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いぬじゅん「いつか、眠りにつく日」(スターツ出版文庫)感想

4 いつか、眠りにつく日

(いぬじゅん/2016年4月/スターツ出版文庫)


 これは泣いた。はっきり涙ぐみました。やられた。

 「君の膵臓をたべたい」や「君は月夜に光り輝く」でも

泣かなかった私が。


 今回も、人が亡くなる話。

 が、死自体でなくストーリーで泣かせます。


 主人公は女子高生。名前はほたる

 引っ込み思案な普通の女の子。

 姉御肌の親友と、陸上部の少年は、クラスメイトで仲良し。


 蛍は少年に強い恋心を抱いており、親友もそれに

気付いていますが、蛍は親友に打ち明ける(相談する)

ことも、少年にアタックすることもできぬままの日々。


 やがて、修学旅行へ。旅行中、親友と気まずくなり。

 そして、突然バス事故が発生し、蛍は命を落とすことに。


 霊体になった蛍は、まだこの世にとどまっています。

 透明人間同然で、生きている人間からは見えないし、

体もすり抜けてしまう。

 空を飛べる等の特殊能力はなく、移動法は徒歩やバス。


 椅子やベッドも、現実世界の物を流用。霊体の蛍でも

物体はさわれるし、動かせます。ただ、それは蛍側から

動いているように見えているだけ。生きている人間からは

動いていないように見えるのです。


 まとめると、


・「この世の人間」は霊側で見るだけ。交流不能

・移動手段は生前と同じ

・暑さ寒さ、疲労、痛みもある

・物体は利用可

・この世の現象に対しては一切干渉できない


 という感じ。


 以上のルールを教えてくれたのは、蛍の前に現れた

謎の案内人。若い男性の外見をしているものの、普通の

人間ではなく「あっちの世界」の者。


 案内人は、バス事故で死んだのは蛍一人であること、

期限内に蛍の未練を解消させるのが自分の仕事である

ことを説明します。


 もし未練解消ができなければ、蛍はあっちの世界へ

行かれず(成仏できず)、地縛霊となってしまうのです。


 実際、この後、蛍は地縛霊たちと遭遇し、襲われたり、

悲しい身の上を聞かされたりします。

 やはり、未練は解消すべきです。


 「未練」とは、「絶命直前に思ったこと」です。

 何かを食べたかった、結果を見届けたかった、あるいは

誰かに謝りたかった、告白したかった等々。


 当然、人によって様々で、それは自分で思い出すしか

ありません(案内人にも分からない)。

 真の未練へたどり着いた時には自分の体が短時間光る

ため、そうだと判明するのです。


 なお、未練の対象が人間であった場合は、光っている間

のみ、その人にだけ姿を見せることができ、会話も可能に。

 相手は会話の記憶を徐々になくしてしまうのですけど。


 さて、では蛍の未練とは。


 ストーリーはテンポ良く進むのですが、地縛霊の襲来や、

他の霊の未練解消シーンはありがちでした。


 読んでいるうちに、結末も見えてきてしまい。

 親友に謝って、少年に告白して、実は両想いでした、

ってオマケも付くかもね。まあ、そんな感じでしょと。


 ところが、全然、そのようには終わらなかったのです。


 読みながら、びっくりして私は「えっ」と声を出して

しまいました。そして涙が。いやあ、見事にやられました。


 前述のありがちな内容も、実はこの仕掛けを見破らせ

ないためのカモフラージュだったのかもしれない。


 というのは、作者はズルをせず、誠実に全ての伏線を

ちゃんと張っていたからです。

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