岬鷺宮「踊り場姫コンチェルト」(メディアワークス文庫)感想
13 踊り場姫コンチェルト
(岬鷺宮/2016年7月/メディアワークス文庫)
いつもは、新聞広告や書店にて(たまにコンビニでも。
ちなみに「キミスイ」はコンビニで購入)目に止まった
ラノベを買っているのですが、今回はあえて作者名で探し、
買ってみました。
岬鷺宮先生。
「僕らが明日に踏み出す方法」で大感激し(過去記事参照)、
他のも読みたくなり。あの作品より一年前に書かれた物です。
最新刊ではないため、駅ナカの書店とかには余り置かれて
いませんが、少し大きめの書店なら見つけやすいです。
この小説の舞台は、静岡県立高校の吹奏楽部。
浜名湖が窓から見える高校です。
入学直後、そこへ入部した主人公の少年は、二年生の
美少女の「指導」を部長らから頼まれます。
主人公の名前は康規。
康規はトランペット奏者。代々続く時計店の息子。
演奏はうまいが、型通り吹き過ぎる欠点あり。
音へ感情をこめるのが苦手。
康規は中学から吹奏楽部員で、当時の部員仲間が高校の
同学年や先輩にもいます。(ヒロインや部長は違いますが。)
「また一緒に演奏できるね」などとあいさつを交わします。
部は良い雰囲気ですが、実は大問題を抱えていました。
それは指揮者。振り方が自由過ぎて、まともな演奏に
ならないのです。
その指揮者こそがヒロインです。名前は楡。
夜の校舎、階段の踊り場にて、イヤホンで音楽を聴き
つつ踊っているところをたまに目撃され(実は康規も
入学早々目撃)、「踊り場姫」と呼ばれています。
そう、かなりの変わり者。
しかし、音楽の才能はとてつもない。
楡が作曲した吹奏楽曲は、ややチープなデジタルの
打ち込み音源なのにネットで大評判。聴いてみた康規も
驚嘆。是非、生楽器で演奏したい。
実際、部がコンクールで演奏する自由曲も、これを
やるつもりで練習中。
が、前述の通り楡自身の指揮がめちゃくちゃ。
指揮者の代役も検討したが、教師にも生徒にも人材なし。
何より、楡があと少し飛躍すれば最高の指揮、最高の
演奏になるはずだと。
これが部長たちの見解であり、康規も共感します。
そして、そのきっかけを康規なら与えられるのではと、
白羽の矢が立ったわけです。
康規は安定志向。楡とは真逆です。二人で練習すれば
互いに良い影響を与え合うかもと。
加えて、特に部長は、この二人には人間的な相性の
良さもありそうだと感じ取っています。
部長はイケメンで優しいが策士でもあり、部や康規に
危険な賭けをさせているようにも思えますが。
こうして、楡の指揮に合わせて康規がトランペットを
吹く一対一の練習が始まり、物語は展開していきます。
全体的に、「惜しいなあ」と感じる箇所が目につきました。
・登場人物(部員)が覚えにくい。名字だけ「香原先輩、
錦戸先輩」とか言われても性別すら分からない(忘れる)
・作者は吹奏楽部経験者、描写はリアル。そこはさすが。
だが、専門的な言い回しが多く、置いてきぼり感も。
分かりにくい用語をもっと減らした方がよかった
(恐らく、作者としてはこれでも減らしたつもりなの
だろうけど、まだ不十分)
・設定の掘り下げが足りない。康規の演奏上の欠点や、
時計店の息子であること。楡のかたくなさ。浜名湖、星空。
せっかく、これら全てが終盤で見事につながったのに
(この瞬間は感動モノでした)、一つ一つの必然性が
弱いため盛り上がりに欠け、じれったい
もっとも、こういうことを克服したからこそ、一年後に
名作「僕らが明日に踏み出す方法」が生まれたのでしょうね。
素晴らしかった点は、ラストの見せ場が二つあったことです。
一つは、もちろんコンクール本番での演奏。
もう一つは、康規と楡の素敵なひととき。是非、本を
お読みになってください。
コンクールでの演奏シーンも、ダイナミックでぐいぐい
引き込まれました。
ああ、これは楽器演奏経験者のみが味わえる物なの
だろうなと、私は作者へ嫉妬まで感じたのでした。