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初めまして。宮月と申します。よろしくお願いします。

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 小さな頃、白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれて、一生ラクな暮らしをさせてくれると信じていた。

もちろん、継母や意地悪な姉妹がいる訳でもなく、魔女に恨みを買うほどの美人という訳でもない。

現実から逃避するためでもなく、流行|(?)の中二病だった訳でもない。

ただ、物語にのめり込み過ぎた、幼い私がバカだっただけだ。

そんな私を正しい道に目覚めさせてくれたのは、他でもない私の名前と顔立ちだった。


姫野白雪ひめのしらゆきって、名前なのか?どっちかと言うと、白雪姫よりかぐや姫って顔だよな。」


 そう幼等部で一緒だったマセガキが、夢見る少女だった私に言い放った。

そう、私の顔は完全な日本顔。

凹凸がなく、薄い唇と細い瞳、マロ眉毛に真っ黒な癖のない髪。

平安時代に生まれたら、さぞもてた事だろう。

ところが、私はその顔で現代に生まれ、名前負けした姓名を頂いてしまった。

何で、姫野って苗字に白雪と名付ける?

両親に名前の由来を尋ねると、全く白雪姫とは関係がない。

ただ単にスキーが好きで、スキー場で出会って恋に落ちた二人から生まれた子供。

それで、白い雪に因み、白雪と名付けたと言う。

それだったら、シラユキと読ませずに、ハクセツと読ませれば言いじゃないかと、猛抗議をしたが、今更の一言で済まされた。


 その後も表面には出さないが、心の奥で白馬の王子様を信じ続けていた私。

心の中で信じるくらい神様だって許してくれても良いと思わない?

夢を見るのは、個人の自由だと思うの。せめて、心の中くらい…。

はぁ。そんな私の夢を見事なくらい砕いてくれた事件が起こったのは、中学生になった時。

いえ、夢を砕くなんてカワイイものじゃないわ。

もし、白馬の王子様が表れても絶対に着いて行かないと、着いて行ってはいけないと、思わされた出来事が起こった。

世に言う、『白馬のおうじ様、恋をしちゃったぞ』事件だ。

因みに、そう名付けたのは、私の弟、吹雪ふぶきだ。

吹雪は、幼い私を祖父母に預け、スキーに出掛けた呑気な両親が吹雪に遭い、その時に授かった子なので、吹雪と名付けたらしい。

自分達の子供にこんな安易な名前を付けて良いのだろうか?


 話を戻すが、『白馬のおうじ様、恋をしちゃったぞ』事件についてだが…。


「白雪。」

 ノックもなしに、弟の吹雪が、私の部屋のドアを開けた。

私が中学二年生、吹雪が小学六年生の桜が綺麗に散っていく暖かい日だった。

「いつも言ってるでしょう。お姉ちゃんと呼びなさいよ。それと、部屋のドアはノックしなさいって、何度言えばわかるの?」

 明日から授業が始まるので、珍しく勉強していた私は、ぎしぎし鳴る椅子を回し、振り返った。

そこには目を見張るほど恰好良い少年と吹雪が立っていた。

私は、彼の顔を穴が開いてしまいそうなほど見つめ、彼も私を真っ直ぐに見つめている。

息が詰まりそうなほどの空気が漂っていた。

「なぁ。白雪姫っていうより、かぐや姫だろう。完全に名前負けだよなぁ。」

 呑気に嫌味な事を呟く吹雪。

でも、私にも彼にも、その声は届かない。

ただ、お互いを見つめ合っているだけだった。

多分、息をするのも忘れていた。

「おい。」

 吹雪が二人の視線がぶつかる間に入り、視界を遮ると、やっと私は息を吐く事が出来た。

動揺を表立たせないように細心の注意を払いながら、口を開く。

「何しに来たのよ。」

 気が強い性格は損をしているのだろうか?

私は甘い声を出す様な装いも出来ずに、普段、吹雪に向ける声を発した。

「ゲームをしているんだけど、どうしてもクリア出来ない場所があって、白雪の力を借りようと。」

「で、報酬は?」

「俺のファーストキスでどう?」

「いらん。仕方がないなぁ。じゃあ、オレンジジュースを下から持ってくる。それで手を打ちましょう。」

「はぁい。じゃあ、俺の部屋で待っていてくれよ。すぐに持ってくるから、先にやらないでよ。わかった?」

「はい、はい。」

 生返事をして、彼に視線を戻した。

本当に見れば見るほど、恰好良い子だ。

「あのね、私、姫野白雪。吹雪の三歳上のお姉ちゃんなんだけど、君は?」

 いつも来ている吹雪の友達に接するのと変わらない態度で、彼に名前を尋ねた。

深い意味はない。

ただ、名前を聞かないと、これからゲームをするのに、不便だから。

白馬凰士はくばおうじ。」

 白馬の王子様?

