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どうしよう、何て言えば良い?今更、改まった言い方も照れ臭いし、ふざけた告白なんてしたくない。『私の白馬のおうじ様になって。』と言えるはずもない。口から炎を吐き出せるほど、恥ずかし過ぎる。
なんて、悩んでいるうちに、パーティー当日。
沙菜恵と美人は、迎えが来る三時間前に家に来た。着替えや化粧などの身支度が整うと、吹雪を捕まえ、凰士と私の逸話なるモノを聞き出して、楽しんでいる。
こっちは最大ピークの緊張を抱えて、胃の痛みを我慢しているのに、好い気なモンだよ。
ちなみに去年と同じ緩めのワンピースを着ようなんて考えていたら、わざわざ新調する破目になった。言わずと入れた、あの煩い二人に脅しとも言える説得をされたからだ。ミニスカートのワンピースとショール、ヒールにバッグ。全身コーディネートされたわけだ。
お蔭でお財布は火の車なのに、プレゼントまで奮発させられた。小さな花束なんて可にも不可にもならない物を考えていたが、うん万円するネクタイとYシャツを買うに至ってしまった。私にそんな高価な物を買わせたにも関わらず、二人はうん千円と値段の張らない花束を割り勘で買った。そういうのって、ずるくない?私が最初に考えていた事なのに、横取りだよね?
「ピンポーン。」
約束の時間の五分前、チャイムが鳴る。
「来たわよ。白雪、心の準備は良いわね?」
良いはずがない。
テーブルにしがみ付いても行きたくないけど、吹雪も入れた三人で引き剥がされたら、負けるのは目に見えている。
「はい、はい。行けばいいのね。」
「白雪、頑張れよ。」
コイツ等、吹雪にしゃべったのか?もう、ダメだ。心臓がバクバクして、このまま、倒れてしまいたい。のに、悔しいが私は意識を保っている。
「白雪様、吹雪さん。お久しぶりです。」
迎えに来てくれたのは、執事の大上さん。すごく優しくて、良い人。真っ白な髪を綺麗に撫で付け、紳士的なお方。凰士の教育係も兼任していて、私達とはすっかり顔見知り。
「お元気そうですね、大上さんも。」
「はい、ありがとうございます。凰士様が家を出られて以来、淋しくて、毎晩のように枕を濡らしております。」
「そういう事を言うと、おくさんに言い付けちゃうから。」
「おくも同じようですよ。」
大上さんの奥さんは、『おく』という名前。少し笑える。あっ、私も人の事を言える名前じゃないな。
「お初にお目にかかります。白馬家で執事をしております、大上と申します。本日は、貴方様方の送迎をさせていただきます。よろしくお願いいたします。」
大上さんは丁寧に沙菜恵と美人にお辞儀をする。これまた、紳士的で素敵。
「お嬢様方、どうぞ。」
レディーファーストも板についていて、見惚れてしまいそう。
あぁ、凰士は大上さんに仕込まれた結果、あんな風になったんだ。
一人、妙に納得して、車に乗り込む。
吹雪は助手席に、私達は後部座席に。大上さんが運転席に乗り込み、凰士の自宅に向かう。
相変わらず大きく立派な邸宅です、はい。
大上さんに連れられ、会場に向かう。そこは何処かのお城の舞踏会に迷い込んだようなゴージャスな飾り付けがなされております。おくさんを始めとする女性陣がカクテルなどの飲み物を配り、会場の片隅には豪勢なお料理が並んでおります。
沙菜恵と美人は半開きの口のまま、会場を見回し、言葉が出ない様子。それ、正解。
「いらっしゃい。」
会場に入ってすぐの場所に、両親と凰士が三人並んで、いらっしゃるお客様をお迎えしている。美形が三人並ぶと圧巻だね。
「本日はお招き、ありがとうございます。」
ご両親に型通りの挨拶をする。
「白雪ちゃん、吹雪くん。よく来てくれたね。二人がいてくれないと、誕生日パーティーじゃない気がするよ。」
「おじ様とおば様にそんな風に言っていただけて、嬉しいです。」
少し肩を竦め、苦笑。
そう言われるのも納得だよ。だって、出会ってから毎年のように、凰士に拝み倒され、出席している。他の面々は変わるが、私達は十二年連続なんだよ。
「社長、本日はわたくしまでご招待頂き、ありがとうございます。」
美人が少しだけ緊張した声を出している。
あぁ、そうか。凰士のお父さん、社長なんだっけ?おじ様って昔からの呼び方じゃ、まずかったかな?でも、わらっているし、大丈夫だよね?
