海老名龍人「自殺するには向かない季節」(講談社ラノベ文庫)感想
5 自殺するには向かない季節
(海老名龍人/2017年5月/講談社ラノベ文庫)
こういう暗いタイトルは好みじゃないんですが、
女子高生が強い眼差しで振り返っている表紙イラスト
(椎名優)と、カバー下部に掛けられたキンキラの帯
(第6回講談社ラノベ文庫新人賞大賞を知らせる物)
にジャケ買い。
陰気な話でないことを願いつつ。
が、軽めの文体で読みやすく、どんでん返しもあり、
面白かったです。さすが大賞。
ヒロインは陰のある美少女。名字は雨宮。
親しい友達もなく、周囲から浮いています。一部の
女生徒から嫌がらせを受けている様子。
一方、主人公の少年も、他人と関わりたがらない性格。
名字は永瀬。雨宮とは(同じクラスだが)面識なし。
さて、物語は、朝の登校時の駅にて、ぶつかってきた
相手に永瀬が「死ね」と言う場面から始まります。
永瀬は家庭内が荒れ気味で(高三の姉が援助交際まがい
のことをしている)、いら立っており、相手を見もせず
衝動的に死ねと言ったにすぎません。
しかし、相手は直後に自殺。電車へ飛び込む瞬間を、
永瀬は目撃。
後で判明しますが、自殺者は雨宮でした。
普段、永瀬は学校の屋上で密かに(立入禁止だがこっそり
侵入)昼食を取っています。
そして、同じことをしている一人の男子生徒と話すのが
日課です。名字は深井。
深井も変わり者で、ひょうひょうとして、つかみ所がない。
永瀬は、深井に雨宮自殺の一件を打ち明けます。
話すうちに、「雨宮は何か苦悩を抱えており、いずれに
せよ近日中に自殺はしていたはず。だが、今回、自殺への
最後の一押しをしたのは永瀬の言葉(死ね)であろう」と
いう嫌な結論が出て、気分が沈む永瀬。
すると、深井は謎の錠剤を永瀬にくれます。
過去へタイムスリップできる薬で、もらい物で最後の
一錠だが、よければ飲めと。
夜、またも姉と両親が口論を始め、うんざりした永瀬は、
雨宮への罪悪感も手伝って、錠剤を飲んでしまいます。
結果、永瀬は二週間前へ戻れたのです。
錠剤の効果は本物でした。
ならば、永瀬がやるべきことは、雨宮に関わらないこと。
雨宮自殺の瞬間にそばにいさえしなければいいので。
が、失敗。
永瀬の不用意な言動によって、「雨宮が自殺を目論んで
いることを、なぜか永瀬が見抜いている」事実に、雨宮
自身が気付いてしまうのです。
それが原因で、永瀬は雨宮に興味を持たれてしまい、
一緒に雨宮の自殺方法(死に場所)を検討させられる羽目に。
図書館や渓谷や海を二人でリサーチします。
「さえない少年が努力なしに美少女と二人きりになる」
という「ラノベのお約束」が、ここで発動されたわけです。
二人で過ごすうちに、雨宮の複雑な事情も判明。
また、永瀬も、自分の生きづらさを見つめ直します。
同時に、タイムスリップの法則も分かってきます。
実は、きたる「その日」の雨宮の死は回避できない
ようなのです。命日は変えられず、死因を変える程度しか
できないらしい。
ならば、二人がなすべきことって何だろう。
ここで、物語は山場を迎えます。
読み終えて、惜しかった点が二つ。
一点目。自殺の動機が弱い。
筋は通っているものの、死にたくなるレベルかは微妙。
二点目は、タイムスリップの細部は読者の想像に委ねて
いること。
まあ、大枠のトリック(本当は誰が誰を助けたかった
のか)は成立していますけどね。
作者自身も細部までは考えていなかったのでは。
そうじゃないというなら、タイムスリップの相関関係を
読者へはっきり示すべき。
あとがきで図を書いて説明する方式でもいいので。
これは娯楽作品のマナーかなと。純文学なら曖昧も
可ですが、ラノベでやっちゃいかんでしょう。