赤城大空「二度めの夏、二度と会えない君」(小学館文庫)感想
6 二度めの夏、二度と会えない君
(赤城大空/2017年8月/小学館文庫)
(大本は2015年、ガガガ文庫刊行)
実写映画が2017年9月1日全国公開、今最もノッてる
ラノベの一つ。愛称「ニドナツ」。
バンド、難病、恋愛、タイムリープ。
高三の夏、難病を克服した美少女が転校してきます。
名前は燐。
燐は陽気でエネルギッシュ、周囲を巻き込み、受験を
控えた高三の夏だというのにバンド結成、秋の文化祭を
目指し練習することに。
バンド構成は男子二人、女子二人。
他に、仲間として生徒会長(女子)。バンド活動禁止の
校則を変えるべく、教師や親を相手に奮闘。
物語は、この五人の少年少女を軸に展開します。
燐は先天性の心臓疾患で、今まで普通に学校へ通う
ことができず。
が、心臓移植が成功して健康体となり、伝説のバンドの
出身校であるこの高校へ転入してきたのです。
自分もバンドを組み、彼らのようなライブをしたくて。
その後、燐たちのバンドは秋の文化祭に出演し大成功。
しかし、直後に燐は倒れて入院、命を落とします。
周囲には隠していましたが、実は心臓病は治っていな
かったのです。転入直前に新たな異常が発見され。
無理して学校へ通えば余命三か月。
一方、再入院し延命治療を受けつつ医学の進歩を待つ
なら、かすかな希望はあるかもと。
燐は前者を選択し、予定通り転校してきたわけです。
さて、燐に対する主人公は、クラスメイトの少年です。
少年は、燐に巻き込まれてバンドでギターを担当。
名前は智。
智は燐に恋心を抱いており、燐が亡くなる前日、病室
にて「好きだ」と想いを告白します。その場の勢いもあり。
が、「みんなを仲間として大切に思ってたのに、最後に
そんなことを言われても迷惑だ。出てって」と、取り乱した
燐から激しく拒絶されます。
こうして、後悔と共に燐を失った智は、無気力になり
部屋に引きこもってしまいます。
ところが、二か月後の冬、智は突然、半年前へタイム
リープするのです。燐と最初に出会った日。
人生をやり直せた智は、今度は慎重になろうと決意。
燐の病状と、未来を知っている自分がすべきことは、
・「好きだ」の告白は絶対しない(最優先事項)
・燐への恋心は隠し通す
・上記以外は一度目をなぞり、燐に最高の思い出を作らせ、
満足のまま一生を終えてもらう
だと結論付けます。
幸い、二度目もほとんど智の記憶通りに進みます。
が、時折、一度目にはなかったせりふや態度を燐が
発します。智に惚れているとも解釈できそうなのですが、
最後の告白を回避すべき智はそれに乗るわけにもいかない。
しかし、次第にずれは大きくなり、このままではライブ
成功も危ぶまれ。さあ、どうなりますか。
智にとっては二度目ですが、もちろん、読者にとっては
タイムリープ後からが初見の物語となります。
バンド結成までのドタバタやテスト勉強、夏祭り、
音楽フェスでのバイトなど、青春がギッシリ。
楽しく読みました。
ただ、私としては「読んだ順番が悪かった(苦笑)」
というのが率直な感想。
どういうことかといえば、以下の通り、私が最近読んで
きたラノベの中に、似ている物が幾つもあったのです。
まだ、こちらでは取り上げていない作品もありますが。
(後日紹介予定です。)
・病床での難病ヒロインとの対話…「君は月夜に光り輝く」
【より泣ける演出】
・想い人を失って引きこもりになった主人公がタイム
リープ…「二周目の僕は君と恋をする」【リープに必然性
あり。主人公とヒロインも一度目より進歩】
・過去をやり直す…「僕らが明日に踏み出す方法」
【理論がシンプル。読後感も良】
・受験勉強しつつ恋愛する高三…「君に恋をするなんて、
ありえないはずだった」【受験生の描写がリアル】
・ぶっ飛んだヒロイン…「君の膵臓をたべたい」
【キャラが立ってる】
と、いろいろかぶっているんですよね。
【】内は、より優れている点。
ただし、発表時期は「ニドナツ」の方が先です。
つまり、この作品には先見性があったわけで、すごい。
とはいえ、難病少女やタイムリープ、高校生バンドは
そもそも使い古されたテーマです。一つか二つ、強力な
見せ場を設けるべき。この作品にはなかった。
それと、難病物とタイムリープ物は相性が悪いと思う。
だって、タイムリープが起こるような超常的な世界なら、
心臓病くらい治ったっておかしくないじゃんと思うから。
時空はたやすく飛び越えるくせに、難病だけは治らぬ
ままというのは、感覚的に私は納得できないんですよね。