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新海誠「小説 天気の子」(角川文庫)感想

47 小説 天気の子

(新海誠/2019年7月/角川文庫)


 まさに今現在(2019年夏)、アニメ映画「天気の子」が大ヒット中。

 新海誠原作・脚本・監督。

 私も先日、映画館へ見に行ってきました。面白かったです。


 今回取り上げるのは、その小説版です。

 まあ、分類はラノベで問題ありますまい(笑)。


 ストーリーは映画と同じ。

 私は、映画を見た後に小説を購入し、読みました。

(まあきっと、最も多いパターンですよね。)


 ファン以外には余り知られていない可能性もありますが、実は、小説も新海監督が自ら書いているのです。

 映画製作と並行させて執筆し、映画完成より先に書き上げ、映画公開と同時期に出版。

 これは、前作「君の名は。」と同一の方式です。


 一応、文章の世界で20年近くご飯を食べている私から見ると、率直に言って、新海監督の文章力はどうにかプロレベル、のラインかなあと。

 うまくはないです。前作より書き慣れている感じはしましたけどね。


 読みながら、表記や句読点や改行に手を入れたくて、何度もウズウズしました(笑・職業病ですかね)。

 あと、ここは二、三行ほど説明を足さないと状況が伝わらんでしょ、みたいな箇所も散見され。


 出版までには、恐らく何名かの編集者や校閲のチェックを通っているはずですが、大監督に遠慮して、皆様、余り口を出さなかったのではないかなあ。

 もっとガンガン突っ込んで、赤入れをして書き直した方が、小説単体としては完成度が高まりますよ。


「いや、それでは駄目だろ。

 映画、インタビュー、そして小説と、輪っかのようにぐるっと新海誠ワールドを味わうことに意味があるのだから。

 そのためには、出来るだけ監督の生の表現で世に出すべきだ」

 といった御意見も一方ではあり得ますよね。それはそれで正論です。

 ただ、それだと、小説は映画の「ファングッズ」の域を出ないと思います。


「いやいや、何を今さら。元々アニメのノベライズ版って、良くも悪くもそういうもんだろ(笑)」

 といった御指摘もあるでしょうけどね。


 しかし、これだけ社会現象にまでなっている作品ですから。

 せっかくなら、小説も「すごいの」を作っちゃえばいいのに。

 その人材をそろえるだけの資金だって、あったはずですし。


 それこそ、遠い将来、アニメ作品の方が世間から忘れ去られても、小説単体で文学史の片隅に残り、ある日、アニメとは無関係の文脈で本書が再評価される、なんてことを狙うくらいの意欲を持ってほしかった。


 例えばアニメだって、どんなにストーリーが良くても、数か所の絵が雑だったがために、全体の雰囲気が壊れてしまうことがあります。

 小説も、数か所の句読点、改行の雑さや説明不足だけで、同じことが起こります。

 それらを減らすために、絵でも文章でも、何人ものプロが細部までチェックを入れるわけです。


 さて、では小説の中身を見ていきます。

 本サイトはラノベ感想が主眼ですので、その視点で考えます。


 もし、何の予備知識もなしにこの本を買い、一ラノベとして読み始めていたとしたら、私は最初の数十ページで放り出していたかも。

 純粋なラノベとしては、正直、つまらないです。特に途中までは。


 まず、初っ端から視点移動や時系列の行き来が激しく、場面が浮かびにくい。

 実際には、私個人は映画を見た直後でしたので、


・文字を目で追って、

・一瞬困惑し、

・映画の場面が補足的に思い出され、

・今どこで、誰視点で、何をしてるかが分かり、

・次の文字を目で追う


 この作業を繰り返していたわけですけどね。

 でも、結構くたびれますよ、これ(苦笑)。


 それから。

 読めば読むほど、頭の中に「これはおかしい」という「疑問」がどんどん溜まってくるのもストレスでした。


 例えば、物語冒頭で、高校1年の少年、帆高ほだかが、離島から家出をし、フェリーで東京へ行く場面があります。帆高は主人公です。


 帆高は、激しい雨を見るために一人で甲板へ出て、大きく傾いた船体にバランスを崩し、その場にいた中年男性の須賀に命を助けられ、お礼に船内レストランで食事をおごります。


