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佐野徹夜「アオハル・ポイント」(メディアワークス文庫)感想

36 アオハル・ポイント

(佐野徹夜/2018年10月/メディアワークス文庫)


 佐野徹夜先生、第三作。

 前二作も既に取り上げています(過去記事参照)。


 イラストレーターloundraw先生の

表紙も、今や定番の観があります。


 しかし。

 今回は何だか絵に描き込みが足りないような。

 背景も余り描かれていませんし、構図も

ありがちで地味な印象。全体的に薄い。


 あれえ、大丈夫かなあ。

 ちょっと不安になりながら購入。


 正直、本書は佐野徹夜だから買ったのであり、

そうでなければ「ジャケ買い」はおろか、

本屋さんで積まれていても恐らく見向きも

しなかったでしょうね。


 売ろう、人を感動させよう、アマチュアを

圧倒しよう、そういう気迫と熱量が本から

全然伝わってきません。


 嫌な予感をモヤモヤと抱えつつ読み始めました。


 もう結論から書きますけど、この予感は

割としっかり当たってしまって。

 私は余り楽しめなかったですね。


 途中からなど、読書が進まなくなり、

結構「頑張って」読んでました。

 要は、話の先が気にならなくなって

しまったわけです。


 一作目「君は月夜に光り輝く」はベタな

難病物でしたが、逆に言えば、あるレベル

までの泣かせどころは「品質保証」がされて

いるわけで、実際、ラストは見事なものでした。

(実写映画化、おめでとうございます。

 2019年3月公開予定。)


 前作「この世界にiをこめて」は、死者から

メールが来るという不思議さ、しかもそれを

読者に納得させる形で種明かしした上で、

更なる高みへと向かいました。


 今作も、最初の方は面白かったんですよ。

 非常に良かったですね。

 もしかしたら、過去二作より良かったかも。


 それだけに、なおさら、そのあとが

残念でして。

 どうしてこうなった。


 では、以下、物語の設定等を御紹介。


 主人公の青木は高校一年。

 陰気めの、さえない少年です。


 あるきっかけにより、人の頭の上に

二けたの数字が浮かんでいるのが見える

ようになってしまいます。

 言わば超能力、超常現象ですね。


 青木なりの分析により、この数字は

その人の人間としての価値を示した

「ポイント」のようだと判明。

 平均が50くらい。


 なお、一つの数字を集中して見つめると、

ポイントの内訳を見ることも可能(ただし

疲れるのでこの作業は一日に二人程度が限界)。


 例えば、「テニス部員だから4点プラス、

イケメンだから6点プラス、空気が読めない

から4点マイナス」というふうに。


 ちなみに、鏡を見れば、青木自身の

ポイントも見られます。53ぐらい。平均的。


 が、鏡の前で髪型や身だしなみを整えると、

ポイントはすぐ54に上がるなどします。

 そう、数字は刻々と変化するのです。


 青木は、この謎の現象をせめて

有効に使おうとします。

(もちろん、現象のことは他人には秘密。)


