神田暁一郎「ただ制服を着てるだけ」(GA文庫)感想
57 ただ制服を着てるだけ
(神田暁一郎/2021年7月/GA文庫)
第13回GA文庫大賞、金賞。
主人公は今年30歳の独身男性。毎日忙しく働くコンビニ店長。
最近ハマっているのは、毎週、雑居ビルにあるJKリフレ店へ通い、個室で女の子と遊ぶこと。
本物の女子高生はいません。二十歳前後の若い女性が制服を着て女子高生のコスプレをして、お客と遊ぶのです。
いわゆる性風俗とは違い、内容はマッサージや添い寝、おしゃべりです。
主人公は、毎度、同じ女の子を指名します。ヒロインですね。19歳。
ただ、店ではいつも一緒にゲームをして終わり。体に接触しようともしない。
ヒロインの女の子は、「店の経営状況は楽じゃないので、定期的に通ってくれてうれしいし、いつも私を指名してくれるのも有り難いけど、何でこんなに淡白な態度なんだろう。男としての性欲がないわけでも、私に恋してるわけでもなさそうだし。何が楽しいんだろう。何考えてるんだろう」と、ずっとモヤモヤしています。
このヒロインは複雑な生い立ちで、住所を転々としており、半年ほど、あるフリーターの男性と同棲中。
が、ある日、けんかして家を飛び出してしまいます。
で、ここからはラノベの定番展開でしょうが、流れで、ヒロインは主人公の家へ転がり込み、二人の同居生活が始まるわけです。
同居生活は、女の子が作ってくれた料理を、男性が戸惑いつつもおいしく食べるなど、ラブコメ的な場面が増えていきます。
しかし、読んでいても、私は余り楽しくなかったです。理由は、主人公が潔癖で、ヒロインを性的に一切求めず、その理由が作中でなかなか語られないから。
これ、きっと、終盤で物すごいトラウマが明かされるパターンなんだろうなあって思った。
ヒロインは、一方的に与えられてばかりの立場が不愉快で、主人公を性的に誘惑しようとします。でも、リフレ店の時と同様、主人公はかたくなに拒否。
その独善的な自己満足に付き合わされるのがだんだん苦痛になってきて、やがてヒロインはキレてしまい、物語は山場を迎えます。
小説は、主人公視点、ヒロイン視点に何度も分かれ、格差社会で苦労する人々への(例えば、コンビニ店員に絡む貧しい酔客や、性産業で働く女の子など)怒り、自己批判や差別意識、同情等も、かなり容赦なく描写されます。
はっきり言って、(作者御自身もあとがきで述べていますが)ラノベレベルではありません。
恐らく、作者御自身がこういった世界を身近に知っていらっしゃるか、あるいはよほどの勉強・取材をされたのでしょう。
一方で、コンビニ店員の女性たちは(つまり、主人公の部下たち)、男の願望そのままの、いかにもなラノベ的・アニメ的キャラで、楽しく読みました。
神田暁一郎先生は、これがデビュー作。
恋愛観や、理想の女性像や、社会への問題意識や、そういうずっと書きたかったことを幾つも幾つも、この一冊へギュッと詰め込んだ印象。
余りスカッとは出来ませんでしたが、若い熱意があふれ出してる感じで、情報量は多く、読み応えは十分でした。