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岬鷺宮「あした、裸足でこい。」(電撃文庫)感想

62 あした、裸足でこい。

(岬鷺宮/2022年9月/電撃文庫)


 主人公の少年、坂本さかもとめぐりは、高校に入ってすぐ、二斗にと千華ちかという美少女と恋人同士になります。

 いきなりリア充!……と思いきや。


 ところが、ところが。

 その後、二斗にとは、音楽の才能が認められ、努力もあり、有名なシンガーソングライターとなります。

 一方のめぐりは、友人も少なく、勉強にも部活にも打ち込めず、だらけた高校生活を送ってしまいます。

 せっかく彼女になった二斗とも早々に疎遠となり、単に「一時期付き合っていた」というだけの関係に。


 物語冒頭は、巡の卒業式の場面で始まります。

 大学受験にも失敗し、来年度から浪人生。散々です。後悔というより、無気力さとともに家路につこうとした時。

 何と、歌手の二斗(芸名は英字表記のnito)が、遺書らしき物を残して失踪したというニュース速報が流れます。


 巡は激しく動揺します。今でも、二斗のことが大好きだから。

 巡は、後輩の少女・真琴まことと共に校舎へ戻り、天文同好会の部室へ入ります。そこは、1年生の頃、二斗と束の間の楽しい時期を過ごした思い出の場所。


 部室にあるピアノで、二斗の歌のメロディーを巡が弾いたところ。

 突然、超常現象が発生して、巡は、3年前の入学式の日へタイムリープするのです。


 リープ先では、「これは幻覚だ」と思いつつも、クラスでの自己紹介を真面目にやるなど(3年前はウケを狙って滑り、クラスで浮いてしまった)、ちょっとはマシな行動を取ります。

 あとは、たとえ「幻覚」とはいえ貴重な機会なので、天文同好会の部室へも出向き、二斗に会います。(これは3年前と同じ。)

 それから、「このときは色々期待してたのに、このあとの3年間は駄目だった。後悔だらけだ」などと、「幻覚」の二斗へ愚痴り、何げなく、ピアノで同じメロディーを弾きます。(当然、これは3年前とは違う。二斗も困惑。)


 すると、巡は現在へ(つまり、二斗が失踪した卒業式の日)戻ってきます。

 そばにいた真琴まことも、「ぼーっとして、どうしたんですか?」などと言ってきます。恐らく、「幻覚」は、誰にも気づかれない、一瞬の出来事だったようです。


 しかし。

 再び外へ出て、まだ正門付近にたむろしていた友人たちと会話すると、巡はびっくりします。「歴史」が変わっていたから。

 具体的には、余りしゃべったことがないクラスメイト男子たちが、親しく話しかけてきたのです。

 彼らは、いつの間にか、「弁当を一緒に食べて仲良くしてきた友達」になっていたのです。巡のプライベートを詳しく言ってきたので、決して、演技してふざけているわけではない。


 それどころか。さらに。

 真琴も、「私、おかしいんです。さっきのピアノの件のあと、記憶が変わりました」などと打ち明けてきます。友達がほとんどいなかったはずの巡に、「友達がたくさんいた」という別の記憶が、新たに加わったというのです。

(すなわち、ピアノのそばで巡と一緒にいた真琴は、タイムリープのパラドックスに巻き込まれ、歴史改変前と改変後の、新旧両方の記憶が残っているということ。)


 どうやら、このピアノ演奏をきっかけとすれば、現在と3年前とを、行き来することができるようです。

 ならば、二斗が失踪しない未来を作れるかも。よし、過去をやり直して、もっと積極的な高校生活を送り、二斗の気持ちにもしっかり寄り添うぞ、巡はそう決意します。


 まずは、「改変前の1回目」では廃部となってしまった天文同好会を、存続させようと考えます。

 あの廃部が、巡と二斗を遠ざけた一因だった気がするからです。


 と、以上、ここまでは面白かったです。

 当初こそ、なあんだタイムリープ物か、ありがちだなあと思いましたが、2回分の記憶が混在する協力者・真琴の存在が新鮮でしたし、意外と本格SF路線で行くのかなという期待感も湧いてきました。


 ところが。

 高校生活のやり直しが始まった途端、全然、話が進まなくなっちゃって。


 天文同好会の部員集めにせよ、二斗の音楽活動にせよ、エピソードが長かったり多かったりで、読んでいてもどかしかったです。

 作者としては、巡と二斗の日常、みたいなのをじっくり読ませたいんでしょうけど、私は余り興味が持てない。そういうのはいいから、早く失踪の原因を教えてよと。


 いつしか、本は終盤に差し掛かっていましたが、何と、初っ端の天文同好会の件すら、まだ解決していないというていたらく。おいおい。

 あれっ、もしかしてこれ、1冊じゃ終わらないの? 続き物?

 と、遅ればせながら、ようやく私は気が付きました。


 結論としては、そのとおりでした。

 これにはがっかり。だったら、表紙に「1巻」とか書いてほしかったですね。(多分、私は買わなかった。)


 別に、シリーズ物が駄目と言ってるわけじゃないんです。

 ただ、いかにも単体作品みたいな体裁で売り出すのなら、せめて、その本の冒頭で発生した問題は、同じ本の中でケリを付けてほしいです。


 本書で言うならば、最低限、二斗の失踪と遺書の件は回避したところまで書いてから、終わらせるのがマナーだと私は思うんですけどね。

 その上で、新たな問題発生・以下次巻! とかなら、全く文句はないんですが。


 ついでに書いておくと。

 主人公とヒロイン、どちらにもさほど魅力を感じませんでした。本1冊分ならともかく、とてもシリーズ物に耐えられるキャラクターだとは思えません。


 巡は、1度目の高校生活を無気力に送った怠け者です。

 それが、二斗を救うため一念発起するわけですが、どこがどう変わったのか、よくわからないんですよね。葛藤する描写が少ないためでしょうか。

 そんな、これといった取り柄もない巡が、二斗とあっさり恋人同士になれたのも謎。


 例えば、


・本当は有能なのだが、恥ずかしがり屋で消極的なのでそれを発揮できない

(ただし、その場合は二斗と会話することすらできないはず)


・陽気な性格だが、お調子者で努力が嫌い

(ただし、その場合は友達が少ないということはあり得ないはず)


・無気力だが、二斗への想いだけは誰にも負けない

(本書を読んだ限り、そこまで熱い描写はない)


 以上のようなキャラであれば、共感も出来たんでしょうけどね。

 色々と、ちぐはぐな印象でした。


 一方の、ヒロイン・二斗。

 優等生風だが、だらしない一面もある、みたいなキャラでしたけど、男性読者として、私はときめかなかったです。

 近々、シンガーソングライターとして大成するはずなのに、その気配も感じられないし。

 変に奇をてらった不思議ちゃんよりは、いいですけどね。でも、あっさりし過ぎているのもどうかと。


 巡が二斗と過ごすシーンも何だか淡々としており、男子特有の「俺は今、美少女と二人きりなんだ! うおお!」といった、思春期の戸惑いと興奮が伝わってきません。

 もっと、二斗の体温、息づかい、色気や存在感をリアルに感じたかった。


 で、私はその後、書店にて、この本の2巻を数回見かけたけれど、ちょっと手が伸びなかったです。

 まあ、みさき鷺宮さぎのみや先生は、ラノベ界で既にベテランですし、固定ファン向けのシリーズってことなのかなあと思いました。

(まあ、俺だって一応、固定ファンの一人ではあるんだけどさ。)

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