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中野雅博「春は冬の夢を見る」(ファミ通文庫)感想

21 春は冬の夢を見る

(中野雅博/2018年1月/ファミ通文庫)


 イラスト(禅之助)は、表紙も巻頭もいわゆる萌え系

ではなく、女の子もかわいくないです。


(絵の中の少女が「かわいい子」なのは分かるけど、

画風としてかわいく描けていない、あるいはわざと

描いていない、という意味です。念のため。)


 イラストから推察するに、典型的美少女物とは

違うのかなあと思いながらも、カバーの紹介文を

見る限り、高校生の青春恋愛物。

 大幅なハズレはあるまいと、楽観的に購入。


 読み終えた感想としては、コテコテの美少女ラノベ

とはやはり違いました。

 つまり、「さえない少年がひたすら美少女と

イチャつく」みたいな、男性読者が無条件に

気持ち良くなれる話ではない。


 もっとも、内気な少年と活発な女の子との楽しい

恋愛場面もたっぷり出てはきますので、それを期待して

買っても、そう大きく裏切られはしないです。


 ただ、物語は途中から超能力バトル物へと変わり始め、

緊迫感を増していきます。


 ゆえに、「今は疲れてるので緩い話を読んで

癒されたい」という人は、読まない方がよろしい。

 逆に、「今はぬるいラノベじゃ物足りない気分。

スリルも味わいたい」という人にはおすすめ。


 どんな超能力かというと、未来予知です。


 具体的には、一日先の未来を夢に見るのです。毎日。

 で、夢から目覚めると、まさに今、夢で見たのと全く

同じ一日が始まるというわけです。


 夢の中で「これは夢だ」との自覚は出来ます。

 というか、記憶にない一回目の体験なら、それは

絶対に夢ですからね。


 そして、改変は可能。

 よって、「夢では、朝、母が作った食事で両親が

ケンカをしたから、先手を打って僕が朝食を作ろう」

などと先回りをすれば、厄介事を回避できます。


 ちょっと考えただけなら、何て便利な超能力なの

だろう、人生かなり有利に運べるじゃん、と感じる

でしょうが、本人はうんざりしています。


 大して面白くもない日常を、幼児期から「他人の二倍」

送らされる身にもなってみろと。しかも二日連続で。

 言われてみれば納得ですよね。


 なお、夢はあくまで「今日過ごした現実の一日」に

連動した翌日、です。夢同士はつながっていません。

 すなわち、夢の中で起きたことは毎回リセット

されるわけです。


 この特殊能力を持つのは、主人公の少年です。

 名前は孝太郎。入学し立ての高一。


 特殊な予知夢は、孝太郎が物心ついた頃には

既に始まっており、毎日欠かさず見ます。


 事故やクラスのいじめ等、我が身に降りかかる災難を

回避したり、勉強時間を倍取ったり、能力を有効活用

してきた孝太郎。


 が、テストをカンニングしたりはせず(一回目は

問題文すら見ずに白紙で提出。なるほどね。どうせ

夢なら真面目に受けても意味ないし。笑)、予知夢の

利用はほどほどにとどめています。


 これは、孝太郎の人生観によるところが大きい。

 変に野心とかを抱いて夢を悪用すると、どこかで

しっぺ返しが来るかもしれないし、この能力が突然

なくなるおそれもあるのだしと。


 無難で平穏な人生が過ごせれば自分は充分だと。

 高校生にしては達観していますが、健全な心がけ

ですかね。

 元々、孝太郎は人付き合いが苦手な性格でもある

のですが(超能力に起因する部分を差し引いても)。


 さあ、そこへ、ヒロインとなる美少女が登場。

 名前は木実このみ。クラスメイトです。

 もちろん、まずは孝太郎の夢の中に登場。


 木実は、あるイタズラを授業中に孝太郎へ仕掛け、

驚き声を上げた孝太郎は教師に叱られます。

 翌日の「現実」では、完全無視。イタズラされること

をあらかじめ知ってる以上、声も立てずに済みますしね。


 しかし、木実は懲りません。

 次の日には、孝太郎の下駄箱へ変な手紙を投入。

 「現実」では早めに登校し、下駄箱にて待ち伏せ。

 手紙投入現場を押さえる孝太郎。


 ところが、木実による三度目のイタズラは、孝太郎が

見ていないところで事前調整を済ませておく周到ぶり。

 これでは、一日後を読めても歯が立ちません。


 こうして、嫌々ながらも木実と接点が出来てゆく孝太郎。


 そのうちに気持ちの変化も生まれていき、互いに惹かれ

合って……という、まあこの辺はラノベでさんざん

繰り返されてきた黄金パターン。


 ところが。


 このままラブコメへ突入かと思いきや、途中から

木実のヘビーな過去が明かされ(まあ、これだって

ベタな流れではあるんですけど)、新たな人物も

現れ、前述のごとく、あれよあれよとバトル勃発と

相成るわけです。


 設定として特に面白かったのは、「同じ一日を

繰り返すが、本番は一回きりであり、やり直しが

効かない」という点です。


 同じ一日の繰り返し、という設定は「僕らが明日に

踏み出す方法」(過去記事参照)にも出てきましたが、

あちらは「ループ」でしたから、何回もやり直しが

可能でした。


 しかし、今回はそうではない。本番は一回だけ。


 例えば、「夢では木実とデートして事故に遭った

から、現実ではデートを中止して家にこもればよい」

と選択したとしても、それが正解とは限らないわけです。


 家で襲われるかもしれないし、あるいは、たとえ自分が

助かったとしても、その間に木実に事故が起きるかも。

 そして、もう取り返しは付かないのです。


 また、一回目で作戦が成功したからといって、それは

あくまで夢にすぎない、というのも大きなポイント。

 二回目の現実で、同じことをもう一回やらなきゃ

いけないというじれったさ。


 それから、一回目の夢で木実と会えれば、少なくとも

「明日も木実は無事であり、自分に会いに来ることも

可能である」ことだけは確認出来ます。

 が、保証されるのはここまで。


 当たり前ですが、夢の中で木実に重大情報を

伝達しても、現実世界の木実には全く伝わって

いないのです。

 焦っていると、そのことすら忘れかねない。

 つい、「言った気」になってしまうかも。


 以上のように、単純そうで実は落とし穴が多い

複雑なルールなのです。


 ただ、物語のクライマックスで明かされる、

「そもそも、この現象はどういうものなのか」

という大仕掛けは全然複雑ではなく、むしろ、

「まず気付かないけど言われてみれば納得」

という絶妙なものでした。

 もちろん、私も見事に引っかかりました。


 ラブコメ、バトル、いずれの要素も味わえ、

だれる箇所も少なく、ギャグもあり、感動的なせりふも

場面もあり、なかなかにいい仕事をしている作品でした。


 難点を挙げるなら、違うシーンや詩的表現が唐突に

挿入されることが多々あり、もちろんそれは効果を

狙っての演出なのですが、いまいち決まっておらず、

かえって話を分かりにくくしていたことです。


 あの辺はバッサリ切って、スッキリさせた方が

よかった気がします。私は随分混乱させられました。


 せっかくの面白い設定、面白いストーリー。

 娯楽作品として、もっとサクサク読み進めたかったですね。

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