消えたあの子
2話目です。楽しんでいただけると嬉しいです。
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始業式が終わり、体育館でクラス発表が行われた。すると、未来がこう聞いてきた。
「雫くんはどこのクラスだったの…かな?」
「えーと…あっ、D組だ」
「えっ!本当に!?やった!一緒だよ!一緒!」
「おっ、おう」
俺は未来のことを「さっきの事といいこいつは情緒不安定なのか? 」と心の中で呟いた。が、未来がとても嬉しい様子だったのでこれ以上面倒にならないよう、そっとしといてあげた。
するとある職員から一つ連絡が入った。
「新入生は下駄箱に靴を入れ、指定されたクラスに行ってホームルームをはじめてください。二年、三年生はまだ体育館に待機をしていてください」
二年、三年生からけだるそうな声が聞こえた。これが新入生の特権だなと雫は思い、小さく心の中で笑っていたつもりが……
「雫くん、何笑ってんの?」
顔に出ていたようだ。恥ずかしい、やばい、恥ずかしい。
雫はムスッとしてこう言った。
「別に、てか早くクラスに行こうぜ」
「うん」
「確か一年D組だったよな?」
「うん、そうだよ」
「よし、行くか」
俺達は生徒や先生達が騒がしく会話をしていて、う程よくクーラーの効いた体育館を後にしてクラスに向かった。
「ここか」
そこにはもう十数名の生徒が指定された席に座っていた。指定された席は黒板に貼られていた席次表に表記されているようだ。
「えーと、俺は……ここか。未来はどこの席なんだ?」
「あっ、えっと、ここ……かな? 」
「結構遠いな、お前、話相手作れるか? 」
雫は心配してくれたのか未来の顔を伺いながら言った。だが、未来は懸命に笑いながらこう言った。
「大丈夫だよ」
その笑顔は嘘をついてるように見えたが、俺は大丈夫だろうと思うと同時に未来の笑顔が不覚にもかわいいと感じてしまった。
そのあと、照れくさそうに雫はこう言った。
「そっ、そうかよ」
俺は未来をあとにして自分の席についた。
ガラガラ……
先生が扉を開けて教室に入ってきた。先生はいかにも細めの中年男性という感じの人だった。そして、クラスメイト達は席に着いていった。
「席に着けー。体育館で言われた通りホームルームから始めるぞー。えーと、では自己紹介から、俺の名前は」
そう言いながら先生は黒板に自分の名前を書いていった。
「坂本蓮二だ。よろしくなー」
坂本先生は気だるそうにそう言った。
「でーは、まず全員自己紹介なー。まず一条から」
あまり目立たずやろうと心の中で呟きながら雫は席を立ちこう言った。
「出席番号一番の一条雫です。よろしくお願いします」
すると先生は雫に構わずこう言った。
「えーじゃあ次、入山」
俺はホッと安心して自分の席にある椅子に座った。そして次々と自己紹介が終わる中、一人異彩を放つ様な自己紹介をした奴がいた。
「出席番号十三番の神咲凛でーす。能力がある人以外全てクズだと思ってまーす。よーろーひーくー」
クラスメイト達は唖然とし、先生は面倒だったのか何も突っ込まず、俺は「なんだこいつ」と思ったが神咲の容姿は美形でショートヘアの金髪で少しばかりかわいいと思ってしまった。これで性格があんなのじゃなければ完璧なんだけどな……
そう心の中でぶつぶつと呟いているとホームルームは終わっていた。すると、先生はこう言った。
「今日はもうこれで終わりだから帰っていいぞ。では、終了」
先生は生徒達をあとにして教室を去っていった。そして俺は未来の席に行き、こう言った。
「帰るか」
未来はこう応えた
「うん、でも、なんか……視線感じるんだけど……」
俺は周囲を見渡したが、そんな気はせず未来にこう言った。
「俺はそんな気しないけど……お前の気の所為なんじゃない?」
「そっ、そう……ならいいんだけど」
「ほら、もう帰ろうぜ」
「う、うん……」
雫達は教室を出て、階段を下りて下駄箱から靴を取り出し、昇降口から出ていった。外を見るとまるで未来の心の中を映し出したかのような黒い空が描かれていて、さらに不安を漂わせるその黒い空を反射した雨粒がザーザーと学校のグレー黒と白の間の曖昧な色をしたコンクリートに強く打ち付けていた。自分がコンクリートだったらと考えると胸が苦しくなる。
すると、雫はこう言った。
「雨か……未来、お前傘持ってるか? 俺は持ってるけど……」
「持って……ない」
「しょうがないな……傘やるよ」
未来は驚き、焦りつつも嬉しそうにこう言った。
「えっ? いいよいいよ……雫くん濡れちゃうから……」
雫は引かず、堂々と言う。
「構わん! 」
未来は雫の優しさのありがたみを感じながら照れながらも嬉しそうにこう言った。
「一緒に……入らない? 」
雫は譲らずまたもこう言った 。
「構わん! 」
未来は残念そうな顔を浮かべながらも苦笑いをしながらこう言った。
「そっ、そう……」
そして俺達は雨の中急ぎめに歩きながら学校を去り、駅へ向かっていった。
すると、未来は俺に向かってこう言った。
「ほんとに……大丈夫? 」
「何が? 」
「いや……その、雨で……雫くんが……濡れちゃったりして……申し訳ないと……思い、まして」
すると、雫は雨に打たれながらもこう言った
「大丈夫大丈夫、雨は鞄で防げてるし」
「でも……入って、欲し……いの」
雫は照れながらも未来の持ってる傘の柄を握ろうと手を出し、こう言った。
「貸せよ」
「……えっ?」
「貸せって言ってんだろ……」
その時未来の心に嘘をついていない、そう感じ取れるような笑顔に俺は珍しく心を踊らした。
未来は満面の笑みでこう言った
「うん! 」
未来は雫に差している傘を渡そうとしたその時だった。
「……未来?」
その時は一瞬でまるで太陽のようにきらびやかな未来の笑顔が空気に変わった瞬間だった。その通りだ。俺の横には誰もいない。
俺の横にいた彼女は消えていたのだ。