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広ノ祥人「あまのじゃくな氷室さん 好感度100%から始める毒舌女子の落としかた」(MF文庫J)感想

20 あまのじゃくな氷室さん 好感度100%から始める毒舌女子の落としかた

(広ノ祥人/2017年12月/MF文庫J)


 第13回 MF文庫Jライトノベル新人賞・審査員特別賞。

(ちなみに最優秀賞は「僕の知らないラブコメ」。過去記事参照。)


 もはやそのまんま内容だよね、という長いタイトルに

少々ゲンナリしつつも、本の外見で判断する限り、


・学園物で、

・それなりに甘酸っぱさも切なさもあり、

・男性読者が気持ちよくなれる


 という辺りは言わずもがな。

 品質保証はされてると見ていいですよね。

 安心して購入し、読んだところ、おおむね期待通りの

展開でした。


 ただし、ラストは予想とは違いました。驚いた。

 なるほど、さすが審査員特別賞。

 予定調和では終わらせず、なかなか味のある締め方でしたよ。


 舞台は高校の生徒会。

 主人公の少年は田島。副会長です。高二。


 ヒロイン・氷室涼葉ひむろすずはは会長です。

やはり高二。クラスは田島と違います。

 容姿端麗、勉強・スポーツ万能、クールな性格。

 何人もの男子から告白されては断り続けています。


 田島は勉強以外には特に取り柄がない、平凡な男の子。

 毎日、氷室会長からトロさを手厳しく非難され、皮肉られ。

 もはやパワハラです。周囲からも気の毒がられています。


 それでも田島がくじけない理由は、氷室に惚れているから。

 氷室が時折見せる弱さや女の子らしさが大好きなのです。


 そんなある日、突然、とんでもない現象が始まります。

 氷室が田島へ毒舌を吐くたびに、何と、田島にだけ、

もう一つの声がほぼ同時に聞こえてくるようになったのです。


 例えば、こんな感じで。


「あなたの仕事はいつもダメね。ダメ島君って言葉がピッタリだわ」

(仕事を頑張る田島君はいつも素敵だわ。田島君だーい好き!)


