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Akatsuki・片瀬チヲル「八月のシンデレラナイン 北風に揺れる向日葵」(ファミ通文庫)感想

38 八月のシンデレラナイン 北風に揺れる向日葵

(Akatsuki・片瀬チヲル/2018年4月/ファミ通文庫)


 スカートの制服姿で(なぜだ・笑)野球をする

美少女たちのイラストが表紙絵。アニメ風。


 書店にて本書を見つけ、「アニメのノベライズ

かな」と思いつつ手に取ると、そうではなくて、

元々はスマートフォンゲームアプリだそうです。


 ということは、キャラや設定は最初から

しっかり固まっているはずですし、人気が

あるからこそ小説化されたのでしょうし、

ハズレはないだろうなと、購入。

 予備知識は全くなしです。


(なお、Akatsuki氏は原作・イラスト、

片瀬チヲル氏は執筆協力、という分担。)


 舞台は、潮の香り漂う海沿いの、

小高い丘の上の咲浜さきはま高校。


 主人公は一年生の男の子。

 名前は、八上浩太やがみこうた


 中学時代までは、野球に夢中でした。

 ボーイズリーグの全国大会で活躍する

ほどの実力者。エースピッチャー。


 しかし、無理な投球数を重ね過ぎた

ことにより肩に大けがを負ってしまい、

野球の道をあきらめざるを得なく

なりました。


 自分のせいでチームを負けさせたのだ

という責任も感じており、精神的にも

疲れ切り、野球を避けたくなっています。


 咲浜高校には野球部はありませんが、

これは偶然ではなく、あえてそういう

高校を探した浩太。


 他の生徒に身近で野球をやられ、

気が散るようなこともないですからね。


 または、自分の過去を知る者も少なく

(他の野球少年たちが、野球部のない高校へ

わざわざ進学するはずがないので)、まあ

安心ですよね。


 さて。


 前述の通り、物語には女の子がたくさん

登場するわけですが、一応、中心人物がいます。

 「一応」と書いたのは、浩太ほどには

目立っておらず、「出番多め」程度だからです。


(恐らく、ゲームが原作という性質上、

読者・プレーヤー一人一人が自分好みの

美少女キャラを探す方式なのでは。


 だとすれば、特定の子をクローズアップは

しにくいのかも。)


 その女の子は、有原翼ありはらつばさ


 咲浜高校では、浩太のクラスメイト。

 実は、奇しくも、浩太とよく似た経緯で

この高校へ来たのでした。


 どういうことかといえば、翼も中学時代、

浩太とは別の場所で野球をしていたのです。

 唯一の女子部員として、男子野球部に

所属していました。


 高校でも、同じように男子たちと野球部に

入って、いずれ、願わくは(規則が変わって)

自分も甲子園で試合に出場するのが夢。


 ところが。


 中学最後の試合でもホームランを打って

大活躍したにもかかわらず、周囲は、

部員も大人も、「最後に、いい思い出が

作れてよかったね」「この運動能力を、

高校でも、陸上部とか、何か別の分野で

生かせたらいいね」といった反応ばかり。


 彼らには特に悪気はないだけに、

かえって翼は意欲をそがれ、疲弊します。


 それでもいろいろ手段を探すものの、

「翼が高校でも安定的に野球部を続けられる」

ことを保証してくれる人や学校は見つからず。


 最終的に、翼は野球を一旦あきらめ、

親友と同じ志望校へ進むことにします。

 たまたま、そこが咲浜高校だったというわけです。


 こうして、物語の歯車がかみ合い、

大きく回り始めます。


 野球をやっていた翼は、もちろんというか、

「中学野球のスター」だった浩太を知っており、

「なぜ、野球部がない咲浜高に来たんだろうか」

と衝撃を受け、声をかけます。(けがのことは

知らないのです。)


 一方の浩太。

 「野球部関連に興味を持つ人は入学しない

はずの咲浜高に、なぜ、自分の野球情報に

詳しい生徒がいるんだろうか」と、浩太も

驚きます。


 そして、互いに相手の事情を聞いた二人は、

やがて、新たな挑戦を始めるのです。


 それは、咲浜高に女子野球部をつくること。

 浩太は、翼から頼まれて、その部の監督を

務めることとなります。


 当面の目標は、もちろん、部員を増やし、

まずは試合が出来る人数をそろえること。


 次の目標は、他のチームと試合をして

経験を積むこと。


 最終目標は、制度を変えてもらい、

甲子園で試合に出ることです。


 ここまで読んだ時、私は、「この先、

小説はどう展開するのかなあ」と考えて

みました。


1 浩太は、女子部員たちの仕草や服装に

ドキッとしながら、時として、着替え中の

教室へ間違えて入ってしまう等のハプニング

も経て(実際、それを匂わせるイラストが

巻頭にあり)、思春期男子として戸惑い

つつも試行錯誤してゆく。


2 部員がそろったら、他校の女子チームと

練習試合。


3 何らかの公式戦。


4 「いつか甲子園に行くぞ」と改めて

誓ってラスト。


5 あるいは、ファンタジー展開にして、

特例か制度改正で、翼たちが甲子園で

試合するところまで書き切る。


 さあ、以上のどれかなあと。

 まあ、もし「5」だとしたら、相当な

テンポじゃないと無理ですが。


 ところが、読んでいくと、なかなか「2」が

始まらず、チーム内の問題とか、練習グラウンド

の確保(エピソード自体はとても素敵でした)

とかにページを取られ、いつの間にか本も

半分以上進んでいました。


 で、ようやく私も、「ああそうか、この

小説は、試合よりも、部内の人間模様を

中心に描くという方針なのかな」と

気付かされたのでした。


 ちなみに、上記「1」。


 これは、この手の小説なら男性読者は

皆が期待するはずですが、意外なことに、

読んでも読んでも全然出てきませんでした。


 体の線や着替え、着衣の乱れ等の描写は

なく、そこは非常に淡泊でした。

 よく言えば、健全で上品。


 ただ、部員が今どんな服装なのかは

もう少しちゃんと書いてほしかった。


 場面がしょっちゅう変わるのに、今は

制服姿なのか、ジャージ姿なのか、

あるいはユニフォーム姿なのか、それが

よく分からないため、情景を思い浮かべ

にくかったのです。


 最後に、全体を通しての感想を。


 正直言いますと、原案となっている

大元のゲームを知らずに小説単体として

読む場合には、ちょっと物足りないかなあ

と感じました。


 純粋な美少女モノなら、もう少しお色気的な

描写も欲しいし、野球モノとして見るには

試合場面が足りないし、意外性もさほど

見られないため、ストーリーそのものを

売りにするのも難しいし。


 ただ、登場人物それぞれの葛藤を

まっすぐ描いてゆく姿勢は一貫して

いたため、終始さわやかな気分で読めました。


 この安定感、安心感は、珍しいといえば

珍しいかもしれません。

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