道草よもぎ「幼馴染の山吹さん」(電撃文庫)感想【後書きに「文学の遊園地」の由来あり】
14 幼馴染の山吹さん
(道草よもぎ/2017年10月/電撃文庫)
表紙イラスト(かにビーム)が超かわいい。あざとい(笑)。
書店でまんまとジャケ買いしました。
白セーラー服姿の美少女がじかに地面へ体育座り。
紺のミニスカートが無防備にはらりと崩れ、太ももの
素肌がさらけ出され。
それでいて、右脚の膝から下が、うまく大事な部分を
隠しているというね(笑)。
ひねくらず、背景も入れず、ドーンとアップで基本に
忠実。素晴らしい出来。
このイラスト、本の売上げに相当貢献してると思う。
巻頭にも、両面印刷のカラーイラストがポスター風に
三つ折りでとじ込まれています。
少年雑誌の付録みたいなワクワク感。
引っ張って広げると、やはり美少女等のきれいな絵が。
人物紹介と見せ場の絵です。眺めてるだけで楽しい。
まあ、このような本の作りは「ラノベ名物」とも呼ぶべき
ものでして、特段珍しくもないんですが、作品や出版社に
よって、あったりなかったりですからね。
そして、たまに「滑ってる」ことがあるのも事実。
例えば、シリアスな内容なのにやたら色っぽいイラストが
カバーや巻頭に付けられていたり、反対に、コテコテの
美少女物なのにイラストがなかったり。
その点、今回は非常に効果的にイラストが使われています。
「イラストと同じく、小説も楽しいんだろうな」と、
私は直感的に思いました。実際、その通りでした。
ジャンルはラブコメ。
ラノベをよく読む人なら、タイトルと表紙イラスト
だけで内容の予測が付くかも。私もそうでしたね。
以下、読む前の私のストーリー予想。
・主人公はさえない少年
・少年の幼馴染みこと「山吹さん」が美少女ヒロイン
・幼馴染みなのに「さん付け」なのは疎遠になったから
・疎遠になってしまった理由は二人のルックスの差
・しかし、何かが原因で二人きりのイベント発生
・活発なヒロインに振り回される内気な主人公
読んでみたら、ほぼ正解しました(笑)。
表紙イラスト同様、奇をてらわず読者のニーズに応える
プロ意識や良し。楽しく読みました。
「ほぼ」と書いたのは、最後の一つが外れたからです。
主人公、意外と根性ありました(笑)。名字は青葉。
前述の「イベント」は、本書では「呪いを解くこと」。
ある日突然、山吹の前に魔王のような恐ろしい存在が
出現し、山吹が呪いにかかったことを告げるのですが、
物陰で聞いていた青葉が乱入し、山吹を勇敢にかばいます。
すると、魔王のような存在は、「呪いを解くためには
幾つか試練をクリアしなければならないのだが、よかろう、
貴様が代わりに試練を受けよ」と認めます。
こうして、二人は協力して試練をクリアしていくことに
なるわけです。
まあ、呪い・試練といっても、ラブコメですから、
内容は推して知るべし(笑)。
呪いの名前は「不干渉の呪い」。
くしゃみをすると、山吹は一定時間、物体に干渉でき
なくなるのです。具体的には、物をさわれなくなる。
ドアの開け閉め、飲食、スマホの取り出し等、一切不可。
手をすり抜けてしまうため、青葉が代行するしかない。
「えっ、ちょっと待って。じゃあ、着替えはどうするの?
トイレは?」
と思った諸兄、御安心召されよ(何を?)。
ちゃんと、そのシーンも出てきますぞ。
どう切り抜けるかは、読んでのお楽しみ。
ただし、これはその手のジャンルではなく、あくまでも
ラノベですので、そこのところはお含みおきを。
(なお、もし呪いが進行すると、最終的には山吹の存在
自体が消されてしまいます。)
そして、試練。
もちろん、こちらが物語のメインテーマです。
試練は、一つクリアすると次、という感じで、順番に
与えられていきます。
どれも、青葉が山吹と二人で、カップルまがいの行動を
するというもの。学校や街にて。その名も「青春ミッション」。
青春ミッションをこなしながら、二人は数年ぶりに
たくさん会話をします。昔の思い出や、最近のこと、
それから、疎遠になってしまったきっかけ、互いの想い。
ミッション一つ一つがゆっくり、密度薄めの文体で
描かれていきますので、リラックスして読めます。
惜しむらくは、脇役も魅力的なキャラばかりなのに、
余り出番がなかったこと。
あと、終盤の盛り上がりがいま一つで、モヤモヤした物が
残りました。
ただ、全体を漂うほのぼの感はよかったです。
嫌な奴もほぼ出てこず、暴力的なシーンもほとんどなし。
これ、簡単そうで、なかなかできないことです。
年末のごあいさつ
「ラノベは文学の遊園地【読書感想文】」の年内更新は
以上です。続きはまた年明け後に。
今まで、これほどハイペースでの更新が可能だった理由は、
ディブログ時代の過去記事をこちらへ移していたからです。
(移す際、それなりに加筆・修正は施しておりますが。)
そろそろストックもなくなるため、来年はのんびりした
頻度での更新となる見通しです。
気が向いたら読んでやってください。
取っつきやすく、読みやすく、理屈抜きに面白く、
素朴に感動できる小説を、いつも私は探し求めています。
例えば、周囲の他人にストレスを与えない人は、一見、
無邪気で自然体に思えます。
しかし、そういう人ほど、実は裏で密かに気配りをして
いたりするものです。
小説も同じだと思います。
軽く読める小説ほど、実は細部まで考え抜かれている
ような気がします。
読解のストレスを感じさせず、物語へ読者を没入させる
ためのあらゆる配慮。サービス業的視点を軽視しない作り手。
それでいて、漫画やゲームにはない文学的面白さが
ちゃんと備わっている。
表現手法はもちろん、改行、句読点、一文中の動詞の数、
漢字率。どんなに平易な文章であろうと、これらの課題は
常に付きまといます。一つ一つを究めてゆく。
本来、娯楽小説はこうであってほしいし、ラノベこそが
その先頭を走る代表選手だと私は期待しているのです。
仕事や学校帰りに。休日に。
立ち寄ったり出かけたりする度、誰もが楽しめる遊園地。
これからも、文学において、ラノベがそのような
位置付けであり続けてほしい。そう願っています。
KIZOOS