「このパーティーでは社長ではないよ。凰士の父親として、この場にいるだけだ。肩肘張らずに楽しんでいって。」
「はい、ありがとうございます。」
「御馳走になります。」
沙菜恵、御馳走になりますって、どうなの?まぁ、その通りなんだけど。
「今日の白雪ちゃんは、見違えるようだね。」
「色が白いから余計に似合っているわ。」
「ありがとうございます。」
なんて、おじ様とおば様と話をしていると、三人はさっさと凰士にプレゼントを渡し、部屋に入っていった。そして、にやけた顔で私を見ている。
あぁ、わかったわよ。
「お誕生日、おめでとう。凰士。」
「ありがとう、白雪。今日は特別綺麗だね。お洒落してきてくれて、とても嬉しいよ。」
ヤバイ。凰士の顔が見られない。心臓が飛び出ちゃいそうなくらいドキドキしている。
「あの、これ。」
あぁ、この渡し方って、バレンタインチョコを憧れの先輩に手渡す恋する乙女じゃない?
うぅ、三人とも向こうに行け。見るなぁ。
「ありがとう。開けてもいいかな?」
「あっ、うん。」
凰士が照れ臭そうに微笑み、丁寧に包装紙を剥がしていく。
そこの三人、そのにやけた顔、どうにかしてくれぇ。
「えっ?」
小さなメッセージカードが箱の一番上に置いてある。そう、前以て用意させられたモノ。
凰士は昔から私のプレゼントだけは、中身を確認する。吹雪曰く、白雪から物を貰うのはよほど嬉しいらしく、すぐにでも確認したいから、らしい。
で、それを聞いたあの二人が、カードを用意して、呼び出しのメッセージを書き込めば、自然に告白にもっていけると、言い出したのだ。素直にそれを実践した私もいるが…。
「どうかな?」
出来る限りの笑みを作り、凰士に向ける。本当はすぐにでも逃げ出したいけど…。
「もちろん、気に入ったよ。白雪がくれた物を気に入らないはずがないだろう。一生、大切にするよ。」
ちょっと意外そうにカードを開くと、驚いた顔で私の顔を見ていた。
が、すぐに極上の笑みを浮かべる。
「なるべく早く声を掛けるね。」
少し屈んで耳元で、そう呟く。
「うん。」
半泣き笑い状態で凰士の笑みに応えたけど、上手く出来たかな?
「じゃあ、行かなくちゃ。」
凰士は次のお客様がいらして、そちらの対応に行ってしまった。
「ふぅ。」
大きく息を吐き出し、三人の元に歩き出す。
「本番はこれからよ。頑張りなさい。」
「白雪から目が離せないわね。」
「頑張れよ、白雪。ドジるなよ。」
もう帰ってもいいですか?大上さん、私を自宅に連れ去って。
「さぁ、料理を食べましょう。どれも美味しそうで迷っちゃうよね。」
「あそこのローストビーフ、最高だよ。毎年あって、俺、絶対に食べるんだ。」
「じゃあ、そこから行きましょう。」
呑気な三人はさっさと料理の元に。私は緊張のあまり、食欲はゼロ。
とりあえず、おくさんからリンゴジュースを頂き、隅の椅子に腰掛ける。
何度も深呼吸をしながら、緊張を和らげようとするのに、上手くいかない。
あぁ、私の心臓、壊れてしまったんだわ。きっと、このまま天に召されるのね。可哀想な私。
なんて、バカな事を考え、気を紛らわそうとするけど、ムリ。
「白雪様、どうされました?」
顔を上げると、大上さん。
「御気分が悪いのですか?」
大上さんの心配はごもっとも。いつもなら、料理を食べまくっているのに。
「いいえ、大丈夫です。」
「緊張されているのですか?」
バレバレかい。さすがは大上さん。
「わかりますか?」
「わかりますよ。大丈夫です。」
もしかして、私の緊張している理由をわかっている?
