厚さ。加えて、
意味ありげなこのタイトル。身構えちゃいますよね。
謎解きへ挑む大冒険学園ファンタジー、みたいなのを
想像しちゃいました。でも違った。
いや、むしろ違ってホッとしましたけど。文は軽めで
ゆったり、ところどころシリアス。
あき時間にストレスなく読み進めました。
物語は大きく四話に分けられ、章立てというより
オムニバス形式。短編集に近いです。
ヒロインの少女と主人公の少年は、二人で「忘却病
相談部」をやっています。
忘却病とは、
・五年ほど前に世界で発生。個人単位で罹患
・原因、予防・治療法等、一切不明
・症状は、ある時点で世間から忘れ去られ、同時に本人
も姿を消す(どこへ消えているのかも、生死すら不明)
・その人と関わった者全員が、その人の記憶をなくす
といった物なのですが、記憶や存在が何もかも消える
というわけではなく。
実は、追加として他に若干ややこしい設定もあり、
・ただし、忘却病で消えた人が過去に残した痕跡は消えない
・写真、映像、名前の記録も残るし、誰もが見られる
・家族や友達だった者も、消えた人と過ごした日々の
ことは「客観的事実」として覚えているが、顔、名前、
声、温もり、交わした感情は一切忘れる
という法則もあります。
ちょっと分かりにくいですよね。まあ、作者としては、
・その人が「存在した・生きていた」とは何か。突き詰め
ればどういうことなのか
・その人の顔や名前の記憶、あるいは交わした感情を
全て抜き取られた「思い出」とはどんな状態で、それに
価値はあるか
といったテーマに取り組みたかったのかなと。
だとしたら深いです。
ただ、この物語はあくまでラノベの体裁を保っています。
主人公とヒロインでやっている忘却病相談部も、作中の
活動は「主人公の少年が、美少女からの依頼を受ける」が
基本ですからね。ラノベのお約束は押さえています。
主人公の少年は、忘却病にかかった美少女たちから、
「私が消える前にデートしてください」などの「男として
おいしい」依頼を受けては、それを叶えてあげるわけです。
(忘却病は「余り親密でない知人から段階的に忘れられて
いく」ため、本人も自覚症状として気づくことができる。)
もちろん、ヒロインとのラブコメやドタバタもあり。
基本、男性読者が気分よくなる展開になっています。
全四話中、最初の三話では、それぞれ別の美少女からの
依頼を相談部が受けます。
そして、最後の四話目で、ついに主人公とヒロインが
物語の当事者となるのですが、果たして忘却病の正体とは。