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オカルト荘の噂話  作者: 山羊
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二話

八尋に尋ねられ、菜子は言葉に詰まる。見える、とは幽霊のことだろうか。ということは、この人達も…?

菜子が頷こうとした時、背後から穏やかな声がかかった。


「あらあら、もう仲良くなったのねぇ」


振り返ると、にこにこと可愛らしい笑顔を向ける老人がいた。


「こんにちは、管理人さんですか?」


「えぇ、そうよ。貴女が隆之の娘ね。可愛い女の子が入ってくれて嬉しいわぁ」


「フミさんって呼んでね」と微笑む彼女は、本当に嬉しそうだ。父が学生時代にお世話になった方らしく、「とっても可愛くて優しいおばあちゃんだから」と言われていたが、本当のようだ。


「ばっちゃん、ばっちゃん、俺も可愛いだろ?」


八尋が横から入ってきて自分を指差すが、「あんたは男でしょう」と言われ、シュンとしていた。それを見て平良が苦笑する。そんなやり取りに住人たちの親密さを感じつつ、菜子はフミに部屋へ案内をお願いした。


菜子が案内されたのは、105号室だった。この丘春荘は二階建てで、各階に5つの部屋がある。105号室は、一番奥だ。

一通り必要な物を出し終え、菜子は部屋の真ん中に腰を下ろす。大きな家具などは後から運ばれてくるため、部屋の中はガランとしていた。窓を開けているため、新鮮な空気が身体中に行き渡る。都会暮らしだった菜子には、田舎のこの空気が心地良かった。

挨拶周りをしたほうが良いのか、と考えていると、コンコン、と玄関の戸がノックされた。菜子は立ち上がり、訪問者を確認しに行く。来たばかりなのに、一体誰だろうか。


「やっほー遠矢さん、さっきぶり」


ドアを開けた途端、日光が当たってキラキラと光る茶髪が目に入る。


「えっと…芦沢さん」


菜子が名前を覚えていたことに満足したのか、八尋はうんうん、と頷いて用件を切り出した。


「今日、夜8時に俺の部屋に来ること。絶対な!」


八尋はそれだけ言うと、手を振ってさっさと行ってしまった。菜子は訳が分からず立ち尽くしていたが、まぁ行けば分かることだろうと、8時までの約2時間の過ごし方を考えた。







ここか、と菜子は203号室の前で立ち止まる。八尋が何の用で呼び出したのかは分からないが、あの雰囲気だと警戒する必要はなさそうだ。コンコン、と戸をノックすると、「はいはーい」という八尋の声とともに、走ってくる足音が聞こえる。


勢いよく扉を開けた八尋は、菜子を見るとにかっと笑い、「さ、入って」と促す。菜子は戸惑いながらも、八尋の部屋へ足を踏み入れた。



ーーーパンパンパンッ。



リビングと思われる部屋のドアを開けた途端、大きな音とともに紙吹雪が舞い散った。


「!?」


菜子は驚いて、目を見開く。クラッカーが鳴らされたのだと気付いた時には、八尋と平良、それと知らない女性一人が菜子の前に立っていた。


「オカルト荘へようこそ!」


八尋が両手を広げる。先程のクラッカーや、机に置かれた料理の数々から察するに、彼らは菜子の歓迎会をしてくれるらしい。しかし。


「オカルト荘?」


ここは丘春荘であり、オカルト荘ではない。八尋の言い間違えだろうか。


「そうよ、オカルト荘」


菜子の問いに答えたのは、初めて会う女性だった。彼女を改めてよく見て、菜子はほう、と感嘆の息をつく。彼女ほどの色気がある女性を見たのは初めてだった。整った顔立ちに大きな胸、引き締まった腰、艶のある脚…。目の下の隈を除けば完璧だ。


「綺麗ですね…」


菜子が思わずそう呟くと、女性はぱぁっと顔を輝かせ、菜子に抱きついた。


「やだなにこの子、超素直!かわいい〜!」


むぎゅむぎゅと押し当てられる胸に息苦しくなりつつも、菜子はやんわりと身体を離す。


「遠矢菜子です。105号室に越してきました。よろしくお願いします」


とりあえず初めて会う住人には挨拶だ、と思っていた菜子は、ぺこりと頭を下げた。


「あら、ご丁寧にありがとう。菜子ちゃんね。わたしは103号室の玉樹たまきゆきね。ただのOLよ。仲良くしましょ」


ゆきねは、軽く菜子の頭にキスしながら挨拶する。側で八尋が「社畜OL」と呟いたが、ゆきねに睨まれて口を閉ざした。とても濃いお姉さんだ、と思いながら、菜子は先程の問いをもう一度聞く。


「あの、オカルト荘って…?」


待ってました、と言わんばかりの表情で、八尋がニヤッとする。


「俺らはオカルト話が大好きなんだ。俺と、平良と、ゆきねと、あと一人いるんだけど、このメンバーで怖い噂話を検証してる」


腕を組んで楽しそうに語る八尋に、平良が横から「俺は別に好きな訳ではないぞ」と口を挟むが、八尋はそれを無視して、話を続ける。


「そんな俺らが集まってるから、オカルト荘。俺らはそう呼んでる。あ、ばっちゃんには内緒な。バレたら何て言われるか」


菜子が頷くと、八尋はあからさまにホッとしたようだ。フミはそんなに怖いのだろうか。


「本題に入る前に、とりあえず座ろうぜ」


平良の言葉で、みな豪勢な料理の並ぶ机の前に腰を下ろす。本題が何か気になるが、菜子は目の前の料理に唾を飲み込んだ。


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