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樫本燕「僕の知らないラブコメ」(MF文庫J)感想【追記あり】

15 僕の知らないラブコメ

(樫本燕/2017年11月/MF文庫J)


 第13回MF文庫Jライトノベル新人賞・最優秀賞。

 書店にてこの宣伝文句を発見し、購入。


 この宣伝がなかったら、恐らく素通りしたでしょうね。

 だって表紙がすごいんだもの。


 表紙イラスト(ぴょん吉)は妙に色っぽい美少女で、

体の線や肌を大胆に露出しており、「その格好じゃ

外歩けないだろ」レベル。

 てっきりお色気ファンタジーかなと。

 だとしたら、余り私の好みじゃないので。


 ところが、何とこれ、ごく普通の学園物なんです。

 この表紙美少女も通常の女子高生。コスプレとかでもなく。


 なるほど、よく見れば、これは学校の制服なんですね。

 でも、幾ら何でもやり過ぎでしょ。インナーシャツくらい

着せてあげてくださいな(苦笑)。あと、スカートの下も。


 巻頭イラストはもっとすごい。

 体に触れたり、服を着てい(自粛)ったり。


 これらイラストだけ見て、その手のジャンルを期待して

買っちゃった方々も、いらっしゃるのでは。

 それはそれでちょっと問題ですよね。期待を裏切られる

わけですから。


 いや、もちろん、本文中にそういう場面も出てはきます

ので、確かに嘘は言ってません。

 でも、ぶっちゃけ、なくても物語は成立します。完全に

おまけシーン。


 本の帯(ゴールドで華やか)には先輩作家たちによる

作品評も載っていて、各氏とも「ど真ん中、ド直球、

男を見せる」といった賛辞を贈っています。

 私も本を読み終えた時、それに尽きると思いました。


 別に無理してお色気を足さなくても、この小説は

ストーリーだけで勝負できます。


 物語の骨格がしっかりしていますので、そんなに

美少女美少女しなくても、読者の心を十分に打てますよ。

(というか、だからこその最優秀賞なんでしょうけど。)


 もし私が編集の立場だったなら、イラストは落ち着いた物

にして、ラノベとして成立するギリギリのラインまで

「硬い」作りの本に仕上げた気がします。


 本書はその真逆の方針で編まれたわけで、まあ戦略の

違いというところでしょうね。


 さて、物語の主人公はさえない少年。名字は芦屋あしや

 入学したばかりの高一。


 授業中には居眠りし、昼休みには周囲の男友達と雑談し、

下校したら家で昼寝をする、平凡な男の子。


 ただ、怠け者なこの性格は、結構筋金入り。

 将来の進路志望も特になし。働きたくない、努力したく

ない。できるだけ要領よく楽に世渡りをしたい。

 漠然とではなく、本気でそう考えているのです。


(中学時代のある出来事がきっかけになっているのですが、

やがて明かされます。)


