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一応の解答編

キーワード探しの解答編です。ヒントから上手く導き出せていたらよいのですが。

 エピローグ ~キーワード~

 スツールに腰掛けた清田は、テーブル向こうの面々を見回し、一呼吸置いた。

「えー、ひとまずはセキュリティ解除おめでとう御座います。私もホッとしています」

「本当に。この度は、何とお礼を言えばいいか」

保奥は目を潤ませている。

「今回は、有難う御座いました」

北上の言葉は、感情が欠落していた。

「…良かったですね」

保奈見は憮然としている。

「ぜひお聞かせ下さい、なぜあのキーワードに行き着いたのか!」

推理小説の謎解きシークエンス導入部としてはベタな保奥の言葉に、清田は微笑した。

「まぁ、この小説には、色々とミスディレクションを意図した文章が挿入されていますし、文字数も使用する文字種もその中に紛れ込ませてある訳で。まぁ、英語で月の表し方を当てあう件や、数八の元恋人の件等は、とってつけた感が強いと言えます」

自ら淹れたお茶で、喉を潤す。

「でも逆に、そういった不自然なものの中に忍び込ませてあるのかも知れない。鷹安さんも日羽里さんも、そちらに賭けて失敗した訳で」

「つまり、キーワードは話の流れの本流に隠されていた、という事ですね?」

北上に向かい、頷く。

「そうです。しかし、それに気付けたとしても、やはり二つのパラメタを明確に出来なければならない。つまり文字数と文字種ですね」

「その点については、鷹安さんは半分合っていた訳ですね?」

「はい。文字数は八。さて、となれば、残る文字種は妹の名前が示している、と容易に推測できる訳ですが」

テーブル上の原稿、丸を付けたそれを指さす。

「一野美、ひのみ、イヤミとも呼ばれていますが、この少々変わった名を読み替えれば。数のみ、と読めますね?」

「一志君の、一…」

保奥は今更ながらに気付いた。

「その通り。実は僕が気付いたのもそこでね」

「要するに、八桁の数字」

北上の簡潔なまとめ。

「ええ。そういう数字を、小説の中から読み取ろうとすれば、三つ見出せるでしょう。物語の当日、一年前、二年前、それぞれの日付です。しかし題名の『大切な日』を、物語の当日と考えるのが自然でしょうから、焦点はこれが何年か、という事になります」

「『バレンタインデーのお返し』と言ってますから、三月十四日ですよね?」

「そういう事だね」

保奥に頷いてみせる。

「ただ、年が判っても、文字数が判っていなかったら、五桁や七桁にしてしまう可能性があるね。八桁にするには?」

「年は西暦四桁で、”314”じゃなく”0314”にしないと、ですよね?」

「これも、トラップの一部だったんじゃないかな?油断がならない、というか。まぁ、それはともかく。この物語当日の年を特定する情報は、この…一野美の『去年は』云々から、数八の『いや、知ってるだろ?』云々までの会話の中にあるんだ」

原稿を繰り、問題のページを示しつつ。

「ここでのオリンピックとは、冬期で良いんですよね?」

「時期的に見れば、まずそう考えるのが当然だろうね。問題は、一昨年もこの年も、オリンピックイヤーだったという事なんだ。文章からはそう読み取れる。千九百九十四年以後、冬期と夏季は二年おき開催になっているから、もし、この組み合わせだと特定は困難になる。けれど、数八が『この季節のは、余り興味がない』と言っているし、サッカーにも触れている。これはFIFAワールドカップと考えられるから、導かれる年は一組しかない。千九百九十二年と千九百九十四年、という事になるんだ。曜日についてもプログラムを組んで算出したら、文章通りだった。千九百九十二年二月十四日は金曜日、閏年だから三月十四日は土曜日。千九百九十四年二月十四日、三月十四日とも月曜日。これで、キーワードは”19940314”だと判明した訳だね」

「プログラミングも出来るんですか!?」

保奥の尊敬の目差しに、清田は少々照れた。

「以前はPCゲームのメーカーに勤めてたからね。まぁ、それが今の仕事に繋がっている訳だけれどね」

「凄い!どんなゲームを作っていたんですか!?」

「いや、まぁ、色々とね」

まさか十八禁のファンタジー触手姦ものや歴史人物性転換もの等、とも言えず、苦笑する。

「…あの、なぜ、私がこの席に呼ばれたのでしょうか?」

助け船という訳でもないであろうが、沈黙を通していた保奈見が口を開いた。

「ああ、実はですね」

清田は立ち上がり、机に向かうと鍵の掛かった引き出しを解錠、中から銀行封筒を取り出し戻ってきた。

「まずは、これをお返しします」

テーブルの上に置き、差し出す。

「お母さん、それ…」

保奈見はすまし顔の清田を一瞬睨み付け、封筒を素早くハンドバッグに仕舞った。

「さて、キーワードは判明しましたが、疑問が残りました。なぜ、このキーワードなのか」

「…適当ではないのですか?」

保奈見は伏し目がちになった。

「そうでしょうか?手紙の中で、『私の魂』とまで言うものを隠すのに、適当なキーワードを割り振るというのは。すっきりしなかった所へ、貴女が九十三年から九十八年まで汝 妖の担当編集者だった事を知り、合点がゆきました。彼は前の奥さんを失い、スランプに陥っていた。そこに現れた貴女が、立ち直るきっかけとなった。このキーワードは、その記念日的なものではありませんか?あの文章を読んで貴女はその事に気付き、いざとなればこっそり保奥君に教えるつもりだったのでしょう?それは貴女の功績となる」

清田に見据えられると、保奈見は見返す事が出来ない。顔を背ける。

「ところで、例のフォルダに納められていたものですが」

北上が割って入った。

「はい?」

「一応、功労者の貴方にお知らせしておこうと思いまして。多数の短編小説が見付かりました。いずれも汝 妖名義としては意欲的、実験的ジャンルのものでした。随分と前に書かれたものもあれば、体調を崩されてからのものもありました」

「チャレンジャブルだったのですね」

「そうでしょうか?私には、執筆で溜まった鬱憤を吐き出す為の、謂わばゴヤの『黒い絵』の様に思われましたが?」

「つまり、魂の叫びだったと?どうするんです?」

「北上さんに預けました。未発表短編集として出版する事になるみたいです。一篇を除いて」

保奥は母親を見た。保奈見は溜息をつき、一つ小さく頷いた。

「それは、兄や姉の母親が亡くなって悲嘆に沈んだお父さんを救った、お母さんに捧げられた詩でした。その中で、キーワードの日付は『魂の再生をみた日』と讃えられていました」

その言葉の裏に淫靡なものを清田は感じ取った。その詩の存在を知っていて、他人に知られる事を嫌った為に依頼を断わるよう訪れたのであろう。

「…まぁ、とにかく、私も役割を果たせてホッとしました」

「ところで、報酬についてですが」

「いや、別に要りません」

「ですが、それではこちらとしてもすっきりしないのです」

「そうですか?だったら、短編集が出たら一冊、いや二冊、送って下さい」

「二冊、ですか?」

「ええ。まず私が読んで、良さそうなら甥にも一冊渡そうと思いまして。布教用、という奴ですか」

ニッコリ微笑むと、北上が土産で持ってきたクッキーを一枚、皿の上から取り上げ囓ったのであった。

 END

いかがでしたか?感想など頂けたら幸いです。

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