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プロローグ
「あ"ぁ〜・・・ココはガヤガヤうるせぇなぁ〜……」
天高くそびえるビル群。その眼下は雑踏に塗れている。
その中を悠然と闊歩しながら、独り言の愚痴を口にした男は黒いシャツに黒いコーディガン、黒いパンツ、黒い靴という怪しい出で立ちで人々の合間を縫って歩いていた。
全身真っ黒で独り言を呟く男を不審そうにチラチラ見る視線もあったが、そんな中で男は周りを気にする素振りも無く、尚も独り言を続ける。
「人はやたら多くてゴチャゴチャしてるし、行動に一貫性が無いから読みにくいんだよなぁ〜…ホント探しにくくてサイアク……とっととすませてぇなぁ〜…」
そんなことをブチブチ言いながら、何かを探している素振りも見せず、男はポケットから携帯食品を取り出し、ビニールを剥がし、口にしようとしたところで何かに思い至ったように静止した。
「…あぁ…でも、良いとこもあるな…」
男は手に持ったままだった携帯食品に目を向け、それを口にしながら言った。
「メシは美味い」
男はそのまま雑踏の中へ紛れていった。