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麻中郷矢「君と夏と、約束と。」(GA文庫)感想

19 君と夏と、約束と。

(麻中郷矢/2017年12月/GA文庫)


 成年男性と、女子中高生とのカップル。

 現実世界ではまずあり得ませんが、フィクション、ファンタジーの

世界では定番のテーマです。(多くは禁断の恋としてですが。)

 物語の設定としては、


・教師と生徒

・年の離れた兄妹(血がつながっていない・いる、両パターンあり)

・親友の忘れ形見

・災害等に遭い、異常な状況で二人きりになる

・成年の彼女が、魔法などで少女時代へ若返ってしまう

・少女が架空の存在(ゲームや漫画キャラの実体化等)

・老人とロボット


 などがあります。


 今回取り上げる小説も、その一つです。

 では、どんなパターンかというと。


 主人公・ヒナタ(男)は、中学二年の夏、ずっと好きだった

女の子・葉月はづきに想いを告白します。同級生です。

 すると、実は両想いだったことが分かり、めでたく二人は

付き合うことになります。


 ところが、二日後、終業式の翌日に(つまり夏休み初日)、

葉月は突然行方不明となってしまうのです。


 ヒナタは絶望し、無気力になります。

 物語はそれから7年後が舞台。


 ヒナタは21歳、大学生になっています。

 親元を離れ、アパートを借りて一人暮らし。


 大学はサボりがち、たまに行っても空気のように振る舞っています。

 地元の両親からも将来を心配され。でも、ヒナタはどうでもいいと

思っています。葉月のいない世界なんてと。


 ただ、近所の居酒屋にてアルバイトをしており、そこそこ

真面目に働いています。


 忙しければ気も紛れますし、店主夫婦も親切な人で、さらに

バイト仲間には1歳下のかわいい女性もおり(強引でアホっぽい

キャラですが悪い子ではない)、幾分かは気分も明るくなります。


 そんなある夏の夜、ヒナタは、バイト帰りの駅前にて、

セーラー服姿の少女を見かけます。

 少女は座り込んで泣いています。


 そう、この少女こそ、7年間失踪していた葉月だったわけです。

 消えた彼女が時空を超えて現れた、と。


 幸い葉月は、大人になったヒナタでも、一目で「ヒナタだ」

と気づいてくれます。

 ヒナタは異常事態に動揺しつつも、再会できたことへの歓喜と、

まさか夜中に女子中学生を街へ置き去りにするわけにも

いかず、流れで葉月をアパートへ連れ帰ります。


 こうして、ファンタジーのお約束フォーマット、成人男性と

女子中高生カップル完成、と相成るわけですね(笑)。


 もし私がヒナタだったら、このあと、どうしてたかなあ。


 警察に連絡してもややこしくなりそうだし、ひとまずは

葉月の親御さんへ電話かなあ。

 しかし、とりあえず様子見で、一晩は家に泊めたかも。

 ここはちょっと判断が難しいところですよね。


 まあ、たとえ泊めるにせよ、しばらく会話をして状況把握

には努めたでしょうけど。

 そして、小説中のヒナタも、まさしくそれを選択します。


 結果、ヒナタとしては「当時の中二のまま、葉月が現代の

世間へ溶け込めるはずはないし、葉月も俺と過ごすのを

うれしがってるみたいだし」と考え、葉月に至っては

「今の状況は多分夢だから、そのうち目覚めるのだろうし」

と考え、互いに「しばらく一緒に過ごせばいいや」という

暗黙の合意が形成されてしまいます。


 私は内心、「おいおい、そりゃまずいだろ。もう少し

ちゃんと検討しなさいよ」とツッコんでしまったけれど、

まあ、ラノベとしては許せる線かなとも感じました。

 二人の気持ちも、分からなくはないですので。


 それに、よくよく考えてみれば、私だって、21歳の頃なんて

まだまだ子供でしたからね。

 さすがに、ここまで状況にずるずる流されたとは思わないけれど、

近い感じにはなっちゃったかもしれない。


 などと、自分だったらどうしたかを何度も考えさせられ、

私は本作品にどっぷり引き込まれたわけです(笑)。