「掌に人という字を書いて、飲んでください。少しは緊張が和らぐはずですよ。」
「ありがとうございます。」
苦笑しか出来ないよ。そんな事でこの緊張をどうにか出来るのなら、私はもう料理に群がっているよ。
「白雪様を若奥様と呼べる日を心待ちにしていたのです。旦那様も奥様も同じ気持ちですよ。応援しています。」
「大上さん…。」
「そろそろご挨拶が始まると思います。それが終われば、坊ちゃまの身体は空きますよ。もう少しだけ我慢なさってください。」
「ありがとうございます。少しだけ緊張が和らいだみたい。さすが、大上さんね。」
「白雪様は、笑顔が一番お綺麗ですよ。」
大上さんは微笑みながら会釈をして、他のお客様の元に歩き出す。
少しだけ呼吸がラクになり、大きく息を吐き出した。
おしゃべりと料理に大忙しだった口が動きを止めた。前に設置されたステージに眩しいほどのライトが当てられ、皆の視線を独り占め。挨拶が始まるのね。
おじ様の長い演説の後、おば様の短いお話。最後に凰士のもっとも短い挨拶。最後にグラスを掲げ、乾杯。毎年のお決まりが終わり、一度落ち着きかけた心臓は、またもやヒートアップ。
「どうしよう。」
ステージから直接、凰士が私に向かってくる。途中、何人かの人に声を掛けられ、短い挨拶を交わし、着々と目の前に。瞳が泳ぎ、視線の片隅ににやけた顔を隠しもしない三人組が映り込む。あぁ、呑気でいいわね。
「白雪。」
軽く毒気付くと、凰士が目の前。一瞬、心臓止まったかも。
「は、ひゃい。」
「白雪?」
苦笑に近い笑みを口元に浮かべ、私の隣に座り込む。
「で、話って?」
「あのね、と、とりあえず、庭に出ない?」
「あぁ、そうだね。毎年、ここの薔薇を見るのが恒例だからね。行こう。」
さり気なく、エスコートのつもりだろうけど、ショール越しに肩に触れる。
うぅ、余計に緊張するよぉ。心臓が壊れたよぉ。
「本当に今日の白雪、おかしいね。どうかした?相談事?」
「あの、あのね。」
大きな庭園の片隅のローズガーデン。深紅を中心に色とりどりの薔薇が咲き誇っている。
精一杯の勇気を振り絞り、顔を上げると、バラの陰に隠れた三人組を発見。
意地でも覗き見するつもりだな。冗談じゃないわ。
「凰士、後ろを振り返らないで聞いて。」
こうなったら、撒くしかないな。何を言われるかわからないヤツ等だからね。
「うん。」
瞳だけを動かし三人の姿を確認した凰士は、大きく頷いた。
「あの三人を撒かないと、話が出来ないの。何か方法はない?」
「じゃあ、逃げよう。」
凰士が私の手を掴み、走り出す。引き摺られないように足を動かしながら振り返ると、慌てた様子で追い駆けてくる三人。大きく迂回して、豪邸の中に。
「本当にしつこいね。」
凰士が苦笑を零し、階段を上がっていく。
短いスカートでよかったわ。ロングを選んでいたら、こんなに走れないわ。
「白雪。」
二階に上がり何度か角を曲がると、一つの部屋に飛び込む。
荒くなった息を潜めながら、耳を澄ませる。三人の足音は部屋を通り過ぎて行った。
「はぁ、撒けたね。」
「うん。」
二人同時に詰めていた息を吐き出し、少しだけ笑う。
「とりあえず座ろう。」
よく見ると、凰士の部屋。私の部屋の五倍以上あるけど、ここだけはシンプルな家具が揃っている。
三人掛けのソファーに座ると、凰士が冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、手渡してくれる。
「ありがとう。」
走ったのと違う鼓動が身体を支配していく。同時に緊張が蘇ってきた。
走っている時は夢中だったけど、あぁ、どうしよう。
「で、話って?」
水で口を湿らせ、ボトルをテーブルに置く。
「あのね、凰士。」
「うん?」
真っ直ぐに私に視線を向ける凰士。
お願い、恥ずかしいから、そんなに見ないで。
思わず立ち上がり、床を見つめた。
あぁ、もう、女は度胸と愛嬌。よくわからない覚悟を決め、口を開く。
「私、私ね。」
立ち上がった凰士を見上げ、息を飲んだ。
「凰士の事、好きになっちゃったみたい。」
「白雪?」
「あの、今更、こんな事を言われても困るのは、重々承知しているのよ。でも、私、気付いちゃったの。だから、あの…。」
穴があったら入りたいよ。顔から火が出る。口からも目からも鼻からも出ちゃうぞ。
「白雪。」
ぼすぼすと地面に意識をのめり込ませようとしていると、凰士が私の両手を握り締めた。意識を現実に戻し、思わず顔を見上げると、極上の笑みが向けられている。
「俺から改めて言わせて。俺は白雪を愛しています。付き合ってください。」
「凰士…。」
「返事は?」
余裕の笑み。ズルいよね?