 他人に対しては、身の安全の確保等に

役立てます。


 例えば、


「身の程をわきまえ、なるべく自分に

近いポイントの奴に近付く。


 高い奴らは敬遠する。でも、近付きは

しないものの、よく分析し、利用できそうな

ところは自分にも取り入れる。


 逆に、低い奴らは避ける。利用価値が

ないから。むしろ、関わるととばっちりも

受けやすいし。」


 という感じで。


 一方、自分に対しては、少しでもポイントを

上乗せするために役立てます。


 もっとも、急に陽気な性格にもなれないし、

まして外見も変えられないので、実質的には

服装や持ち物を研究するくらいしか手段は

ないのですが。


 でも、何もしないよりマシです。

 事実、青木はほんの少しずつ自分の

ポイントを上げていきます。


 その最終的な目標は、現在の高校生活も

将来の社会人生活も含め、出来るだけ無難で

安全な人生を、要領よく送ることです。


 ああ確かに、いそうだなあ、青木みたいな

こういう奴。

 私は読みながらそう思いました。


 というより、この能力をもし授かったら、

俺も似たようなことをやりそうだなあ、と

すら思え、共感しました。


 さて、そんな青木にも、唯一の

楽しみがあります。

 それは、昼休みに視聴覚室にて

美少女クラスメイトと二人で会い、

一緒に昼食をとりつつ談笑すること。


 美少女の名字は成瀬。

 ひょんなことから、接点が出来たのです。


 毎日ではなく、視聴覚室へ行って、

成瀬が「来たら」その時間が始まる、

という流れ。


 なお、成瀬のポイントは74。


 青木も、54の自分がまさか成瀬と釣り合う

とは考えておらず、このささやかな幸せさえ

続くならそれで十分、という姿勢。

 前述の「人生観」とも一貫してますよね。


 ところが。

 その日々を壊される出来事が起こります。

 まあ自業自得なんですけど。


 青木は、クラスメイトたちのポイントを

「内訳」込みで授業中にこっそりノートへ

書いていたのですが(全員ではありません。

先述したように、内訳の分析は疲れるので

一気には書けない)、ある日、そのノートを

うっかり他人に見られてしまうのです。


 ノートを盗み見た者は、クラスメイトの

女の子です。名字は春日。


 青木が内心「バカの春日」と呼んで

軽蔑している、外見にも性格にも取り柄が

見当たらぬ女子。ポイント、42。


 ノートを見た春日は、「私のポイントも

教えてほしい」と頼んできます。

 弱味を握られた手前、仕方なく、

青木は真面目に教えてあげます。


 すると、春日は意外なことを

話してきます。

 自分のポイントを知りたかったの

にはちゃんとした理由があったのです。


 それは、春日はクラスのイケメン・曽山そやま

好きで、告白したいからだと。

 そのため、自分のポイントがどのくらいか、

聞いてみたかったのだと。


 なお、曽山のポイントは78です。

 少なくとも、ポイント上では勝負に

なりません。


 しかし、青木にしてみれば、春日と

曽山のポイント差の件は、否が応でも、

自分と成瀬にそのまま重なります。


 「バカの春日」のことなど放っておけば

いいのに、この時、珍しく青木は人間的な

良心、情動に駆られてしまうのでした。


 結果、青木は、春日に対して一つの

提案をします。

 こうして、二人は行動を共にすることに

なり、物語は展開していきます。


 読んでお分かりだと思いますが、

ここまではよく出来たストーリーです。

 長編三作目の貫禄というか、危なげなく

読者を引き込む、まさしくプロの仕事です。


 しかしながら。

 問題はこの先でした。


 余りに都合良く、あるいは唐突に、様々な

イベントや事件がセットされ、しかも、

それら一つ一つの描写が雑なんです。


・普通はそうはならないだろう


・もっと、別のやり方があるだろう


・普通はそこまでやったらその程度では

済まされないだろう


・そこまで引っ張っておいて「実は

こうでした」はなしだろう


 私は、読みながらそういった違和感を

何度も味わいました。


 また、必要以上に暴力的な場面も目立ち、

ちょっと力業が過ぎるなあ、とも。

 何だか、悪い意味で娯楽的・漫画チックで、

安っぽさを覚えました。


 小説が終盤に至る頃には、もはや、


・良く言えば、この後どう展開しようとも、

それなりの結末にはなり得る


・悪く言えば、この後どう収束しようとも、

スッキリした結末にはなり得ない


 という状態に陥ってしまい、じゃあ

わざわざ続きを読まなくてもいいじゃん、

などと私は感じてしまい。


 そのせいで、先ほど記した通り、読書が

進まなくなってしまったわけです。


 これは私の解釈ですが、恐らく

作者としては、


「現実は、小説のようにはいかない。


 例えば、これをやったからこうなった、

みたいな分かりやすい原因と結果がある

わけではない。


 また、人間にはポイントなど付けられない。


 しかし、だからといって、そのこと自体を

むやみに強調して特別視をしても意味はない。


 なぜなら、自分が持って生まれた能力以上の

逆転も、世の中ではまず起こらないからだ。」


 というようなことを、今回の作品では

描きたかったのかなあ、と思っています。


 安易にカタルシスを与えず、明確な

起承転結を設けない方針といいますか。


 仮にそうだとするならですが、

だったらば、刺激的な場面は極力

排除すべきでは。


 むしろ、いかにもありそうな平穏で

日常的なシーンを淡々と積み重ねていく

ことによって、丁寧にこのテーマを

浮き彫りにしてほしかった気がしています。


 最後に。


 「読み進めるのが途中からつらく

なった」旨を書きましたが、それでも

やはり、読み通してよかったです。


 ラスト一行は、今までの三作の中で

最もいいなと思いましたから。

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