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外道転生  作者: カジキ
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餓鬼道(後編)

 食べられるものを探してあちこち歩いていると、外道の餓鬼と小さな餓鬼は一際大きな木までやって来た。


 その木は他の木と同様に枯れてはいたが、幹は太く、枯れてさえいなければ御神木と呼ばれるであろうほど大きさだった。


 不思議なことにその木の周りには餓鬼は一匹もおらず、齧られた跡すらなかった。






「この木……。」


 外道の餓鬼は大きな木をぐるりと回り、この木の異様さに目を剥いた。


(何度も廻っているが、餓鬼道でこんなに大きな木は見たことがないぞ…。大体は餓鬼共が喰って倒してしまうってのに...見逃していたか?それとも…まさかあの餓鬼の戯言どおりの餓鬼共を解放する為の鍵だったりするのか?)

 外道の餓鬼が大きな木を注意深く観察している間、小さな餓鬼は外道の餓鬼をただじっと見ていた。


 しばらくして一通り観察を終えた外道の餓鬼は小さな餓鬼が静かなことに違和感を覚え、話しかけた。


「どうしたんだい?黙りこくって。餓鬼たちの解放をするんだろう?少しくらい失敗したからって...」

 外道の餓鬼が振り返った瞬間、目前には小さな餓鬼が牙を剥き出し迫っていた。


 小さな餓鬼は外道の餓鬼の喉元目掛けて飛び付き、外道の餓鬼はそれを間一髪で避けた。

「おいおい、どうしたんだい?...とうとう正気でも失ったか?」

 小さな餓鬼は問いかけには応えず、更に外道の餓鬼に襲いかかった。


(前世の善行が足りなかったかな?正気を失うなんて界渡りまで遠い餓鬼だったか...。)

 襲いかかり続ける小さな餓鬼の攻撃を避けながら外道の餓鬼は小さな餓鬼を観察し続けた。


 そうしていると他の餓鬼たちも集まって来て、外道の餓鬼たちに狙いを定めるような動きを見せた。

(ヤバいな...一斉にかかられたら流石に死ぬな。)

 そうして周りに気を取られた一瞬、外道の餓鬼は目の前の小さな餓鬼の攻撃を避け損ね、左肩を喰い抉られた。


「っ...!!」

(しまった!!)

 外道の餓鬼は左肩を押さえて小さな餓鬼から急いで距離をとった。


(不味いな...。この出血量じゃどの道...もう殺るか?けど餓鬼道にはあまり留まりたくはないんだよなぁ...)




「あれぇ?なかなか当たらないなぁ!!!」






 バッ


 外道の餓鬼が次の転生を考えていると、随分と聞き慣れた声が正面からした。

 外道の餓鬼は顔を上げ、目を剥いてその声の主を凝視した。


「すごいね!!ボク結構頑張ってるつもりなんだけど!!!修羅道か畜生道の期間が長いのかな?!!ボクはあの辺あんまり行かないんだよね!!すぐ死んじゃうんだよね!!何故か!!!!」

 外道の餓鬼の前には理性を保ったままの小さな餓鬼が楽しそうに嗤っていた。


「お前っ...!!」

 外道の餓鬼はその瞬間自らの判断が誤りであったことを悟った。

 外道の餓鬼は取り敢えず時間稼ぎのため、痛みに顔を歪めながら口角を上げて小さな餓鬼に向き合った。


「...おかしいな。相手が外道かどうかの判断は結構自身あったんだけど...どうやったの?君からは悪意を感じなかったんだけど?」

「うん?...ああ!!!君、憎悪が強いタイプなんだね!!!!憎悪のタイプは悪意に敏感だよね!!!!外道の見分けが得意でいいよね!!!!!羨ましい!!ボクは無知が強いタイプなんだ!!!だから外道を見分けるの苦手なんだけど、ボクは忘れることが得意なんだよ!!自分の事と鍵集めの目的を忘れて記憶に鍵をかけたんだ!!開錠条件をつけてね!!!その間に近づけばバレないんだよね!!!!悪意が無いからね!!!!!じっくり観察出来るし奇襲がしやすいんだよね!!!!!!」






 外道に堕ちる魂には3つの要素が必要である。




 強欲で在る事。

 無知で在る事。

 そして、憎悪を持つ事。


 ただし、外道にも個体差はある。

 持っている3つの要素に個体比率があり、その中で最も強い比率のものが能力として現れる傾向にあるのだ。


「忘却か...。またリスキーな事をするね。」

「そうかな?!!!!結構すぐ思い出すよ?!!!ボクの手を見ればね!!!!!!」


 そう言って小さな餓鬼は自らの左手を突き出して、掌を見せつけるように開いた。

 そこには外道の証である刺青がはいっていた。

「ね?ね?!!コレを見ればいつだってボクが何者で何をすればいいかすぐに思い出せるんだ!!!!!だってコレはボクが何者で何をすべきかの象徴だもの!!!!!!自分の名前は思い出せないのにね!!!!!!!アハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!」

 小さな餓鬼は何が可笑しいのか愉しそうに笑った。


 外道の餓鬼は小さな餓鬼の相手をしながらも周りの餓鬼の様子も窺っていた。

 餓鬼たちはジリジリと二匹に近づいていた。

(一斉にかかられたらたまったもんじゃないと思ってたけど、こうなったら死なば諸共ってね。鍵を取られるよりはマシでしょ。)


