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 夏が目の前に迫っている。日差しは痛いくらいに眩しくて、湿気と温度が急上昇。

あぁ、二日酔いは良くなったし、聡の事も浮上した。

でも、何故だろう。私は凰士の事が気になり出してしまった。凰士のさり気ない優しさが、やけに胸に残る。明らかにおかしい。おかし過ぎる。私、どうにかなってしまったんだろうか?有り得ないだろう。

「白雪。」

 午後三時のコーヒータイム。カップのコーヒーを手渡される。

「ありがとう。」

 今までと変わらずに隣に座る凰士。

それなのに、今日はちょっとドキドキしてしまう。私、疲れているのかな?それとも心臓病?

「今日、吹雪と遊ぶんだ。もしよければ、白雪もいっしょにどうかな?」

「嫌よ。どうして、弟と遊ばなくちゃいけないわけ?」

「せっかくご飯を奢ってあげようと思ったのに。白雪だけに。」

「それは魅力的なお誘いだけど、今日はダメなんだ。沙菜恵と美人と三人で食事に行く約束しているの。」

「えぇ、大丈夫なのかな?」

「美人なら平気よ。」

「でも、心配だな。吹雪との約束を断って、着いていっちゃおうかな。」

「冗談でしょう。」

「半分以上本気。」

 真っ直ぐに私を見つめる瞳。

あぁ、凄く落ち着かない。私、やっぱり疲れているのかも。

「そうしたら、吹雪に言いつけるわよ。凰士は友情を大切にしない薄情な男だって。」

「酷いなぁ。」

 軽口をたたけるのに、凰士の瞳を見る事が上手く出来ない。これじゃ、完全に恋する乙女じゃない。私のキャラじゃないのに。

「こっちは女同士。そっちは男同士。いいんじゃない?積もる話もあるでしょう。」

「別にない。」

「あぁ、本当に薄情。」

「だって、いつもメールや電話で話しているし、一か月に二回位は会っているから、さ。」

「そうですか。お熱い事で。」

「ダメだよ。ヘンな男の誘いに乗っちゃ。」

「子供じゃないの。そのヘンの分別くらいつくわよ。それに女だけの内緒話なのよ。」

「はい、はい。わかりました。じゃあ、終わったら電話くれる?」

「はい、はい。わかりました。」

 二人同時に吹き出し、一頻り笑った。

やっぱり凰士といると楽しい。


 定時間になると、美人と沙菜恵、三人で連れ立って、会社を出た。

凰士は名残惜しそうに、私の背中を見送り、吹雪との待ち合わせ場所に向かっていった。

「ねぇ、白雪。」

 イタリアンレストランに入ると、同じような事を考えている女性が多いらしく、賑やかな声でおしゃべるが繰り広げられている。席に着いた私達も注文を決める僅かな時間だけで、周りと同化してしまった。

