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オカルト荘の噂話  作者: 山羊
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四話





景は菜子が仲間になることを反対したが、結局八尋に押し切られる形で承諾した。菜子の意見を聞くものはいなかったが、菜子も別に嫌ではなかったため、彼らの仲間に加わることにした。


「で、いいネタって?」


八尋が景に尋ねる。そういえばいいネタを仕入れてきたと言っていた。景はゴホン、とわざとらしく咳払いをし、真面目な顔をして切り出した。


「テケテケって知ってます?」


景の言葉に、菜子は首を傾げる。テケテケ…どこかで聞いたことのあるような。

しかし菜子とは対照的に、八尋とゆきねの二人はテケテケという言葉を聞いた瞬間、目を輝かせた。


「テケテケって何ですか」


菜子が尋ねると、八尋が嬉しそうに語り出す。


「簡単に説明すると、テケテケっていうのは下半身がなく、上半身だけの亡霊だ。腕を使って移動する」


「上半身だけ…」


そこまで身体の欠損した幽霊は、見たことがない。片腕、片足のない幽霊は稀にいるのだが。


「で、詳しく話せよ」


八尋が促すと、景は頷いて話し始めた。


「俺の学校の近くにある女子高なんですけど、最近休校になったんです。俺も聞いた話なんでよく分からないんですけど、どうやら生徒が次々に倒れたらしくて」


「それにテケテケが関係してるの?」


ゆきねが身を乗り出す。八尋も平良も興味津々、といった感じだ。


「実は、倒れた生徒はみんな前日に尾久山おくざんに登っていたみたいなんです。研修で」


それを聞いた八尋が、「なるほど」と呟く。他二人も分かったようで、頷いていた。また菜子だけが分からない。


「尾久山には、上半身だけの女性の霊が出る。そうだったよな?」


景が肯定する。それがテケテケ、というわけか。

よし、と八尋が何かを決意したように立ち上がった時、平良が八尋の腕を掴んだ。


「あそこはやめた方がいい」


平良が真剣な顔で八尋を止める。八尋は一瞬驚いたようだったが、すぐに「何で」と聞き返した。平良は何かに怯えるように、額には汗をかいていた。


「尾久山はだめだ。あそこにいるのは、そこらの幽霊みたいな優しいもんじゃない。行ったら殺されるぞ」


平良の言葉に、全員が固まる。八尋はゆっくり腰を下ろし、平良に向き合う。


「お前、もしかして見たことあるのか?」


「…いや、見たわけじゃない。でも、前に尾久山に入ったことがある。入った途端に分かったんだ。おぞましいものがいるってな」


平良の言葉から、どれだけ危険なのか伝わってくる。菜子は、それほどまでに恐ろしい霊に出会ったことはない。八尋を伺うと、真剣に考え込んでいるようだった。


「や、やめときます…?」


景が恐る恐る問いかける。彼もこのただならぬ雰囲気に、冷や汗をかいていた。


「いや、行って確かめる」


八尋がそう断言する。「おい!」と平良が焦った声を出すが、八尋の意思は決まったようだった。


「テケテケが危険なのは知ってる。たくさん噂を聞いてきたからな。でも、今までいくつか霊の噂を検証してきたけど、こんな大物は初めてだ。こんなの、見逃すわけにいかないだろ?」


「でも、死んじゃうかもしれないのよ」


ゆきねが、不安そうな声を出す。


「死ぬのは怖い。でも、それを上回る好奇心がある」


にやりと笑う八尋を見て、菜子は納得した。この人は、霊への好奇心だけで動いているんだ。オカルト好きとはそこまでか、と菜子は驚くが、死を恐れぬほどの好奇心に憧れもした。


「でも、今回は俺だけでいい。みんなまで危険に巻き込むわけにはいかないからな」


「え?」


八尋のその発言にみんなが戸惑う中、平良だけが「はぁ〜」と大きくため息を吐いた。


「お前、馬鹿だろ」


「なっ…!」


平良が八尋の頭を軽く叩く。


「霊感のないお前が一人で行動して、何ができるっていうんだよ。ただ死にに行くのか?」


「それは…」


「俺も行く」


八尋が目を見開く。すると、それに続けてゆきねが「私も手伝うわ」と、声をかけた。同じく景と菜子も頷く。


「楽しそうなことに、私を仲間はずれなんて許さないわよ」


ゆきねがふふっと笑うと、八尋は動揺を隠せず「でも…」と言い淀む。そんな八尋は気にせず、平良が手を叩いた。


「じゃあ、まずは情報収集からだな」



そうして、その日はこれからの計画を話し合った。菜子は不思議と恐ろしくはなく、高揚感すらあるほどだった。


しかし、この人情ドラマのようなやり取りから一変して、菜子たちはテケテケの恐ろしさを身をもって知ることになる。


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