 その時、考えている事がわかった訳ではないようだが小さな餓鬼は周りを見て言った。

「う〜ん...ちょっと急がないとダメだね!!他の餓鬼共が集まって来ちゃってるし...。と、言うことで!!!とっとと死んで...ねっ!!!!!」


 小さな餓鬼は言い終わる前に外道の餓鬼に襲いかかった。

 外道の餓鬼は左肩を庇いながら、転がるように小さな餓鬼の攻撃を避けた。

 だが、二匹が動き出したのを合図に周りの餓鬼たちも動き出し、二匹の餓鬼に襲いかかった。

 襲いかかってきた餓鬼の攻撃を避ける為に外道の餓鬼はそのまま転がり続け、なんとか攻撃を凌いでいた。

「...っ!!!かっ...ぁはっ!!」

 外道の餓鬼は左肩の痛みに一瞬気を取られて大木に近づいている事に気づかず、強く木に背中を打ちつけた。

 一瞬呼吸が止まったが集まって来ていた餓鬼の中の一匹の追撃を間一髪躱し、外道の餓鬼は何とか呼吸を整えた。

(...!!...くっ...そ!!!思ったより傷が深い!!これは大分不味い...。意識が定まらない...。アイツは今どこだ?餓鬼どもの位置は?何匹こっちに来てる?)


 外道の餓鬼はまず、小さな餓鬼の位置を確認した。

 小さな餓鬼は右手側、多数の餓鬼に苦戦している様子で、外道の餓鬼に襲いかかる余裕は無さそうだった。

 次に外道の餓鬼は自らに襲いかかってきた餓鬼たちを見た。

 餓鬼たちは外道の餓鬼を見てはいるが、何故か襲いかかってこず、外道の餓鬼を囲いこんで攻めあぐねているようだった。


(...なんだ?何故襲いかかって来ない?警戒している?何を...)


 ハッ

 外道の餓鬼は餓鬼たちが襲いかかって来ない理由に思い当たり、自らが背にする大木を見上げた。

(なるほど。なら、)

 外道の餓鬼はニヤリと嗤い、囲んでいる餓鬼たちの隙をついて小さな餓鬼に体当たりした。


 一方で、小さな餓鬼は自らを喰わんとする餓鬼たちを相手にしていて外道の餓鬼の突撃に反応が遅れた。

「っ!!!まずっ...ぐぅっ!!!!!」

 外道の餓鬼は小さな餓鬼の左腕に噛みつき、小さな餓鬼の左腕は砂になった。

 小さな餓鬼の残った左手はポトリと地面に落ちた。

「ああ!!!!ダメだダメだダメだダメだダメだ!!!!!こんなところで終われない!!!!!!ボクは救世主(・・・)なんだから!!!世界を救う為に存在しているんだから!!!ボクはボクはボクは!!!!!!!」






「五月蝿いなぁ...アレ(・・)に何を吹き込まれたか知らないけど、君は救世主なんかじゃない(・・・・・・・・・・)よ。」

「...は?」

 小さな餓鬼は落とした腕を見て発狂していたが、耳に入った外道の餓鬼の言葉に顔を上げた。






(全てを忘れてしまうボクにとって左手は自らの存在を確認する生命線だ。)


(何も知らないボクにとって指針は存在理由そのものだ。)


(何も理解できないボクにとってあの人(・・・)の言葉は...)






「言葉は...」


 小さな餓鬼は今までの何処か熱に浮かされたような瞳から燃えるような憎悪を宿した目で外道の餓鬼を睨んだ。

「どうした?アレ(・・)に嘘を吹き込まれたことに気づいて怒ったのかな?」

 その瞬間小さな餓鬼の中でプチっと何かが切れた音がした。


「あの人の...あの人の言葉は絶対だぁぁぁ!!!!!!!!!!!おまっお前が!!!!!あの人を侮辱するなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 小さな餓鬼は怒りのまま外道の餓鬼を噛み殺さんと飛びかかった。








「無知とは斯くも憐れだねぇ。」


 外道の餓鬼は小さな餓鬼の攻撃を難なく避け、小さな餓鬼は外道の餓鬼が背にしていた大木に噛み付く事になった。

 次の瞬間、小さな餓鬼の体は青い炎に包まれ燃えはじめた。

「何で?!!何で?!!!!!何だよこれ!!!!

 何で燃えてるんだよ!!!!!!何でなんだよ!!!!!!!!!!」

 小さな餓鬼は誰に問いかけるでもなく自らの現状に対して吠えた。


「この大木は御神木なんだよ。」

 その慟哭に応えたのはやはり外道の餓鬼だった。

「...御神木?」

 小さな餓鬼は先程の怒りも忘れて外道の餓鬼の言葉を待った。

 その様を見た外道の餓鬼は無知の餓鬼というものを呆れ半分憐み半分で見つめて応えを続けた。

「...神の木。神が宿る木、ではなく神が管理する木という意味での御神木ってとこかな。この木が他の木と違って食い荒らされていないこと。餓鬼共が近づかないこと。そして、さっき囲まれたとき俺に噛みつこうとした餓鬼が、俺の後ろにいるべき餓鬼がいなかったこと。この三点からこの木に噛み付いた餓鬼は消える。つまり、罰が下ると推測出来る。まぁ、罰云々はどうでもいいけど消える、ってのが重要だよね。」

「何で?」

 小さな餓鬼はほぼ頭だけになった状態で問いかけた。

 小さな餓鬼の反問にこれも忘れていくんだろうな、と思いながら外道の餓鬼は続けた。

「今俺たちは鍵の争奪戦をしてるんだよ?相手を殺すのは最優先でしょ。」

「あー...そっか!!!!そうだったそうだった!!!忘れてたなぁ....」

 小さな餓鬼はケラケラ笑いながら灰となり、サラサラと風に消えていった。


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