 もう一つの声も確かに氷室の声なのですが、氷室の口の

動きとは違いますし、そもそも内容がセリフと正反対で、

とろけるように甘い。

 何だこれは。当然、田島は激しく気が動転します。


 この現象をひねくらず自然に解釈するなら、「氷室の

本心が田島にだけ読めるようになった」のかもしれない。

 しかし、それは都合良く捉え過ぎではないかと田島は

悩みます。


 さえない田島を氷室が好きであるとは思えないし、それに、

田島は氷室が好きなわけで、ちょっと出来過ぎていると。

 実は両想いでした、とでも言うのだろうか。もしそうなら

もちろんうれしいが、考えにくいぞと。


 あるいは、精神的に疲れ果てて、幻聴が聞こえるように

なってしまったのかもしれず、冷静に分析すればこちらの

方があり得るぞと。


 ところが。

 帰宅すると、更に驚愕の事態が田島を待ち受けていました。


 (消してある)テレビの中から急に若い女性がニュッと

抜け出し、田島の部屋に現れたのです。

 女性はおしゃれな私服姿、女子大生風の美人。


 こんな登場の仕方が可能なのは、人間以外の存在しか

いないはず。実際、その通りでした。


 女性はナンナと名乗ります。

 近所の神社(恋愛成就として地元で有名)に宿る女神様で、

この度、氷室と田島の恋を叶えるために来たのだと説明。


 来た理由は、氷室がその神社へお参りし、「大好きな

田島君に素直な気持ちを届けられるようになりたい」と

願ったから。


 しかし、氷室は余りに不器用で奥手なため、ナンナと

しては、「いっそ、田島の脳へ本音が直接届くように

すれば手っ取り早い」と判断したわけです。


 やり方が雑過ぎますけど(笑)、ナンナも上司から

せかされていたり、新発売のゲームをやりたかったり、

公私ともに多忙で、さっさと任務を済ませたい御様子。


 こうして、妙に人間っぽい陽気な女神様に見守られ

つつ、田島は氷室へアタックするわけですが。


 両想い確定で、しかも本心がリアルタイムで筒抜け。

 つまり、あとはタイミングを見計らってうまく告白

すればいいだけ。楽勝だろ。

 当初、田島はそう考えます。


 私も、読者として初めは同じ考えでした。


 だって、恋愛で一番難厄介なのは、やはり相手の

気持ちがわからないこと、これに尽きますからね。

 そこさえクリアされているのなら、もはや大した壁は

ないはずだよなと。


 ところが、なかなかどうして。

 実は、話はそう単純でもないことが判明していきます。


・氷室は田島が好き

・しかし、決してそれを口に出さないし、田島へは毒舌を

吐いてしまう

・田島が氷室を口説くような言動を取る度、氷室は内心で

歓喜しているくせに、やはり口では正反対の悪態しか

つくことが出来ない

・田島が氷室の本心を聞いていることを、氷室には教えられ

ないし、証明も出来ない


 実は八方塞がりに近いんですよね。

 田島が氷室へどうアタックしようとも、氷室が「口では

断ってしまう」以上、その恋は成就しようがないわけです。


 最終手段としては、ナンナが介入し、「実はあなたの

本音、田島にダダ漏れなんだよ」と教えてしまうという

方法もあり得ますが、幾ら何でも乱暴ですし、氷室が

深く傷付いてしまうのは明らか。


 やはり、ここは男として、田島が上手にリードしながら、

氷室の気持ちを解きほぐしてゆくのがベストなのでしょう。

 でも、じゃあ具体策は。


 田島もナンナも、そしてもちろん氷室も、試行錯誤や

微調整を続けては少しずつ進んでゆき、物語は徐々に

クライマックスへ向かいます。


 読んでいて楽しかったのは、何といっても、氷室の

セリフと本心とのギャップの激しさ。

 もちろん、笑ったのは「」の後に続く()部分。毎度、

田島への愛情が極端過ぎて、作者もノリノリで書いて

いらっしゃるのが伝わってきました。


 で、その本心へ密かにツッコミを入れ続ける田島。


 胸中ではそれを思ってるのに、なぜセリフはそこまで

罵詈雑言になるのかね、と。

 または、今思ってるそれの一部でもいいから言ってよ、と。

 本当にそうですよね(笑)。不憫です。


 生殺しとも違うし、独特なもどかしさ。

 私も読者として、田島を半分うらやましがり、半分

気の毒がり。

 今までのラノベにはなかった、読者と主人公との

不思議な距離感が新鮮でした。


 それから、田島には、実はもう一人、クラスメイトに

仲が良い美少女がいます。

 活発な子で、田島が勉強を教えてあげる相手。


 おざなりに作られた脇役、などでは全くなく、むしろ

氷室に次ぐ準ヒロインと言っていいです。

 この子と田島との交流場面にも多くのページが費やされ、

もう一つの見所となっています。


 田島と氷室はクラスが違うため、会うのは放課後。

 朝や昼休みなどは、専らこちらの女の子としゃべる田島。

 作者は上手に分けたなと思いました。読んでいても全く

混乱しませんし。


 もちろん、やがては氷室の件にも絡んでくるわけですが、

傍観や応援に徹するでもなく、さりとて三角関係にまでは

なかなか至らず、いいバランスで華を添えていました。


 物語の終盤では、田島が意外な長所を発揮する場面も。

 伏線が張られておらず、若干唐突な印象もありましたが、

田島、かっこよかった。

 読んでいて素直にうれしいシーンでした。


 そして、氷室が田島を好きになった理由も、終わりの方で

ちゃんと明かされます。

 ああ、そういうことかと。


 この二人には幸せになってほしいなあ。ねえナンナさん、

もうちょっとだけ、二人へ力を貸してあげてくださいよ。


 私はそんなことを思いながら、一気にラストシーンまで

読み通したのでした。

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