こがらし輪音「この空の上で、いつまでも君を待っている」(メディアワークス文庫)感想
24 この空の上で、いつまでも君を待っている
(こがらし輪音/2018年2月/メディアワークス文庫)
旧題「ガラクタの王」。
第24回電撃小説大賞「大賞」受賞作。
なるほど、賞へ応募するには旧題の方が、
マーケットに乗せるには改題したやつの方が
いいなと思います。
アイデア、ストーリーの構造が大変良かった。
それだけに、こなれていない文章、唐突な場面転換、
雑な人物描写などが惜しくて、惜しくて。
読んでいて、非常にもどかしかったです。
これは慌てて出版せず、ベテラン編集者や、
必要とあらばプロのシナリオライター等が
付きっきりで手伝い、根本的に書き直した方が
良かったんじゃないですかね。
そう思わせるほどに、物語の流れ自体は
素晴らしかった。
ありがちな場面からさりげなく始めて、
無理なく非日常へ誘われ、気が付けば壮大な
スケール。
これ、並の力量では出来ないですよ。
新人さんだからこそ、怖いもの知らずの
勢いで、到達した高みなのかも。
もし、そうであるなら、なおさら、周囲の諸先輩方
が大事に育てなきゃダメだと思うのだけど。
青春、教育、恋愛、団結、空想科学、近未来。
これだけ大量の要素を、たった一つの物語へ
よくぞ詰め込んだものだなと感嘆。
大げさに言えば、このプロットを基に、
ハリウッドが大作映画化してヒットさせること
すら、決して不可能ではない気がする。
もったいないなあと。
表紙イラスト(ナナカワ)は水彩風の淡いタッチで、
人物は端に寄せ、景色をメインに描かれています。
明るい色彩で、一応楽しそうではありますが、
どことなく薄幸なムード。
「束の間の幸せ」といった印象も受けます。
少なくとも、非モテ少年が活発な少女から
尽くされるラブコメ、みたいな、そういう
コテコテの美少女物ではないらしい。
これが、書店で見つけた時の、私の第一印象でした。
が、絵の人物は、並んで座る若い二人。
少女と少年。共に学校の制服(夏服)。
ジャンルは学園恋愛物、で間違いなさそうです。
ラノベを読み慣れている人なら、タイトルと
このイラストで、ある程度まではストーリーの
予測が付きますよね。
以下、読む前の私の予測としては、
・恐らく難病物
・少年、少女のカップルのうち、どちらかが難病に
より亡くなる(又は、死に近い状態に陥る)
・タイトルは、亡くなる者がクライマックスで
言うセリフ
・空の上とは「天国(あの世)」を指す。ただし、
恐らくもう一つ何か別の意味がある
・このセリフの感じから察するに、亡くなるのは
少女ではなく、少年の方か
・少年は何かに熱中しており、少女は手伝いながら
見守る立場
・少年は、望んだ形ではなかったにせよ、夢を
それなりに叶えてから亡くなる
・少女がその想いを引き継ぐ
・少女は今まで内気で主体性がなかったが、想いを
引き継ぐ過程で別人のように成長
ネタばらしにならぬよう、以上の予想が当たったか
外れたかの詳細は伏せますが、まあ、おおむね
テンプレート通りの設定と展開でした。
(あくまで途中までは、ですので念のため。
前述の通り、ラストまで読み通すと、流れは
素晴らしいなあと納得しましたから。)
主人公は女の子です。名字は市塚。高校二年。
勉強は出来るが、将来の目標はなく、友達と
騒いだり流行を追ったりも苦手。
偏屈とまでは行きませんが、批判的な目で世間を
眺めています。いや、そのような自身をも、余り
快くは思っていません。恋愛にも興味なし。
これを知った時点で、私は、この作者が
男性読者に媚びる気はないことを悟りました。
男が積極的に付き合いたいタイプとは
明らかに違いますからね。
ストーリーで勝負する気なんだなと。
そんな冷めた理屈先行系女子・市塚が、夏の
ある日、学校帰りにおかしな光景を見かけます。
近くの道路脇の雑木林へ、自分と同校の制服姿の
小柄な男子が一人、周囲をうかがいながら足早に
