しめさば「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」(角川スニーカー文庫)感想
23 ひげを剃る。そして女子高生を拾う。
(しめさば/2018年2月/角川スニーカー文庫)
タイトルがまともじゃないよね(苦笑)。
ネコじゃないんだからさ。
もうちょっと、何とかなりませんでしたか。
以前、「君と夏と、約束と。」の時にも書いた
けれど(過去記事参照)、成人男性と女子中高生の
カップルは、ファンタジーでは定番ネタ。
だから、それ自体を非難したいわけではなくて。
たとえ嘘でもこじつけでも、ある程度の
リアリティー「っぽさ」は追求してほしい
ということです。
この本は、過程をすっ飛ばし過ぎかなと。
いきなり「拾っちゃう」んだもの。
そう、本書はもう、タイトルそのまんまの内容です。
主人公・吉田は、26歳の独身サラリーマン。
東京で独り暮らし。
ある日、職場の年上女性に振られたヤケ酒から
深夜帰宅したら、家のそばにブレザーの制服姿の
女子高生がしゃがみ込んでいたのでした。美少女。
家出をしてきて、泊まる場所もお金もないと
女子高生は言うのです。
吉田は泥酔しており、成り行きで女子高生を
家に泊めてしまいます。気の毒さと面倒臭さで。
ちなみに吉田は年上のグラマラスな女性がタイプで、
世の中の女子高生を性的な目では見ていません。
翌日、落ち着いて事情を聴くと、女子高生は
沙優と名乗ります。
学生証を見せてもらうと、何と北海道の高校。二年生。
半年前に家出し(家庭は複雑で、家出してくれて親は
せいせいしているだろうとのこと)、これまで、色々な
男たちの家を渡り歩いてきたそうです。
体の関係等と引き換えに居場所を確保し、追い出され
たらまた別の男を探すという繰り返し。
沙優としては、自分に提供できるものを差し出して
いるにすぎないし、それしか生きる手段もないし、
好き嫌い・良い悪い以前に、ただ合理的に考えている
だけです。少なくとも本人はそのつもり。
そして、自分を性的に一切求めてこない吉田を
奇異の目で見、むしろ「そうしてくれた方が互いに
貸し借りがなくてすっきりするし、気持ち悪くなくて
いい」という思考です。
吉田は絶句し、そのような男たちにも、世間にも、
沙優の浅はかさにも憤りを覚えます。
一方、沙優の心の壊れっぷりと、意外な誠実さ
(ちゃんと向き合えば人の話は真面目に聞く、
遠慮がちでお金や物を欲しがらない、家事は
きっちりこなす等)には同情、好感も抱きます。
結果として、
・家出に飽きたり、人としてまともになったり
したら沙優は出ていく
・沙優にはいずれどこかでバイトもしてもらうが、
当面は外では働かなくてよい。その代わり、掃除や
料理、洗濯など、家事全般をやってもらう
・性的に吉田を誘惑することは禁止
という取り決めが出来、秘密の共同生活が始まります。
吉田は、平日は会社へ行き、帰宅すると沙優が作った
夕食を一緒に食べます。朝食も同様。
だんだんこの暮らしの快適さ、楽しさに気付き、
無趣味で仕事一筋だった自分を見つめ直します。
また、吉田は、そんな自分でも、実は周囲から
意外と好印象を持たれていたことに気づきます。
例えば、他人へ偏見を持たずにまっすぐ向き合う
姿勢などです。
主に、沙優からの指摘で分かっていくわけです。
同時に、美人の同僚女性二人(後輩と、例の
振られた先輩)からも慕われ、職場でも家でも
悪くない毎日が続いていきます。
もちろん、沙優も変化します。
世の中には、損得勘定を超えた優しさがあることに
少しずつ気付いてゆき。
そして。
元々は、小説投稿サイト「カクヨム」での
連載作品だったそうです。
確かに、話の一本一本がはっきり独立しており、
文体にも話し言葉を多用。心理描写も定型的な
表現が中心で、分かりやすさ重視。
なるほど、雰囲気がとてもウェブ小説してます(笑)。
サクサク読み進められます。
冒頭に述べたとおり、露骨に「釣ってる」タイトルは
余り好きになれませんし、女子高生と暮らすまでの
葛藤の描写を放棄した創作態度も、気に食わないです。
しかし、内容が極力下品にならぬよう気を付けて
いる様子は随所に見られ(もしかして作者は女性
だったりしますかね。調べてないけど)、あからさまな
サービスシーンもほとんどなく、物語全体の雰囲気も
明るく、まあ、楽しく読みました。
ただね。
私が覚えた最大の違和感は何かというと。
それは、沙優が「学校へ通っていない」ことです。
この本を書店で見つけた時、私はてっきり、
「ヒロインの女子高生は普通に通学していたが、
とある事情から帰る家がなくなり、赤の他人の
サラリーマン(主人公)と暮らすことになった。
女子高生はそのサラリーマンの家から通学し、
帰宅すると夕食を作って待っている。
二人は、この共同生活が学校や職場にバレやしない
かとヒヤヒヤしつつも、互いに良い影響を与え合い
ながら、各自、学校生活や職場生活を楽しむ」
といった設定なのかと思っていました。
(というか、普通そう考えますよね。)
だって、そうじゃなきゃ、ヒロインが制服を着てる
必然性がないじゃん。
いや、一応、作中では、
・沙優は衣服として制服一着しか所持していない
・制服姿の方が、(吉田以外の)今までの男たち
には喜ばれた
というような言及は出てきましたけどね。
だけどさ。
きれい事を言うわけではないけれど。
女子高生の制服って、そもそも、その制服を
採用している高校へ通って、授業を受けて、
勉強をするための物ですよね。
制服姿に萌えるとか惚れるとかいうのは、
あくまでもその前提があってのことでしょう。
前提が崩れているにもかかわらず、ヒロインに
制服を着せ続け、なおかつそれを物語の中心に
据えて、客(作中では、沙優の相手の男たち。
外では、読者たち)を引き付けるなんて。
何だかなあと。
私は、ちょっとフェアじゃない気がします。
吉田には、ひいては作者には。
大人として、「女子高生」の沙優に学校へ通わせ、
教育を受けさせる社会的な責任があるように思うの
ですが。
少なくとも、それを目指す努力くらいは見せて
ほしかったです。
物語の初めの「共同生活開始までの安易さ」は、
話を読み進めるうちに、だんだん気にならなく
なっていきました。
先ほど書いたとおり、物語自体に品があり、
面白かったからです。
でも、学校に通っていない件への違和感は、
最後まで消えることはありませんでした。
たかがファンタジーに対して何熱くなってんだよ、
もっと気楽に読めよ、と言われたら、それまでかも
しれないけれど。