佐野徹夜「君は月夜に光り輝く + Fragments」(メディアワークス文庫)感想
41 君は月夜に光り輝く + Fragments
(佐野徹夜/2019年2月/メディアワークス文庫)
以前こちらでも取り上げた「君は月夜に光り輝く」(2017年・略称は君月)は、その後、本のヒットあり、漫画化あり、今年三月には映画化もありで、今、一番ノッてるラノベの一つ。
これは、その登場人物のアナザーストーリー、別エピソード、後日談などを描いた短編集です。
雑誌での作品告知や付録用に書かれた物も多いです。
これらはちょっと、短編小説としては物足りないというか、あっさりしています。
短過ぎたり、妙に詩的だったり、どうしてもオマケ感、寄せ集め感は拭えません。
一つ一つは、新作小説というより、君月のキャラの雰囲気を楽しむ作品。
「君月のあのシーンの前後には、実はこういう出来事があったのです」的なやつですね。
私個人としては、君月を読んだのが既に二年近く前ということもあり、登場人物の名前すら忘れかけていました。
それがもろに響いたのが、本書中の「初恋の亡霊」。
これは、主人公「の友人」を描いたものなのに、私は当初、てっきり主人公を描いたものだと勘違いをしてしまい。
「えっ、君月の主人公って、たしか非モテ少年だったよね。こんなに色んな女と付き合ってたっけ?」と、とんちんかんなことを思う始末(苦笑)。
さすがに、途中で気付きましたけどね。
色々忘れてるもんですな。
そういえば、君月の感想を最初に書いたのはガラケーブログでした(後に、小説家になろうへ転載)。
当時、私はまだ「小説家になろう」も知らず、スマホも持っておらず。
何だか、随分と前みたいな気もします。
さて、そんな寄せ集め状の本書ですが、終盤に一編だけ、長めの作品があります。
「ユーリと声」。書き下ろし。
これも、主人公の友人(ちゃんと名前も覚え直しましたよ。香山です)を描いたものです。
君月の一件の後、大学へ進んだ香山は、特に目標もなく、授業も毎日サボり、女の子たちと自堕落に遊んでばかり。
しかし、ある日、不思議な雰囲気の年上女性と出会います。
レンタルレコードショップをやりつつ、ピアノの先生もやっています。
二つは同じ建物の裏と表で行っており、二階が女性の居住スペース。決して豊かな生活ではないが、何とかうまく回っていそうな感じ。
こうして、香山とこの女性との交流が始まるわけなのですが。
面白いかつまらないかで言えば、面白かったです。
ただし、ストーリーが作り込まれていたからとか、オチに驚かされたからとかではなく、とにかく意外な展開が続くから。
いや、意外というより、正確には「異常」ですかね。
とりあえず、先は気になるけど、でも「これ多分、物語としては破綻し、投げっ放しで終わるんだろうなあ」という予感が途中から強まってきて、読んでて気持ちがどんどん冷めていく感覚。
君月を読んだ時も、私は「こんな特定の狭い人間関係の中なのに、幾ら何でも不幸や暴力が集中し過ぎでしょ」と思いました。
前作「アオハル・ポイント」の時には、「問題解決のための手段が雑で極端過ぎ。そこまでやってしまったら、そんな程度じゃ済まされないはず」と思いました。
今回の「ユーリと声」も、変わった人と簡単に出会って、しかも簡単に距離が縮まって、その上、都合よく裏事情もくっついていて、しかもしかも……という流れで。
それとも、私が知らないだけで、今どきの若者の世界じゃ、こういうのって割とよくあるんですかね。
そんなことはないと思うんですが。
佐野徹夜作品で、物語がきれいにまとまっていて好きなのは、やはり「この世界にiをこめて」ですね。
また、ああいう作品を読みたいなあと期待しつつ。
一方で、私が佐野徹夜作品を買い続ける理由は、必ずしもストーリーを求めてのことだけではないです。
青春のはかなさや楽しさを、loundrawの絵と共に美しくパッケージして、読者にしばしの夢や幻想を味わわせてくれるから。
そしてそこには、ベテランの大作家などにありがちな、わざとらしさや押しつけがましさが余り感じられないから。
これが失われぬ限り、私は佐野徹夜作品を今後もコツコツと追いかけていくんだろうなあ、とは思っています。