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水城水城「死神少女と最期の初恋」(ファミ通文庫)感想

25 死神少女と最期の初恋

(水城水城/2018年3月/ファミ通文庫)


 主人公は大学二年の男性です。


 どちらかといえば無気力で、周囲の人間関係も

希薄、社交性も高くはない。

 しかし、飲食店でアルバイトを続け、友人も

おり、好きな漫画やゲームもあり、実家の両親とも

関係は良好。

 それほど偏屈でも陰気でもありません。


 私も含め、ラノベをよく読む男性なら、

「あっ、俺にも当てはまるかも」と、ある程度

までは感じるかなと。

 何かトラウマがあるわけでもないですし。


 共感、自己同一化しやすい、普遍性、汎用性の

高いキャラです。名字は波多野はたの


 そんな波多野が、バイト帰りの夜、独り暮らしの

アパートへ帰宅するシーンから物語は始まります。


 扉の前に、黒ワンピースの美少女が立っていました。


 整い過ぎた美貌で、無表情。

 青白い肌。無機質な等身大の人形のようで、

生気も覇気も感じられません。

 声音は冷たく、言葉遣いは終始敬語。


 タイトルからお分かりのように、この美少女こそが

死神です。名前は供花きょうか


 供花は、波多野が七日後に死んでしまうことを

波多野本人に告げます。死因は刺殺。夜道で

通り魔に襲われてしまうというのです。


 供花自身に予知能力があるわけではなく、

七日以内に死の未来が確定した者は「死神手帳」に

名前が載り、担当の死神に割り振られます。

 死神は、自分が担当する人間の最期を見届け、

魂を回収するのが仕事です。


 死神はたくさんいますが(もちろん人間の目からは

見えない)、互いに交流はないようです。

 また、普段住む霊界には特に面白い施設等も

存在せず、基本、味気なく殺風景、淡々と業務を

こなす日々だそうです。


 ただ、今回、死神界の新たな試みとして、


・七日後の死の未来を教えても、大勢たいせいに影響を

与えぬ人物を選出


・担当死神が、実体化・可視化して(自在に出来る)、

その対象者のもとを訪ね、死の未来を教える


・死神は、大勢に影響せぬ範囲で、対象者の願いを

一つ聞いてあげる(ただし、現場の裁量で、願いを

増やすなどの調整は可)


