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葉月文「Hello,Hello and Hello」(電撃文庫)感想

39 Hello,Hello and Hello

(葉月文/2018年3月/電撃文庫)


 第24回電撃小説大賞、金賞受賞作。


 ヒロインは、由希ゆきという名前の美少女です。

 街に出ると、周囲の通行人などが注目してしまう

ほどの美しさです。


 対する主人公は、春由はるよしという名前の少年。


 (ラノベにありがちな)さえない少年かといえば、

とりたててそういうわけでもなく、熱心な陸上部員

でもあり、同性の友人も異性の友人もおり、まあ

バランスの取れた人柄だと言っていいでしょう。


 部活など、こだわるポイントは幾つかあるものの、

基本的には事なかれ主義に近い、穏やかな性格。


 また、由希の前だと、その美しさやかわいさに

照れたり舞い上がったりしてしまう。

 この辺りも、まことに健全な思春期の男の子です(笑)。


 さて、物語の前半は、数章を費やして、由希と

春由との楽しい交流が描かれます。

 映画を観たり、陸上部の練習を由希が手伝ったり、

喫茶店へ行ったり。


 美少女といちゃつく少年。ああ青春だ。

 もう、コッテコテのラノベです(笑)。

 楽しく読みました。


 ところが、一点、おかしな箇所があります。

 そして、この違和感こそが、本作最大の

仕掛けなのです。


 それは何かというと、各章は、季節や

春由の学年等、時系列はしっかりつながって

いるにもかかわらず、なぜか、毎回、由希と

春由が「初めて出会う」場面からスタートするのです。


 由希が春由へ声をかけ、互いに氏名を名乗り、

自己紹介するシーンから始まる。


 それから、各章の終わりでは、由希が春由に

向けて、同じ「ある一言」を告げます。

 結構、おぞましい言葉です。


(三回目の辺りなどは、この言葉が出てくるのが

嫌で、先を読むのが怖くなってしまったほどです。)


 やがて、由希の事情が明かされます。

 命や時空に関わる、壮絶な背景です。


 では、その事情とは何なのか。

 あるいは、乗り越えるすべはあるのか。

 こうして、物語は山場へ向かって緊迫や

切なさをググッと増していきます。


 以下、読み終えた後の感想を。


 金賞を取れた理由として私が思い浮かんだ点は、


・仕掛けのシンプルさ

・テンポの良さ


・安定した読みやすい文体

・明るさやユーモアの多さ


・様々に変化する豊かな情景

・題名と内容とが見事に合っている


・女の子が何度も男の子に会いに来て

くれること(男性読者がうれしい)

・登場人物が皆、基本的に真面目で

前向きであること


 辺りですね。

 全体的には、面白かったです。


 しかし、大満足かといえば、そうでもなくて。

 幾つか、首をかしげてしまった点も。


 まず、由希が入り込んでしまった異次元的な

状況について。


 これ、きっかけが安易ですよね。


 そりゃあ、「そういう出来事」さえ起こせば

一応の説明は付くわけだけれど、そこはもう

世界中の作家がくぐった所で、誰もがあっと

いう間に思いつく物でしょう。


 悲惨さで読者をねじ伏せようという力業には、

私はちょっと感心しません。

(あくまで、金賞をもらう作品としては、

という意味ですので念のため。)


 何だか、由希が「無意味に不幸」なんですよね。


 「ね、大変でしょ。ね、かわいそうでしょ」と、

同情を押し付けられてる感じといいますか。


 次に、なぜか由希だけがそういう超常現象へ

巻き込まれてしまった、その動機付けの説明が

足りません。


 例えば、たまたまそのような時代の

巡り合わせに当たってしまった、とか。

(余談ですが、かの「君の名は。」は

その辺の処理がうまかったですよね。)


 又は、由希自身に何らかの特殊な

生い立ちや意志がある、とか。

 そういった説得力が欲しかった。


 現象自体は非常に面白い構造だっただけに、

そこがもったいなかったです。


 最後に。


 これほどまでの大仕掛けを用意したからには、

由希と春由がただ現象に振り回されるだけでは

なくて、やはり、


「実は、この現象には大きな抜け穴が

存在した(当然、それは伏線として

当初から張られている)。


 由希一人ではなかなかそれに

気付けなかったけど、春由と二人で

協力することによって判明。


 あとは、二人でそれを突破すべく頑張る。」


 というような展開も欲しかったですね。

(最終的に成功するにせよ、失敗するにせよ。)


 作者御自身がそのような熱い描写を

好まぬ作風であるならば仕方ないですが、

どうやら、そうでもないみたいですから。


 実際、終盤で春由がひたすら走る場面。

 あれ、素晴らしかった。

 熱くて熱くて、すごく良かったです。

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