筏田かつら「君に恋をするなんて、ありえないはずだった」(宝島社文庫)感想
7 君に恋をするなんて、ありえないはずだった
8 君に恋をするなんて、ありえないはずだった そして、卒業
(筏田かつら/2017年4月・7月/宝島社文庫)
まず御注意。上が本編で下が続編では「ありません」。
二分冊です。
とりあえず前者を買って、良かったら後者も買おう、
は成り立ちません。中途半端にぶった切られていますので、
二冊セットで読むしかない。事実上の上下巻です。
こちらのサイト「小説家になろう」で発表後、まず文庫
一冊分を書籍化したためです。バタバタしていたのかも
しれませんね。作者もあとがきにて謝罪しています。
まあ、というわけで、文庫二冊分の長編。
オタクっぽいさえない少年と、派手な美少女(一応
クラスメート)に偶然接点ができて、交流が始まります。
またそのパターンかって思いつつも、面白かったのは、
二人の距離の「縮まらなさ加減」。
いつまで経っても一定なんですよね。緩いドキドキが
細く長く続いていく。これ、なかなか新鮮でした。
カップル成立の明確なイベント(告白やキス等)は
発生せず、進展なし。でも自然消滅もなし。
もっとも、消滅しない最大の理由は、女の子側が積極的
に何度も会おうとしてくるから。
この辺はラノベのファンタジーってことで(笑)。
物語の最初からして、「一回手助けをしたくらいで、
お礼に手作りクッキーはないだろー」と思いましたし(笑)。
あと、この手の小説で私がいつも不満なのは、主人公の
少年が「モテない割に女慣れしてること」なんですよね。
この話でも、冒頭にて、困ってるヒロインに自ら声を
かけて助けたり、自宅へお礼に来たヒロインを駅まで
送ったりを、主人公はごく普通に実行していますが、
「いやいや、それができたら苦労はないでしょ(苦笑)」
とツッコんでしまった。
高校時代の私にもできなかったはず。非モテには無理。
作者あとがきに、「現実にありそうな物語を目指した。
ラブコメっぽい夢のある展開を期待すると裏切られるかも」
などとありましたが、いやいや、何をおっしゃいますやら、
初っ端から十分ラブコメしてます(笑)。
ところで、この物語には他にも新鮮な特徴があり、
高校が舞台なのにスタートが高三でした。
普通はもっと手前ですよね。
これは作者も明確に意識したそうで、「受験勉強し
ながら恋愛に四苦八苦する高校生」を書きたかったと
(あとがき)。
残り少ない高校生活で、行事で思い出も作って、受験も
気になって。だんだん三年生は登校日も減って。
クラスメートもぽつぽつ休みがちになって。
これ、私には最高にツボでした。
私の高校時代の思い出も、ここの辺りが最も切ないから。
私自身、高校を卒業してから既に二十年程度は経ちますが、
未だに当時の夢を定期的に見ます。
そして、夢に出てくるのはほとんどが卒業間近の二月、
三月なのです。
こういう人、結構多いんじゃないかなあ。特にラノベ読み
には(笑)。調査したわけではないけれど。
その意味では、作者には、もう、よくぞここの時期を
集中的に書いてくださいました、という感謝の心持ちでして。
さて、物語で、主人公とヒロインは主に予備校帰りの
駅や電車で交流します。
冬、誤解の後にはそれすら途切れ始め、「学校で会うと
したら次の登校日、それを逃すともう卒業式しかない」と
焦り出すのです。
早く何とかしろよ、高校生活終わっちゃうだろが。
と、私も物語へぐいぐい引き込まれていったのでした。
文庫本二冊は埋まらなかったのか、正直「ちょっと
水増しかなあ」と感じた箇所も終盤にはありました。
でも、それも許せてしまった。
本の帯で、上白石萌音が「ずっと物語の中に居たいと
思った」とのコメントを寄せていたけれど、まさしく私も
そのように思ったからです。