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道草よもぎ「学校の屋上から君とあの歌を贈ろう」(メディアワークス文庫)感想

33 学校の屋上から君とあの歌を贈ろう

(道草よもぎ/2018年8月/メディアワークス文庫)


 「幼馴染の山吹さん」以来、御紹介は二度目の

道草よもぎ先生(過去記事参照)。


 帯には「切ない涙より、喜びの涙を流したい。」

とあります。


 書店にてそれを見た私は、妙に納得して

しまいました。

 というのは、過去作「幼馴染の山吹さん」は

とにかく陽気で優しい小説で、適当にお色気も

あり、本当に楽しく読んだからです。


 あの作者なら。

 期待を込めつつ購入。


 で、読後の印象をいきなり書きますが、

泣けたかといえば、率直に言って、私は

泣けなかったです。


 ただし、「幼馴染の山吹さん」で見せた

取っ付きやすさ、明るさは、今作も健在。

 この持ち味は、次回作以降へも生かされて

ほしいですね。


 小説は、高校生がバンドを組み、様々な

出会いや困難を経て成長し、ライブを

成功させるべく奮闘努力してゆく、

という定番のお話。


 私は、前述の帯を読んだ時、本小説は

このフォーマットを忠実になぞり、熱く

濃厚なさわやか青春を存分に味わわせて

くれるのかなあと期待しておったわけですが。


 しかし、必ずしもそうではなく。

 いや、作者は恐らくそのつもりで書いたの

だろうけど、何か空回りしている感じで。


 以下、そのことに少しずつ触れながら、

物語を追ってみます。


 時期は、高校に入学して一か月。


 主人公・恭一きょういちは一年生の少年。

 大柄で無口、校則違反のドレッドヘア。

 クラスでは浮いており、友人も幼馴染みの

美少女・萌子もえこのみ。同じく高一。


 二人は中学時代、別の男子二人と計四人で

ロックバンドを組んでいました。

 恭一はドラム、萌子はベース。


 しかし、バンド内の「別の男子二人」

との間で起きた衝突がトラウマとなり、

恭一は二度とバンドなんて組みたくないと

絶望します。


 卒業後、その男子二人は別の高校へ進学。

 言わば、萌子は恭一の事情を知る数少ない

理解者なのです。


 私がまず感じたのは、このトラウマ設定が

余り練られていないなあ、ということ。


 まあ、いさかいの原因には納得できます。


 でも、そのあとのトラブルの内容が

無意味に暴力的で、陰気で、重いんです。

 幼稚な割には手が込んでいるし。


 また、中学時代、このバンドは文化祭ライブ

を成功させたのですが、「そのライブをやった

バンドの内情は、実はこうでした」というのは

ストーリー上どうなのよ、と思わざるを得ません。


 さて、ここまで書いておいて、まだヒロイン

のことには全く触れていません(苦笑)。


 分かりにくくて済みませんが、ヒロインは

萌子とは別に存在します。


 恭一のクラスメイト、名前はちとせ。

(とても素敵な名字なのですが、それは是非、

本書でお確かめください。)


