佐野徹夜「君は月夜に光り輝く」「この世界にiをこめて」感想
2 君は月夜に光り輝く
(佐野徹夜/2017年2月/メディアワークス文庫)
素直に読めば泣けます。私も涙ぐむ寸前でした。
第23回電撃小説大賞・大賞受賞作。4878作の頂点。
それを宣伝するキンキラの帯もカッコいい。
カバーイラスト(loundraw)の美しい青と合っています。
「特にラスト二ページ、あれは反則だろ」といった
意見もあり、まさにそう。感動凝縮の結末。
ただ、大賞の割には、以下の通り、粗も目立ちました。
ストーリー自体は超定番設定。
難病の美少女を見舞う、クラスメートの地味な少年。
やがて恋が芽生えて。
この難病、若年での致死率高し。
が、症状は月光を浴びると体がぼんやり輝くというもの。
そう、物語用の架空の病です。
悪い言い方をさせていただくなら、「うまいこと
いいとこ取りをしましたね」と思わざるを得ない。
状況に応じて、都合よく美しくしたり悲惨にしたり
できますので。
現実の病だと、そうもいかない。
実際に患者さんもいらっしゃるわけですから。
死に至る病なのに、症状はなぜか美しい。
適度にSF的で詩的。
こんな病気、あるかなあ。ちょっと狙い過ぎです。
あとがきを読むと、死をテーマにした動機は作者の
切実な実体験によるものらしい。理解はしますよ。
しかし、苦しんでいるのはヒロインだけじゃなく、
実は主人公も、友人(男子)も、皆、重たい事情を抱えて
いるのです。
ちょっと「人の命にかかわる出来事が周囲でやたら
起こり過ぎでしょ」と思ってしまうんです。
特定の数人に、そこまで不幸が集中しますかね。
月光で体が光るという設定も、生かし切れていないです。
そもそも描写が短過ぎます。最初の発光シーン、何と
わずか二ページ。
ここは見せ場なんですから、詳しく、読者に情景が
浮かぶように書いてほしかった。
本文を読む限りは、せいぜいヒロインが「服の中に
ライトを隠し持っていて、点灯させた」程度の地味な
絵しか伝わってきません。
肌が光ってるんでしょ。一大事ですよ。じっくり書こう。
一方、物語終盤でヒロインが発するポエム的な長せりふは
三分の一でいい。あそこで突然饒舌になるのはおかしい。
発光は、描写の工夫次第でもっと幻想的にも、又は
不謹慎ですがエロチックにもできたはず(パジャマから
体の線や下着が透けるなど)。
それから、例えば「主人公が夜の暗闇で危険な目に
遭うが、ヒロインの発光によって前が見えて助かる」等、
物語を盛り上げる仕掛けとしても使えたと思います。
3 この世界にiをこめて
(佐野徹夜/2017年10月/メディアワークス文庫)
購入し、二日で読みました。
読みやすかったし、それなりに楽しめました。
佐野徹夜先生、第二作。
前作「君は月夜に光り輝く」がよかったので、今回は
作者名で買いました。
発売日には、産経新聞3面の下部に、縦16センチ、
横25センチの大きな広告が。破格の猛プッシュです。
私もこれによって発売を知りました。
前作が20万部のヒットですからね。出版社期待の星。
loundraw先生の美麗なカラーイラストも健在。
表紙、制服の少年少女二人組という構図は同じ。
前回のイラストでは二人は宙に浮かんでいましたが、
今回は地に足が着いているのが印象的。絵の手前で
はじける陽光の粒が素晴らしい。
物語の主人公は、今回も陰気で屈折した少年です。
ただ、これも前作同様ですが、少年に腹黒さはなく、
そこそこユーモアがあり、開き直らず自分を客観視も
できているため、余り不快なキャラではありません。
現在、高二。かつては趣味で小説を書いていました。
中一の頃、やはり小説を書く同い年の少女と出会って
からは、文芸部(部員はこの二名のみ)の部室にて二人
きりで小説を書き続ける日々。
自分のパソコンを持ち込み、それぞれ別の作品を書いて
います。で、時々読ませ合う。素敵な関係です。
しかし、少年は、自分が本気で書いた作品は少女に
読ませず、他の有名作家を模写したふざけた物を見せるのみ。
なぜなら、少女の圧倒的才能に対しコンプレックスを
抱いているから。
実際、少女は文学賞へ応募したらあっさり通り、
雑誌掲載、単行本出版が決まるのです。
まだ中二にして小説家に。
ところが、ある出来事を経て、少女は命を落とします。
それからというもの、少年は小説を書くのも読むのも
やめてしまい、無気力で投げやりになります。
とはいえ、男子一人、女子一人と三人組の友人関係を
築くことには成功し、安定した高校生活を送れてはいます。
さて、全体の物語は、ここの時点からスタートします。
そして、現在と、過去(まだ少女が生きていた頃)とが
交互に描かれていくわけです。
初めは「あれっ、これは過去の話か」と、時折混乱も
しましたが、よく見れば、回想シーンは節の番号が白抜き
になっていました。ちゃんと配慮されていたのです。
鈍い私はなかなか気付かなかった(苦笑)。
現在の少年は、亡くなった少女へしょっちゅうメールを
送り続ける毎日。無論、返事はなく、返ってくるのは
エラーメッセージのみ。
ところが、ある日、何と返事が来たのです。
何者かにアドレスを乗っ取られたらしい。冷静に
考えれば、それしかあり得ませんからね。
が、何度かやり取りをしていると、亡くなった少女しか
知らない情報や、二人だけの思い出をも相手は正確に
返してきます。しかも即答。
当然、少年は動揺します。もしかして本人なのかと。
例えば、少女が死ななかった別の並行世界(パラレル
ワールド)が存在する、とか。
でも、私は、読みながら、作者の冷徹なメッセージを
文体や行間から感じ取っていました。
「この小説に並行世界は出てきません。僕が書きたかった
のはそういうことではないので、読者の皆さんはどうか
そっちへ行かないでください」という誘導を感じたのです。
さあ、実際はどうだったでしょうか。
果たして、私の予感は当たったのか、外れたのか。
種明かしは、割と早い段階で済まされます。そして、
ストーリーは更なる高みへと展開してゆきます。
いわゆるメタフィクションにも挑んだ意欲作。
登場人物が自分をフィクションかもしれないと疑ったり、
それを乗り越えようとしたり、作者や読者を引き込もうと
したりする手法のことです。
また、数学や科学による裏付けも適度に挟み込まれ、
知的にも楽しい。(参考文献には何とホーキングの著書も。)
そして、終盤にはポエム的な文章が今回もドバッと
出てきました。もはや「佐野徹夜節」といいますか。
前作「君は月夜に光り輝く」終盤にも出てきて、私は
あれが苦手だったので「またかよ」と思いました。
しかし、今回はちゃんと必然性があったのです。
読んでいるうちに、小説と小説、小説と現実が
ドッキングし、見事に溶け合いました。
驚かされ、興奮と快感でゾクゾクしました。
まあ、広告コピーの「僕たちの人生を大きく変えうる
力をこの小説は持っている。」は、さすがに大げさだと
私は思います。そこまではすごくない。
ただし、そのような高みへ到達しようとする若き気迫は
十分過ぎるほど伝わってきました。
それでいて、気取らずに、ラノベ独特の軽さ、緩さも
一貫して保たれており、その点も好印象でした。
最後に余談ですが、この作品には、住野よるの
「君の膵臓をたべたい」へのオマージュと思われる
部分が二か所ありました。
ネタバレになる(両作品とも)ので書きませんが、
探してみるのも一興かと。