・目的は、対象者の未練をなくし、有意義な余生を

過ごしてもらうこと


 というキャンペーンが始まり、栄えある初回の

対象者の一人として、波多野も選ばれたのです。


 こうして、実体化した供花が、キャンペーン

実施のため、波多野に会いに来たわけです。


 とても信じ難い、突拍子もない話ですが、

アパート前やファミレスにて会話する過程で、

供花はこの件が妄想でも作り話でもないことを

波多野へ証明していきます。


 他の人(ニュースで報道される程度の著名人)の

数時間後の交通事故死を詳細に予言したり、あるいは、

自らの体を使い、肉体に傷をつけられないことや、

一瞬で姿を消せること、瞬間移動も出来ることを

波多野に直接見せることによって。


 波多野も、早い段階で供花の話を信用します。


 もっとも、信用したからといって、実際問題と

して、波多野には将来の目標なども特になく、

死ぬこと自体に大した未練はありません。


 とはいっても、やはり、可能なら避けたいことや、

なるべくなら叶えておきたいことは波多野にもあります。


 まず前者。

 「通り魔に刺される痛さを味わいたくない」。

 まあ、これは当たり前ですよね。


 すると、供花は「死亡予定日時に家でじっと閉じ

こもっていれば、理論上は通り魔に遭わないはずだ」

というアドバイスをしてくれます。


 ただし、「死の未来を変えることは不可能なので、

その場合には、私が死神として命を奪うことになる。

でも、苦痛は感じないで済む」とも付け加えます。


 波多野はこれを選択することにします。

 どう考えても、刺されるよりはずっとマシですからね。


 で、これとは別枠で、前述の「キャンペーンの

願い事」が認められます。


 そこで、波多野は供花に「なるべく俺と一緒に

過ごしてほしい」と頼みます。

 それは了承されます。


 こうして、波多野が睡眠する時や一人になりたい時

以外、また、供花が別の魂回収をする時以外は、

二人は一緒に食事やゲーム、映画鑑賞などをして

過ごすことになります。


 供花にとっては、初めて食べたり見たりする

物ばかり。だんだん、供花も、雑多だが楽しい

人間界の魅力に気付いていきます。


 それから、後者。

 こちらも、まあ普通に共感できることです。


 実家の両親に会ったり、友人と食事をしたり。

 また、読みたかった漫画、見たかった映画などを

リストアップし、読んだり、見たり。


 残された七日間で、供花と過ごしつつ、合間の

時間を計算してスケジュールを組み、これらを

叶えてゆく波多野。

 まずまず充実した日々を送ります。


 両親や友人と会う際には、さすがに供花には

この場から消えてもらわざるを得ないものの、

漫画や映画に関しては、供花と一緒も可能ですしね。


 この日々の模様は、一日目、二日目、というふうに

一日ずつ章分けされ、小説は進んでいきます。


 波多野が供花と過ごしたいと願った理由として、

実は、最初にファミレスにて会話した時の

「ある場面」が大きなきっかけとなっています。


 また、物語には、他にも重要な登場人物がいます。


 ただ、以上二点については、書くと話の核心に

触れてしまいますので省略します。


 さて、では、読み終えた私の、全体的な感想としては。


 まずは、ちょっとなあ、と首をかしげた点。


 第一に、ヒロインの供花に余り惹かれません。


 会いたいとか一緒にいたいとか、私自身は

感じませんでしたね、残念ながら。


 無表情、無感情の異世界少女が徐々に人間味を

帯びて打ち解けてくる、というのはラノベや

アニメでは定番のテーマ。

 ですが、それをうまく成立させるには、


・無表情、無感情なりに、独特のムードがあり

好感が持てる


・打ち解けそうで、なかなか打ち解けない。

人間には理解不能な価値観などを持ち、変な

ところでズレていたり、かたくなだったりする。

でも、そこがかわいい


 などの条件が必要ですが、供花はことごとく

当てはまらないんですよね。


 登場した頃は不快感の方が勝るし、それでいて、

あっという間に人間界の娯楽になじむし、感情の

芽生えも、段階を踏まずに唐突だった印象です。


 第二に、余り切迫感、緊張感がない。


 ありがちな設定だからでしょうか。

 「どうせ、波多野は死なずに助かるんでしょ」って

思いが根底にあり(どうせというのもおかしいけど)、

テーマは重いのにスッと胸に入ってきませんでした。


 第三に、文章がこなれていません。


 作者は既に何冊も作品を出版されており、ベテラン

のはずなのですが、描写が多い割に情景や服装が

浮かばなかったり、くだけた文体と真面目な文体が

混在していたり、点の打ち方がプロっぽくなかったり

(全体的に、点が少な過ぎる気がしました)。


 漢字も、平易な物と難しい物がガチャガチャと

ない交ぜになっており、この見づらさは、テンポが

命のラノベとしては結構まずいレベルです。


 ただし、ファンの皆様にとっては「いやいや、

そこがいいんじゃん」なのかもしれませんけど。

 でも、より幅広い読者を持つには、この文体は

あとちょっと、改良の余地ありかなあと思います。


 次に、良かった点としては、スピーディーに

物語世界へ没入できること。

 何しろ、前置きが全くなく、最初の一行目から

早速、供花への言及がありますので。


 さっと非現実へ誘い込まれ、早く続きが

読みたいなと、先が楽しみになりました。


 また、伏線が丁寧に張られていたこと。


 物語は終盤で一気に盛り上がりを見せ、私は

読みながら「おお、すごいな」と思いましたが、

唐突な感じがせず、全く混乱しませんでした。


 それというのも、終盤で勝手に足した新たな

設定や世界観はなく、全て当初からちゃんと

物語内に出ていた物ばかりだったからです。


 クライマックスで、今までの伏線が短期に

ズバズバ回収される様子は、読んでいて快感でした。


 これだよこれ、娯楽小説はこうでなくちゃ。

 強くそう思いました。面白かったです。

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