「何?」

 注文を済ませ、水で喉を湿らせ、出陣準備は完了。

「凰士くんと付き合ってないって、本当?」

「だから、そうだと言っているでしょう。あんなに仲良くふざけあったり、甘い空気を作り出したりしているのに、白雪には他に恋人がいるのよ。ねぇ。」

「あっ、終わったの。」

 何でもない事のように言い切れてしまう自分にちょっとびっくり。

「えぇ、いつ?」

「昨夜。他に同棲している彼女がいるんだって。」

「えぇ、最低。」

 沙菜恵と美人が同時に顔を歪め、怒りを含んだ瞳の色を見せる。

「本当に最低な男。別れて正解よ。」

「そうよ、そうよ。」

 女同士もいいかも。凰士と違う癒され方だけど、それも心地良い。

「お待たせしました。」

 話題を変えるチャンスが訪れる。店員が料理を持ってきた。

「私はそれよりも美人の恋愛の方が気になるわね。付き合っている人とかいるんでしょう?どんな人なの?」

「もちろん、いるわよ。もう二年位付き合っているかな。最近仕事を理由にあまり遊んでもらってないけどね。」

「で、どんな人?」

 やっぱり彼氏がいるんじゃない。じゃあ、乗り換えで凰士にモーションを掛けていたのね。今更ながら、凄い女だ。

「美容師よ。最近、カリスマとか言われて、時々テレビや雑誌に出ているわね。」

「って事は良い男なのね。えぇ、何処で知り合ったの?いいなぁ。」

 沙菜恵が夢見る乙女の瞳になっている。

「私が通っている美容室のチーフをしているのよ。それで意気投合しちゃって、付き合うようになったの。で、私に答えさせるばかりの沙菜恵はどうなの?」

「えぇ、私?」

「つい最近、同棲を始めた彼氏がいるのよね。もう毎日ラブラブなんでしょう?」

 沙菜恵の代わりに答えてあげる私。いいなぁ、私も彼氏が欲しい。まともなのが…。

「そうでもないよ。生活に流されちゃっている感じ。甘い同棲なんて夢のまた夢。」

「格好良いの?」

「それが全然。でも、優しくて誠実な人。ちょっと刺激がなくて、つまらないところもあるけど、そこは我慢よ。結婚したら、子煩悩になってくれそうな人よ。」

「それはそれで素敵じゃない。」

 惚気の交じった会話を聞きながら、私は一人、パスタを食べ続けている。

「で、白雪。」

 急に話を振られ、パスタが喉に詰まりそうになる。危機一髪のところで飲み下し、大きく息を吐いた。

「何?」

「凰士くんと付き合っちゃいなさいよ。彼ほど良い男って、なかなかいないわよ。」

「どうして、そういう話になるわけ?」

「だってねぇ。沙菜恵もそう思うでしょう。」

「はきり言って、白雪も凰士くんの事、好きでしょう。両想いってわかっているのに、いつまでも進展がないって、じれったいのよね。見ているこっちが。」

 誰がいつ、凰士を好きだと言いましたか?随分好き勝手な事を言ってくれるわね。

「凰士くんの事、好きなんでしょう?」

 美人と沙菜恵が二人同時にテーブルに身を乗り出し、真っ直ぐな視線を向けてくる。

やっぱり吹雪と凰士の方に行けばよかったかな?でも、吹雪が一緒じゃ同じか。

「私、凰士より三歳も年上なのよ。」

「そんなの関係ないじゃない。社会人同士なら、三歳くらい歳の差にならない。」

「それに、家、お金持ちでもないし、本当に普通の家庭よ。」

「家柄なんて関係ないわよ。凰士くんがあれだけ惚れ込んでいるんだもん。」

「私、綺麗じゃないし、可愛いわけでもない。」

「それも全く関係ない。そういうところもひっくるめて、凰士くんは白雪に惚れているんだもん。それに、凰士くん、言い切ったじゃない。モデルや女優より綺麗だって。」

「そうそう。あばたもえくぼよ。」

 もしかして、それって、やっぱり、私の事を綺麗じゃないと認めている発言よね?あぁ、友情なんてこんなモンよね。別にいいわよ、どうせ、かぐやですから。

「あれ?豚に真珠だっけ?」

「違うわよ、弘法も筆の誤りじゃない?それとも河童の川流れだっけ?」

 あぁ、疲れた。帰りに、吹雪に迎えに来させようかしら?どうせ、凰士の部屋でしょう。

「まぁ、それは良いとして。」

 良くないでしょう。もう少し、日本語を勉強した方がいいんじゃないか?一応、社会人。恥ずかしくないか?

「凰士くんの事、好きなんでしょう?」

 急に真顔に戻り、私を見つめる二人。

こんなの反則でしょう。二対一じゃ勝ち目ない。

「好き、かも、しれない。」

 あぁ、らしくない。わかっているけど、声が掠れてしまう。

「じゃあ、告白しなさいよ。」

「告白ぅ?」

「当たり前でしょう。凰士くんの気持ちはわかっているんだし、後は白雪が愛の告白をすれば、オーケー。失恋確率0%。これ以上なく安全な告白。

 安全な告白なんて、凄い言葉、初めて聞いたわ。

「何を言えばいいのよ?」

「簡単じゃない。『好きだから、付き合って。』とか、『私の白馬のおうじ様になって。』とか。」

「前者は在り来たり過ぎてつまんないよ。後者は駄洒落とか混ざっていて、グッドよ。これでいきましょう。」

「何が、これでいきましょうよ?」

「じゃあ、自分の言葉でちゃんと伝えなさい。もういい加減、凰士くんを振り回すのも可哀想でしょう。それに、他の女に取られてから、悔やんでも仕方がないのよ。」

「そうね。凰士くん、もてるからねぇ。」

 絶対、この二人、楽しんでいるな。

「じゃあ、凰士くんの誕生日パーティーの時なんて、どうかしら?最高の誕生日プレゼントになるよ。決まりね。白雪、頑張れ。」

「えぇ、何、誕生日パーティーって?私、呼ばれてないよ。見れないの?白雪が凰士くんに告白するところ。つまんなぁい。」

 何がつまんないよ。つまらなくてよろしい。って言うか、覗き見るつもりなのか?

「じゃあ、私が頼んであげる。こんな面白いモノを見られないなんて、美人が可哀想だもん。大丈夫、白雪にも口添えさせるから。」

「お願い。」

 誰が口添えなんてするもんか。沙菜恵も覗き見満々だから、来なくてもよろしい。

はっ、私、その日に告白するの決定?

「じゃあ、白雪、楽しませてね。」

「期待しているからね。」

 本当にこの二人は私の友達なのだろうか?本気で疑いたくなる私は、性格が悪いのだろうか?

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