「私も好き。」
凰士の身体に抱き着くと、優しく抱き寄せてくれる。
あぁ、やっぱり凰士の腕の中って、安心する。
「三人が到着しているよ。」
耳元に声が掛かり、身体の力が抜けそうになる。でも、ここは我慢。
「いつから?」
私も小声で尋ねる。
「俺が改めて告白したあたり。」
「えぇ?」
「少し驚かせてやろう。」
「驚かせる?」
「俺に任せて。」
悪戯を思いついた子供のような顔で笑い、抱き締めていてくれた腕を緩める。何をするんだろうと凰士の顔を見上げていると、いきなり両手で私の頬を包み込む。
「お…。」
凰士と呼びかけるより早く唇がふさがれる。大きく瞳を見開き、驚いたのは一瞬。もう蕩けるような口付けで、立っているのが辛い。
「えっ?凰士?」
唇が離れても蕩けてしまった私の瞳は、虚ろ。今度はお姫様抱っこだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。」
うつ伏せにベッドに降ろされ、首を捻り凰士を見上げようとすると、耳元に唇が寄せられる。
吹きかけられる息で意識が遠のきそう。
「マッサージをいてあげるから、わざと声を荒げて。」
「それってベタじゃない?」
「ベタだから面白い。きっと覗きにくるよ。来なければ、このままいけるところまでいっちゃってもいいんじゃない?」
「ちょっと、本気?」
思わず声が大きくなる。
「本気。どれだけ焦らされていると思っているの?いいよね?」
少し大きな声。何処までが演技で何処までが本気なのか、さっぱりわからない。
「ちょ、ちょっと。凰士。あっ。」
凰士が私の足に触れ、本当にマッサージを始める。
「あっ、うっ。」
本当に凰士のマッサージは気持ち良い。本気の吐息が零れてしまう。
「白雪、声が艶めき過ぎ。ちょっと味見させて。」
凰士が耳元で囁く。何を味見するんだろうと思ったら、私の足にキス。
「あっ、ダメ。」
「色っぽい声。」
キスは一度だけでふくらはぎを中心に揉み解してくれる。緊張していたし、走ったから、ガチガチなのかな?凄く気持ち良い。このまま眠ってしまいたい。
「来たよ、三人。もっと声出して。こっちに来てもらわないと、ね。」
静かにドアを開けても気配はわかるもの。
まぁ、私にはわからなかったけど。だって、凰士のマッサージ、上手過ぎ。
「あっ、そこ気持ちいい。」
強くふくらはぎを押されると、一際大きな声が出てしまう。わざわざ、声出せと言われる必要もなく、漏れてしまうんだ。
「何だよ、それぇ。」
吹雪の声がすると、凰士の手が止まる。
「信じられなぁい」
沙菜恵と美人の声が綺麗に重なる。
「覗き見している人達が悪いんだよ。」
「もう、白雪も上手いのね。本気にしちゃったわよ。」
脱力して、そのまま、ベッドに伏せっている私に非難の声。
「本気よ。マッサージ、凄く上手いの。」
「マッサージが上手い人って、あれだよね?」
「うん。そんな感じする。」
「キスも凄く上手いらしいよ。」
「どうして、吹雪くんが知っているわけ?まさか?」
あぁ、勝手に盛り上がっているよ。
よっこらしょと言いたいのを飲み込み、起き上がる。
凰士とベッドに腰掛け、傍観者。
「違う、違う。」
吹雪の慌てようが笑える。凰士も手を横に振り続け、否定モード。
「白雪が言っていたんだよ。」
「えっ、白雪が?」
一気に視線が私に集中する。まったく、吹雪もろくな事を言わないんだから。
「あぁ、あの時ね。」
妙に納得の二人。もう、好きにして。
「まぁ、そのヘンは良いとして、よかったわね。二人とも。」
「白馬のおうじ様争奪戦は、白雪の勝利ね。まぁ、他の女なんて最初から目じゃなかったけど。これで私のぼろ儲け。」
「ぼろ儲け?」
悪事が上手く運んだような悪人笑みを浮かべた沙菜恵に視線が集中。
「あっ、いや。何でもないです。」
「どういう事?」
私と美人に責められ、沙菜恵は逃走不可能と判断し大人しくなる。
「いやぁ、数人の営業の男達と賭けをちょっと。あっ、私はちゃんと白雪に賭けたから。」
「配当金はいくら?」
美人、それは別に関係ないんじゃない?