 全体の物語は、ちとせがギターを弾きながら

放課後の校舎を走り回り、軽音楽部の勧誘を

しているところへ、恭一とばったり出会う

場面から始まるのです。


 さあ、ここまで書けば、話の構造は

予測が付きますよね(笑)。


 恭一が楽器演奏経験者である事実を

ちとせが見破り、恭一をバンド加入へ

説得するのが第一段階。


 当然、恭一は激しく拒絶しますが、

ちとせも簡単にはへこたれません。


 もし、バンドを組めたら、次はドラム、

ギター、ベース以外のメンバー募集。

 これが第二段階。


 発表場所の確保までが第三段階。

 そして、待ちに待ったカタルシス。


 いざ、チャレンジ。

 どこまでたどり着けるでしょうか。

 盛り上がりそうな展開です。


 ところがですね。

 ここでまたも、詰めの不十分さが

目に付いてしまって。


 まず、ギタリスト・ちとせのキャラクター。


 「楽器好きの活発な美少女が他人を

巻き込んで大暴れ」というのはよくある

設定です。

 「二度めの夏、二度と会えない君」にも

出てきましたし(過去記事参照)。


 ちとせも、そのコピーという感じ。

 それも、さほど優秀でないコピー。


 何せ、せりふもわざとらしいし、

性格も不自然に感情的なんですよね。

 突然頭突きをしてきたり、泣き出したり。


 圧倒されるほどの変人でもなければ、

ほろりとさせられるほどのいい奴でもない。

 引っ張ってほしくもならないし、

守ってあげたくもならない。


 何だか中途半端なキャラで、私は「あんまり

関わりたくない子だなあ」と感じてしまいました。


 それに、ギターがやたらとうまいのは

いいんですが、そこまでの才能が高一まで

埋もれていたのも、ちょっとせないです。

 それでいて、音楽への熱い想いは誰にも

負けない。どことなく、いびつな感じ。


 そりゃあ、世の中にはそういう人も

いるかもしれないけれど、ラノベの

ヒロインとしてはやや普遍性に欠ける

というか、バランスが悪くないですかね。


(ただし、安易に「難病」へ逃げなかった

のは素晴らしい。この点は拍手。)


 それから、ちとせはある特殊能力を

持っています。

 この能力は、物語を進める上で非常に

効果的で、良かったです。


 でも、あと少し、ラストの辺りでも

使えたんじゃないかなあと思いました。


 例えば、特殊能力の限界値を超える

演奏を、何と自分が実現してしまい、

思いがけぬ景色が見える、とか。


 次に、担任の男性教師。

 味があって、一応は共感できましたね。


 生徒に理解を示しつつも、こびることも

なく、適度に事なかれ主義でもあり、

それなりに使命感もあり。


 ただ、この教師も、何だかキャラの

作り込みが足りないんですよね。

 若者が、頑張ってオジサン言葉を

しゃべってるみたいで。


 私自身は、世代的にも立場的にも

この教師へ最も感情移入出来ただけに、

妙に意識してしまったようですね。


 読みながら「いやいや、大人はそこで

普通、そうは言わないぞ」などと一人

ツッコんでました(笑)。


 そして、この小説最大の見せ場は、やはり

四人目のバンドメンバーの件ではないでしょうか。

 この箇所は、高いオリジナリティーが

あったと思います。


 二つの立場で揺れ動く気持ち。

 周囲の思惑。


 こういう悩みは、子供も大人も

変わらないですよね。

 「給料のためだからしようがない」と

割り切れない分、むしろ子供の方が深刻かも。


 その辺りのカオスな雰囲気を、職員室や

教師たちを登場させることによって、子供と

大人とをグチャッと混ぜたのはうまかったです。


 それだけに、最終的な解決策へ至るまでに

恭一たちが取った「途中の手段」が雑過ぎた

のが残念でした。

 幾ら何でも、あれは安易でしょう。


 この「四人目」が置かれた状況にせよ、

最終的な解決策にせよ、せっかく

考え抜かれていたのですから、もう少し

掘り下げて丁寧に書いてほしかった気がします。


 いっそ、ほかの章の長さを削って、

この部分にボリュームを持たせた方が、

はるかに面白くなったはずなのになと

思えてなりません。


 物語中盤ではありますが、むしろ、この

エピソードこそが一番の泣かせどころと

なり得たのでは。

 非常にもったいないですよ。


 それこそ、もしも私がこの小説を

自分なりにアレンジするとすれば、

「四人目の件が解決する日」と

「ライブの日」とを近付けて(翌日とか

にしてもいいかも)、一気にドーンと

まとめて盛り上げちゃいますけどね。


 というのも、ラストへ向かう流れも

少々盛り上がりに欠けたので。

 悪役も協力者も、妙に漫画チックでしたし。


 「四人目の件」が一段落した時、

読みながら私は、


「タイトルの通りだとすれば、あとは

ライブをやって終わりだよね。

 果たして、これ以上の見せ場なんて

作れるのかなあ」


と心配になったんですけどね。


 ネタばらしにならぬよう詳細は

伏せますが、今までの書き方で

ある程度お察しいただけましょうか。


 以上、全体的な流れも、個々の設定も、

決して間違ってはおらず、むしろ光る物が

多かったわけで。


 あとは、一つ一つをもっとじっくり

突き詰め、追求してほしかった気がします。

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