 ヒロインは、芦屋のクラスメイト。名字は柳戸やなぎと

 整った顔立ち、モデル体型。超が付く美少女。


 ただし、髪の色も制服の着崩しも派手で、クラスで

浮いています。


 さらに遅刻の常習、また、入学式早々に暴力沙汰を

起こして停学にもなっています。

 実は中学時代から地元で恐れられる不良少女。校内に

友達もいないようです。


 その他にも悪いうわさは絶えず、芦屋としても極力

関わりたくない相手です。


 しかし、物語冒頭で芦屋は柳戸に一対一でバッタリ会い、

早速絡まれてしまいます。


 びびった芦屋はまともに声も出せず震え上がりますが、

特に暴言や暴力もなく、むしろからかわれて終わります。


 こうして、主人公とヒロインに接点が生まれるわけです。


 芦屋は相変わらず柳戸を心底恐れているものの、


・やっぱりルックスはかわいいなという再認識

・実は、うわさほどワルではないのかもという小さな疑念


の二点を抱くことになります。


 そのあと、全くの別件でトラブルに巻き込まれた芦屋は、

今の時間を逃れたいと強く念じます。


 すると芦屋は意識を失い、何と二か月後へワープして

しまうのです。


 これは、いわゆるタイムリープとは若干異なります。

 正確には、その二か月間の記憶を完全になくしている状態。


 自分が「飛んだ」期間にもちゃんと自分は存在し続けて

おり、いつも通り日常生活を送っているのです。


 ただ、本人だけが全く覚えておらず、思い出すことも

一切できません。


 そして、一体どうしたことか、この空白の二か月の間に、

柳戸は芦屋の彼女になっていました。


 「僕みたいなさえない男子が、なぜこんな美人と付き

合えたのだろう」と、最初こそ芦屋は理由を探ろうとします。


 でも、うまくいかず。一方、柳戸が実は優しくて素敵な

女の子だということが、どんどん判明していきます。


 やがて、芦屋は悟るのです。まあ、いいじゃないかと。

 おいしい結果さえ得られたのなら、きっかけや過程

なんてどうでもいいよなと。


 考えてみれば、「努力せず、要領よく成果だけ得られる

なら過程は楽な方がいい」は自分の人生観だったはず。


 まさしく、僕のポリシー通りの能力を授かったのだと。

 そう、二回目からは、期間こそコントロールできない

ものの、芦屋は自らの意志で目先の時間をスキップできる

ようになったのです。


 例えば宿題忘れがバレそうになる等、嫌な局面が来たら、

念じれば数時間をスキップ。嫌な思いは全部、「記憶が

ない間の自分」に背負わせればいいだけ。


 で、目覚めたら、自分にべた惚れの柳戸とイチャイチャ。

 言うことなし。もうゴキゲンです。



 心のどこかでは罪悪感、自己嫌悪を覚えながらも、

芦屋はこの幸せな日々に流されてゆきます。


 そんなある日、芦屋は、柳戸から少々厄介な頼みごとを

されます。大した内容ではないのですが、自分には覚え

がない。どうやら、スキップ中の自分がやったことらしい。


 芦屋は悩みます。ああ面倒だなあ。明日、柳戸に会いたく

ないなあと。

 「僕は知らない」と正直に言ったら柳戸は怒るだろうし。


 じゃあ、今回もスキップすればいいやと、芦屋は能力を

発動します。


 飛び越えた先では問題もきっと解決していて、また

二人の楽しい日々が続くはずだと芦屋は期待します。



 ところが、ワープ先ではとんでもない状況になっていて。

 ここで、物語は佳境を迎えます。


 小説の大半は芦屋と柳戸との会話、デート、食事シーン

ですので、読んでいて気持ちよかったです。


 私は仕事で疲れた夜に少しずつ読み進めたのですが、

その度にずいぶん癒していただきました(笑)。


 それでいて、前述のごとく適度に謎や緊迫もあり、

退屈させません。


 特に終盤の逆境。暗く、深刻で、切なく、ストーリー的

には大変な盛り上がりでした。


 読者としてすっかり芦屋と一体化していた私は、ページを

めくるのが悲しくて悲しくて仕方がなかった。


 そして、最後に芦屋が取った選択。


 不覚にも涙がこぼれそうになりました。


 それだけに、冒頭で書いた通り、イラスト含め

「やり過ぎたお色気、やり過ぎた美少女感」が、私には

かえすがえすも残念です。


 あとちょっとで名作になりそうなのに。

 本当に惜しい。もったいないと思わざるを得ません。


【後日追記】


 本記事をアップした後、他の方々によるこの小説の感想を

私は読み比べてみました。様々なサイトを回って。


 すると、何人かの方が、「芦屋が時間をスキップして

いる間、芦屋はもう一人の別人格と入れ替わっているのだ」

という解釈をされており、あっと思いました。


 なるほど、そういう解釈もできるなと。気付かなかった。


 私は、てっきり「記憶喪失」だとばかり思っていたの

ですが、確かに、言われてみれば「二重人格」説もあり

得ますし、むしろこちらの方が自然かもしれないですね。


 若干、私の読み込み不足だったかなと、率直に思いました。

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