成田サトコ「らくだい魔女はプリンセス」(ポプラポケット文庫)感想
63 らくだい魔女はプリンセス
(成田サトコ/2006年10月/ポプラポケット文庫)
(絵・千野えなが)
今回は、児童書を取り上げます。
東京駅で、期間限定のグッズ販売をやっていまして、作品名はそこで知りました。
原作は何冊にもわたってシリーズ化、さらにはアニメ映画化もされています。
興味が出て、最初の一冊だけ買ってみました。
ただ、あんまり有名な作品ではないみたいです。
というのは、これ以降、私は注意して、意識的に本屋や街なか、テレビなどで「らくだい魔女」を探してみたのですが、見かけることはなかったからです。
特定の層に根強く支持されてはいるものの、一般にはちょっと知られていない、という位置づけのようです。
そのグッズ販売自体も、お客は少なかったですし。
むしろ、だからこそ、せっかくの機会だからレア本を買っておこう、という考えもあったわけですけどね。
(私は、ネットでの買い物はしませんので。)
舞台は、魔法の国。四つの大陸と、九つのお城。
その内、三つの国の姫、王子が(皆、まだ子供です)、三人で冒険をするお話です。姫が二人(その内の一人が、らくだい魔女です)、王子が一人。
幼なじみ同士で仲良しですが、姫のうち一人が(もちろんというか、らくだい魔女じゃない方の子です・笑)王子に片想いしているなど(……そしてもちろん、王子はどちらかといえば、らくだい魔女に優しいのです・笑)、淡い恋愛絡みもあったりします。
イラストでもアニメでも(アニメは、チラシで絵をちょっと見ただけですけど)、魔女は短いスカート姿でほうきにまたがり、空を飛びます。
男性読者としては、スカートがヒラヒラして中が見えそうになって……みたいなお色気にも期待してしまうところですが、少なくとも一巻では、そういうのはなかったです。
お名前からして、作者は女性のようですし、対象読者もどうやら女の子。男目線はお呼びじゃないみたい。
ほかにも、本書で、冒険の途中、一緒に服着たままで湖に入って、髪や体を洗ったり泳いだりする場面が出てきます。
水から上がった後、らくだい魔女が、自分が履いているスカートを絞るシーンも。男としては、こらこら、狙ってるのかお前、って感じですよね(苦笑)。下着見えちゃうってば。
男の子である王子としては、姫に見とれて、ソワソワ落ち着かなくなるのが自然ですよね。
姫の方も、男の子と一緒に着衣のまま泳ぐのは、恥ずかしいと思うんですけどね。
でも、そういった性衝動や恥じらいの描写はゼロ。サラッとスルーされていました。まあ健全で良いんですが、やや白々しいというか、作者はとぼけ過ぎじゃね? とは感じましたね。
文体は、主人公であるらくだい魔女こと「フウカ」の一人称。話し言葉の、非常にくだけた語り口です。
カタカナによる効果音も多用され、場面描写は雑です。具体的に、今、何をやっている所なのか。それが思い浮かべにくく、力わざが目立ちます。
ああ、今は飛んでいるんだなとか、王子が苦しんでいるんだなとか、頭で考え、大まかに情報を足しながら読みました。
話の展開も割と単調で、意外性は大して味わえません。
まあ、逆に言えば、流れは分かりやすかったですけどね。禁じられているとは知りつつも、子供同士、親には内緒で、好奇心で進んでいくうちに、気がつけば戻れなくなって……というね。よくあるやつです。
一旦は帰宅して後日に改めて出直す、みたいにはならずに、そのままラストまで引っ張ってしまう感じでした。
もっとも、私が昔読んでいた児童書も、実は、こんなふうに一本調子だったかも。
あんまり複雑にされても、子供は覚え切れないし、飽きちゃいますからね。子供たちには、これぐらいの情報量がちょうどいいのかもしれません。
その方が、一冊が短く済みますしね。本を一冊読み切った達成感は、読書習慣を定着させるという意味では大事です。成功体験となりますので。
まさに、成長期に読む本ということなのでしょう。
ラストでは、圧倒的に強そうな偉い老魔法使いやら、王子のライバルになりそうな別の少年やらも一挙に登場し、物語はまだまだこれから! という感じで、盛り上がっていました。魅力的なキャラクターがズラリ。
なるほど、こうやって、シリーズを通して、多くの子供たちを夢中にさせていったのだろうなあと思いました。