みのりfrom三月のパンタシア「茜色の記憶」(スターツ出版文庫)感想
12 茜色の記憶
(みのり from 三月のパンタシア/2017年8月/スターツ出版文庫)
ちょっと変わった作者名ですが、「三月のパンタシア」は
クリエイタープロジェクトです。
歌手を中心とした集団で、小説家の「みのり」氏もメンバー。
この小説を原案とした歌も同時発売。後日、CDも買って
みました。感想は後ほど。まずは小説について。
表紙イラストこそ制服女子高生ですが(イラストは
浅見なつ from 三月のパンタシア)、男性読者が快感を
得られる典型的ラノベとは違い、内容は落ち着いた雰囲気。
舞台は東京から電車で二時間の田舎町。夏休み。
主人公は高一の少女。名前はくるみ。
父は地元の郵便局長。母はパート。
くるみには八歳上の兄もいますが、高校卒業後に東京へ
出たきり行方知れず。家では兄の話題を避け、ぎくしゃく。
そして、くるみには男子の幼なじみがいます。同い年。
名前は凪。小中高と同じで、登下校もずっと一緒。
凪の家庭も複雑です。
上京して結婚し凪を出産した母親は、離婚後にこの町へ
戻り、幼い凪を父母(凪の祖父母)に預け、東京で失踪。
やがて凪の祖母は亡くなり、今は祖父と二人暮らし。
でも、凪は母親を待ち続けています。
くるみは凪の家へ日常的に出入りしており、凪の祖父
とも家族同然の仲。夏休みにも凪の家に入り浸り、畑仕事
を手伝ったり(凪の祖父は農家)昼食をいただいたり。
実は、くるみは凪に恋心を抱いています。
さて、凪は秘密の(くるみも知らなかった)超能力を
持っています。手紙に宿る想いや記憶を読み取る力。
手紙を書いた人の現況が詳しく分かるのです。
ただし代償あり。超能力を使うたび、凪は「大切なもの」
の記憶を一つ、すっぽり失ってしまいます。
例えば、昔、祖母の記憶を失った時には、祖母は自分に
とって「出会ったことさえない人」になり、そのあと
会っても初対面のように振る舞うため、祖母も周囲も
傷付きました。
物語のポイントを整理すると、
1 くるみと凪の恋
2 くるみの兄の行方
3 凪の母の行方
4 凪の超能力
ですね。
そんなある日、宛先人不明の手紙が郵便局に届き、
成り行きで凪は超能力を使います。
こうして、周囲の皆が前述の4を知るわけです。
(この時に凪がなくした記憶は、かわいがっていた動物。)
その結果、2や3も解決できるかもしれないと、くるみは
気付きます。ただし、1は犠牲になるかも。凪がくるみの
記憶をなくす確率は高いからです。
恋心の有無はさておき、凪がくるみを仲間だと思って
いることは確かですからね。
凪に超能力を使わせさえしなければ、現状維持はできる。
さあ、くるみはどの幸せを優先するのでしょうか。
序盤は、くるみと凪の平穏な時間もじっくり描写され、
食事シーンも豊かで、野菜の色や香りまで伝わってきます。
途中からは事件が立て続けに起こりますが、やはり
丁寧な描写で、気持ちよく読みました。
(この辺はラノベ作家さんたちにも見習っていただきたい部分。
結構、雑な方々が見受けられるので。)
が、全体を通して泣けるとも楽しめるとも言い切れず、
これといった特徴がない。
プロの仕事としてよくまとまってはいるんですけど、
それ止まり。
前述の通り、ラノベとしては刺激不足。
じゃあ、れっきとした青春小説などに分類できるかと
いえば、そこも微妙なところ。
一応、思春期特有の心理も描写されてはいました。
でも、それらの中に、ストーリーの仕掛け自体(超能力
や意外な展開等)を超えるものはなかったですね。
やっぱりこの小説は娯楽作品でしょうし、恐らく著者も
そのつもりで世に出していると思います。
であるなら、もう少しセールスポイントがあった方が
よかったかも。
最後に、同時発売された歌の感想を。
「リマインドカラー 〜茜色の記憶〜」・三月のパンタシア
作詞作曲・buzzG 歌・みあ
(シングル「ルビコン」カップリング)
さわやかで聴きやすいです。声も演奏もきれい。ピアノ
ソロで始まる前奏に心をつかまれます。語数多く歌詞を
詰め込んだサビも印象的。
ただ、小説同様、これといった特徴なし。
ヒットは難しいかと。
また、小説のネタや世界観が歌詞に反映されておらず、
相乗効果も感じませんでした。
せっかく、真面目に本を読んでから歌を聴いたのに残念。