 小説をここまで読み、自然に「ふーん、そんなもんか」と納得できる人って、そんなに多くないでしょう(苦笑)。


・高1といえば、分別が付く年齢。衝動的な家出は考えにくい

・かといって18歳でもなく、上京してまともに働くのは無理

・では、よほどの事情があるのか。そうとも思えない。高校中退や登校拒否の描写もなし

・また、命がけで家から逃げてきた風でも、精神を病んでる風でもなく、あるいは、おバカなキャラでもない


・帆高が、危険を冒して甲板で豪雨を見続ける動機が不明。一応「甲板を独り占めできる」との記述や、雨を浴び開放感に浸る描写もあるが、ちょっと弱い

・須賀がタイミングよく甲板にいた理由も不明。映画では当初、フェリー係員かと私は思ったけど、違う


・社会人中年が、高校1年の少年に2000円程度の食事をおごらせる思考回路に、全く共感できない

・社会人にとっては大した額ではなく、子供にとってはきつい額。まともな感覚の大人なら、それを未成年に出させる「気持ち悪さ」に耐えられないと思う

・須賀がホームレス同然とか、変人で孤独な男とかなら分かる。だが、そうではない


 これらの疑問は、当然、映画でも浮かんだのですが、巨大スクリーンでのきれいなアニメを見ていると、何となくごまかされ、意識の外へ流出していくんです。


 ところが、小説だと、場面を思い浮かべるのと疑問が浮かぶのとが同時であり、同じ速さや比重になりますから、どうしても頭に引っ掛かってしまいます。


 やがて、ヒロインの美少女、陽菜ひなが登場し(物語の核となる、ある能力を持っています)、帆高と交流が始まるのですが、そこへ至るまでにも至った後にも、やはり色々な疑問が降り積もり、もはや私はヘトヘトになっていました。


 結末知ってるし、もう、そんなに頑張って読まなくてもいいかなと投げやりになり、読むペースがガクンと落ちてしまったのでした。


 物語では、お金に困った帆高は須賀を頼ります。

 めでたく帆高は須賀に雇われ、住む場所も確保します。


 陽菜はアパートで弟と二人暮らし。

 わけありで、二人分の生活費は自分で稼いでいます。


 こうして、皆で協力して一日一日を生きていきます。


 でも、この辺りのシーンも、アニメでは小さな違和感だけで見ることが出来たのですが、改めて小説で読むと、やはり構成の甘さが気になりました。


 映画自体は楽しめたし、ラストにも驚かされたのですが、小説を読んだらストーリーや設定の欠陥が再び目に付き、かえって映画の感動が半減してしまいました。


 やっぱり、小説は小説で、アニメとは切り離して再構成し、小説専門のプロたちに任せた方がよかったのでは。

 きっと、粗もうまく隠してくれたでしょうし、文章ならではの面白さも引き出してくれたはずです。


 最後にもう一つ。


 新海誠監督は、この作品で少年少女の現代の貧困も描きたかったそうです。インタビュー等でそのようなことを語られています。

 つまりは、単なる娯楽作品にはとどまらせず、社会的なメッセージ性も持たせたい、との御意向なのでしょう。


 しかしながら、映画を見ても小説を読んでも、私にはまるでそれが伝わってきませんでした。


 遊び半分で家出して、東京へ出てきた少年が、無計画にさまよって、所持金が減って苦しくなっても、そんなのは自業自得ですよね。

 それは、いわゆる社会問題としての貧困とは別物でしょうに。

 だって、好景気の日本で少年が同じことをやっても、結果は変わらなかったはずですから。


 で、その少年がたまたま出会った相手が、「若くて、かわいくて、性格も良くて、小ぎれいな服装をして、清潔な部屋に住んで、だけどそれ以外は貧乏な」女の子。

 あり得んでしょ。


 そもそも、あんな美少女が困っていたら、周囲の大人が放っておくわけないでしょ。


 行政の支援についてアドバイスしてくれたり、条件の良いバイト先をあっせんしてくれたり、ストレートにお金をくれたり(風俗店で働こうとするシーンもあるのだから、申し出全てを断るとも思えないし)、入れ替わり立ち替わり、世話を焼く人が現れるはず。

 家出少年の出番はないぜっての(笑)。


 「天気の子」に社会派的な要素など、ほとんどないと思います。

 この物語は、貧困を便利に切り貼りしてアイテムにした、甘いファンタジーじゃないかと思うんですけどね。


 娯楽としてはよく出来ちゃいるけど、リアルに世相を反映させてるとか真顔で言われちゃうと(批評等も含め)、私なんかは、御冗談でしょうと笑いたくもなるのです。

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