新木伸「KB部」(MF文庫J)感想
34 KB部
(新木伸/2018年6月/MF文庫J)
「4コマ小説」というジャンルだそうです。
正確には、4ページずつで区切られた
読み切り集。
本書1冊で36話収録。
同一登場人物による連作です。
いわゆる掌編集とは違い、毎回ちゃんとした
ストーリーやオチがあるわけではなく、
緩やかな会話や軽いエピソードが出てくる程度。
ですから、しっかりオチが付いていないと
嫌だなあ、という読者には合わないでしょう。
気楽にスーッと読み流したい人にはおすすめ。
作者のあとがきによれば「ゆるふわ日常系の
青春コメディ」。まさにそう。
内容も陽気で、楽しく読めます。
話や文章の密度が濃くはないため、
恐らく、書く方もさほど御苦労は
されていないと思います。
(あくまでも、きっちりとセオリー通りの
ショートショートを4ページずつ書く場合に
比べれば、という意味ですが。)
当然、最初の設定を作るのは大変だった
でしょうけど。
物語の設定は、高校にて、女の子だらけの
部活動に男の子が一人だけ入り、他の部員から
イジられつつ楽しい日々を送るという、まあ
まことにラノベラノベした内容でして(笑)。
部活名はKB部、正式には軽文部。
文芸部ではありません(それはそれで
別にある)。
部室にはコタツやソファーがあり、
放課後、皆は思い思いに小説や絵本を
書いています。
時々、雑談とか紅茶、お菓子休憩を
挟みながら。
ネットや賞への投稿はせず、
内輪で楽しむのみ。
仕上がった短い小説は部員同士で
互いに回し読みをし合います。
そして、激しく批評し合ったり、ツッコミを
入れ合ったりするのです。
なぜ「激しい」のかと言えば、主な理由は、
主人公の少年(京夜。愛称はキョロ)が
書く小説にあります。
部員たちが登場人物として、そのまま
出てくるのです。
そりゃツッコまれますよね(笑)。
KB部員をモデルにした謎の部活「GJ部」
(グッジョぶ)のお話や、同じく部員たちを
モデルにした勇者や魔王がダンジョンで
食べ物を求めまくるファンタジー小説
「グッドイーター」のお話や。
本書が面白いのは、キョロが書いた
これら創作小説が、部活の日常風景
(つまり、作中の「現実世界」)と
全く同等に、やはり4ページの小説として
ひと続きに製本されている点。
そのため、当初、私は混乱し、
「あれっ、これはキョロが書いた小説か。
そうかそうか、それを今、KB部で回し読み
してる、ということか」
と、確認や納得をしながら読み進めて
いきました。
もっとも、よく見れば、ちゃんと本の
体裁などで分けられており、見た目で
区別できるようになっていましたけどね。
目次でも、「作中小説」は色分けされて
いましたし。
後から気付かされました。
4ページずつの小説が終わる度、次の
ページには、補足的にそれぞれの話に
まつわる漫画風イラストや解説風イラストも
載っていました。
イラストは、KB部やGJ部では制服姿、
グッドイーターではコスプレ風衣装(結構
セクシーです)。
それを見て笑ったり、「ああ、今読んだ場面
はそういうことか」と分かったり。
こちらも楽しかった。
(イラストは「あるや」。)
キョロは高校2年。
他の女子部員は5名で、学年も性格も
バラバラですが、もちろん、皆、美少女。
広くはない部室にて、コタツなどで
美少女に囲まれ、健康な高校生男子なら
正気を保つのも大変そうです。
が、キョロは草食系の平和主義者。
女の子たちの奔放さやかわいさに、
キョロも時としてドギマギはさせられる
ものの、基本的には大丈夫。自然体で
部活を楽しんでいる様子。
というわけで、全体を通じて、お色気は
余り出てきません。
でも、むしろ品があって良かったです。
読んでいて惜しかった点は、話が毎回
4ページずつで終わるので、登場人物が
うまく書き分けられていないこと。
4ページはあっという間です。
人物が少ししゃべるだけですぐ終わって
しまいますから、慌ただしくて、私は
誰が誰だか追い切れず、覚えられませんでした。
舞台が4ページしかないのに、登場人物が
最大6名というのは、やはり多過ぎる気がします。
結局、読み終えるまでに私がちゃんと
認識、区別が出来た人物は、キョロ、
部長、紅茶係の子の3人だけ。
まあ、私の読解力にも問題が
あるのかもしれませんけど。
なお、あとがきで知ったのですが、
前述の「作中小説」であるGJ部と
グッドイーターに関しては、これ以前にも
既刊本が別に何冊も存在しているそうです。
なるほどなと納得しました。
何だか、この本1冊のためだけに新しく
書き起こした設定であるにしては、妙に
作り込まれているし、書き慣れている
感じがしたからです。
もしかしたら、本書は新木伸先生の
作品世界の入門編、ガイドブック的な
位置付けにもなり得るのかなあと私は
思いました。