 楽しく読みました。


 さて、その続きですが。


 二人とも、「そのうち何とかしなくちゃ」というモヤモヤした焦りを

抱え、やがてじわりと表面化していきます。


 そのきっかけの一つは、何と、ヒナタと葉月の記憶が微妙に

異なっていたことです。

 例えば、二人が出会ったいきさつや、葉月たちの家の場所、

クラスメイトの顔ぶれ。

 本来なら全て一致しなきゃおかしいのに。


 葉月が記憶喪失、とかならば、まだ分かります。

 でも、葉月は明確に別の思い出を持っているのです。何箇所も。


 やがて、二人とも悟ります。これは単なるタイムリープではなく、

もっと複雑な法則が絡み合った現象なのだと。


 仮に、葉月が7年の時空を飛び越えてきただけならば

(「だけ」と言ってもそれ自体大変なことですけど)、

最悪戻れなくても、関係者のみに事情を説明し、慎重に

対処すれば何とか出来たのかもしれない。


 しかし、そうではないなら。

 「ここで暮らせばいいじゃん」という単純な解決策は

成り立たなくなります。


 さらに、二人の感情にも、実はかなりのすれ違いがあることが

判明していきます。そもそも、最初から。

 よく考えてみればそうですよね。(私も途中から気づきました。)


 ヒナタにしてみれば、

「7年も会えなかった葉月に会えた、しかも当時の姿で」。


 一方の葉月。

「中学生活を送っていたら、夏休み初日に突然知らない時空へ

ワープした」。


 そう、苦悩した空白の7年間が、葉月には全くないわけです。


 どう比べても、ヒナタは「うれしさ」が勝り、葉月は

「戻りたさ」が勝っています。この差は大きいです。

 幾ら、二人には互いへの愛情も芽生え始めているとはいえ。


 さあ、こうして、テーマや課題が出そろいました。


・葉月は単純にタイムリープしただけなのか。そうなら、

なぜ記憶が違っているのか


・葉月がパラレルワールド等から来たのだとしたら、原因は。

そして、帰れるのか


・ヒナタと葉月は、気持ちの溝を埋められるのか


・現象の正体が仮に解明されたとして、ヒナタと葉月の選択は


 で、私が本を読み終えた感想としては、次の通り。


 まずは、全体的に分かり易かった。


 主要登場人物も、事実上、前述の3名のみです。

 つまり、ヒナタ、葉月、バイト先の女の子。恐らく、今まで

読んできたラノベ史上、最少人数です。ここまで絞り込んだ

思い切りの良さが見事。

 これなら、人物の区別で混乱させられることはなく。


 また、タイムリープ等のトリックもシンプルでした。


 ただし、帯に「ラノベで 泣いて みませんか?」とありましたが、

これには若干異議あり(笑)。

 「ああ、作者としてはここで泣かせたいのだな」というのは

伝わりましたが、残念ながら私には少々空回りでした。

 

 むしろ、先ほど触れた、「俺は本音では、たとえ記憶が違って

いようとも(中身が違っても)葉月とこのまま一緒にいたい」

というヒナタのエゴの方が、心理描写としては素晴らしかった

ですね。これ、気持ち、すごくよく分かりますから。


 あと、バイト先の女の子の描写がくど過ぎます。

 この子について、大半の読者は、別にそこまで興味もないと思う。

 重要な役回りではあるんですけどね。


 読んでいて一番楽しかったのは、やはり、ヒナタと葉月が

アパートで過ごしたつかの間のひとときです。

 ここはもっともっと読みたかった。


 特に、「葉月視点」でつづられた箇所(少ないですけど)は

かわいくて、とてもよかったなあ。

 まあ、実際の少女が果たして本当にこういうことを考えて

いるかは分からないけれど、それを言っちゃあおしまいです(笑)。

 とにかく、男目線としては満点でした。


 そして、これは書きたくてたまらないのだけど、エチケットに

反するので書きません。


 一言だけ。

 この本、読んでよかった。最後まで読んでよかった。

 心からそう思います。

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