入っていったのです。
退屈しのぎと好奇心、成り行きで、市塚は
後を付けます。
すると、雑木林の奥には円形の空き地が。
何と、粗大ゴミの山。電化製品、バイク、
古いゲーム機など。不法投棄です。
そのガラクタの山には、先ほど見かけた少年がおり、
汗だくで、生き生きと、夢中でゴミをより分け、
何かを探し出し、集めていました。
少年は市塚のクラスメイト、名字は東屋。
二人で話すうちに、東屋の目的も判明します。
あきれたことに、東屋はロケットを作っていたのです。
飾りではなく、自分が乗るための物。
近日中に、本気で宇宙へ行くつもりらしい。
東屋は、毎日、放課後になると密かにここへ通い、
ゴミをあさり、工具や接着剤でロケットを組み上げて
いたわけです。
ちなみに、作りかけのロケットは近くの茂みに
隠してあります。ブルーシートをかぶせて。
ロケットは、確かに大真面目に組み上げられては
います。
とても、ふざけて適当に作った物には見えない。
しかし、しょせんは知識もない子供が一人で
製作しているにすぎず、不格好だし、すぐ崩れ
そうだし、そもそもエンジンも発射台も燃料も
なく、どう考えても飛ぶはずがない。
当初、市塚は東屋を頭がおかしいと危険視すら
していました。無理もないことですけど。
ところが、東屋と会話したり、この件を担任や
姉に話したりしているうちに、別の視点があることも
分かってきます。
・発想自体は、別におかしくはない。
無人ロケットならば、海外では子供が自作して
宇宙へ飛ばした事例も実際にある
・子供の頃に「現時点の自分が出来る範囲」で
目標を追うことも大切。やがてそれが形を変え、
将来の具体的な道へとつながればいいのだから
・夢を追うこと自体に意味がある。茶化す奴は
その意味に気付けないだけ
・本人が楽しければいいのではないか。「少年時代の
思い出作り」で何の問題があるというのか
これらのことをつらつら考えるうちに、また、
東屋の強烈な純粋さに引き込まれるうちに、市塚の
意識にも少しずつ変化が現れます。
そして、市塚としては、「自分は手伝わないし、
基本は内心で馬鹿にしてるけど、行く末は気になる
から、まあ、そばで静かに見守ってやるか」という
態度を取ることに決めます。
こうして、放課後や休日に、この場所で二人の
奇妙な交流が始まります。
私は、小説をここまで読んで、何だか
ワクワクしてきました。
「あれっ。ひょっとして、作者は何らかの手段で
このロケットを本当に宇宙へ飛ばすつもりなのかな」
そう思ったからです。
答えを言っちゃうと物語の核心に触れますので、
あらすじ紹介はここまで(笑)。
あとは、冒頭に述べたことの補足的に、
細部の感想などを。
まず、文章に落ち着きがない。
変なところで不要なギャグを入れたり、急な
視点移動があったり。あるいは、口語の語りの中へ
突如硬い文体が入ったり。読みにくかったです。
次に、人物描写がいい加減過ぎます。
特に脇役のクラスメイトたち。外見が全然
思い浮かべられないのです。
漫画に例えると、みんな顔が真っ白で、目、鼻、
口が描かれておらず、服装も塗りつぶしているだけ、
みたいな。読んでて寒々しかった。
それから、エピソード同士のつなぎ方に丁寧さが
足りません。伏線もなく、唐突なんですよね。
読みながら何度も「ええっ」と困惑しました。
「彼らがそこで協力的になるのは不自然だよね」
「今までの世界観でそれを出すのは反則だよね」
といった違和感を何回も味わいました。
その場面を早く書きたいのは分かるんだけど、
そこへ至る前に、幾つかのクッションを挟まなきゃ
ダメでしょ、ということです。
繰り返しますが、話全体の流れとしては素晴らしく、
起承転結、よく出来ていました。
こういうストーリーを思い付いたのが、すごい。
それなのに、ちょっとした技巧上の問題のために、
大量のラノベの一つとして埋もれ、このまま右から
左へ消費されてゆくのかなあと思うと、何だか残念で
なりません。