「二万円。」
「よし、決まりぃ。明後日の月曜日、沙菜恵の奢りでランチね。」
「やったぁ。」
「えぇ、冗談でしょう。」
「吹雪くんも会社が傍みたいだし、一緒にどう?男一人じゃ、凰士くんが可哀想だし。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
沙菜恵が頭を抱え、遠くに諭吉さんが飛んでいくのを眺めているようだ。
「で、他には誰が候補?」
「えぇっと、美人や下田歌子率いる秘書課軍団、昔からいるだろう婚約者とか、お見合い相手のどっかの御令嬢とか、思い切り部外者とか。色々出たけど、美人と下田歌子が人気だったわね。昔からいるだろう婚約者が二票、白雪に入れたのは私だけだから。だから、賭け金全部私のモノ。」
「昔からいる婚約者って、発想凄いわね。でも、凰士くんなら不思議はないかも。」
美人と沙菜恵が凰士を見上げる。凰士が否定する前に吹雪が口を開いた。
「いるわけないよ。凰士の両親、結構放任だし、昔から白雪と結婚するもんだと思い込まされてきたから。」
「吹雪、何を言っているのよ。」
私の頬が自動的に赤く染まってしまう。きゅ、急に結婚なんて話をするな。
「最初さ、好きな人が出来たから、その人以外と結婚しないって、凰士が宣言したんだよ。小学校六年の時にだよ。で、ちょくちょく俺と三人で遊びに来るようになって、まぁ、白雪の場合、半分は凰士に引き摺られていたけど。それで、親も凰士がそこまで好きならと認めているわけ。」
「へぇ、親公認なんだ。じゃあ、今度は恋人のなりました祝いのパーティーをしなくちゃいけないね。あぁ、楽しみ。」
「勝手な事を言わないの。吹雪も余分な事を言わないように。」
「事実だ。」
胸を張る吹雪。もういいや。放っておこう。
今は気分がいいから、見逃す。
「その後は、初デートを覗きに行く?」
「あっ、それ楽しそう。賛成。」
「でも、凰士の部屋に逃げ込んじゃったら?」
「初デートじゃ、それはないでしょう。」
「でも、白雪、何度も凰士の部屋で二人きりになってるから、あんまり深く考えずに凰士の部屋に行くよ。」
「でも、凰士くんはそういうタイプじゃないでしょう。紳士的なデートを楽しんで、後日じっくり味わうタイプでしょう。前菜をゆっくり味わってから、メインをじっくりね。」
「デザートは?」
「ちょっと甘酸っぱい帰り道よ。」
「あぁ、なるほどねぇ。」
「でも、もういい加減、お預け期間が長いから、いきなりメインでも良いと考えるかもよ。」
この三人を止めて。勝手に盛り上がって、当事者を無視しているんですけど。
横から視線を感じて顔を上げると、凰士が優しい笑みを覗かせている。私も微笑みで応じた。多分、幸せいっぱいの甘い笑みだったと思う。
次話で最終話です。続けて、投稿する予定です。