叫び声を上げそうな口を抑え込み、彼の顔を覗き込んだ。

なんて、顔立ちと名前がピッタリの子だろう。

「白い馬で白馬、鳳凰って鳥の凰って字に武士の士で、白馬凰士。」

「白馬くんね。」

「凰士でいいです。」

「じゃあ、凰士くん。吹雪の部屋に行こう。」

 彼に私の部屋から出るように促し、隣の吹雪の部屋に移動。

私がドアを閉め、テレビの前に座り込む。

テレビの画面に視線を向け、何処がクリア出来ないのか確認しようとすると、彼が私の真ん前に立った。

「凰士くん?」

「僕、僕、白雪さんの事を好きになってしまいました。一目惚れです。僕と付き合ってください。」

 一体何が起こったかわからない私は、何度も瞬きをしながら、彼の顔を見ていた。

「今、何て言った?」

 空耳を期待して、聞き返す。

「僕と付き合ってください。」

「えっ?えぇぇぇぇぇ?」

 私はお腹の底から驚きの声を上げた。

こんな展開に私の脳みそがついていくはずがない。

混乱の極致だ。

「白雪?」

 三つのジュースが乗ったお盆を持つお母さんとお菓子を抱えた吹雪がドアの前に呆然と立っている。

「どうしたの?」

 お母さんが私達に話し掛けるより早く、彼が同じ言葉を繰り返した。

「えぇぇ?」

 今度、叫び声を上げたのは、お母さんと吹雪。

正常な反応だと思う。

「凰士、本気か?」

 通常の思考回路に戻ったのは、吹雪が最初だった。

お母さんは、マジマジと彼の顔を見つめ、口をパクパクさせている。

「本気だよ。彼女以上に綺麗な人を見た事がない。将来は結婚したいと思っています。」

「綺麗?結婚?」

 頭が破裂するわ、本気で。

あぁ、眩暈がしてきた。

本当にこのまま倒れて、意識を失いたい。

そして、すべてを夢落ちにしたい。

でも、健康優良児で四年に一度風邪をひくかひかないかの私が、貧血になれるはずもなく…。

「僕、本気です。」

 彼が呆然としている私の手を握り締めた。

小さな手は驚くほど力強い。

私は助けを求め、吹雪とお母さんに視線を向けるが、ムリみたいだ。

「いいじゃん。付き合っちゃえよ。俺、凰士なら兄貴になっても許す。」

 にやにやと笑いながら、吹雪が偉そうな口調。

コイツ、後で泣かせてあげようかしら?

火に油を注ぐような事しか言っているんだから。

「あのね、凰士くん。」

 私は出来る限り優しい声を発し、彼の瞳を見ないようにした。

「はい。」

「付き合うって意味、わかっている?」

「もちろんです。デートしたり、手を繋いだり、キスしたり、二人きりで楽しむ事です。」

 確かに間違ってはいないだろうが、小学生相手に何処まで説明して良いモノか。

まぁ、私もまだ中学生だったが…。

「私、凰士くんより三歳も年上よ。」

「わかっています。でも、愛に年齢は関係ないじゃないですか。白雪さんだから好きになったんだし、付き合いたいんですから。白雪さん、僕じゃ、嫌ですか?」

 恰好良い顔立ちに潤んだ瞳は、詐欺だと思う。

言葉を失いそう。

でも、挫けない。

「あのね。」

 あくまで子供を諭す口調で説得してみる。

本当に吹雪は面倒な子を連れてきたモノだ。

「お互いを知らなければ、好きになるのも、付き合うのも不可能だと思うの。わかるよね?凰士くん。」

「じゃあ、僕の事を知ってくれれば、好きになって、付き合ってくれるんですね?僕、白雪さんに好きになってもらえるように努力します。毎日でも白雪さんの元に通います。」

「あの、そうじゃなくて…。」

 作戦は失敗に終わった。想像以上にしぶといらしい。

「あっ、ごめんなさい。家庭教師の時間だ。僕、お家に帰らないと。じゃあ、白雪さん、また来ます。吹雪くん、また明日ね。どうもお邪魔しました。」

 嵐のように、彼が立ち去る。

後に残されたのは、脱力感と疲労だけだ。

「随分、恰好良い子ねぇ。」

 お母さんがのんびりと口を開く。

「凰士は、ファンクラブがあるくらい人気があるんだ。噂によると幼等部から中等部まではファンクラブが存在するらしい。高等部から上は知らないけど。」

「へぇ、凄い子に告白されちゃったわね。」

 どうして、この二人はこんなに呑気なんだ?

本当に私の事を考えてくれているのか?

「それだけじゃないんだよ。お家は凄いお金持ちで、車で学校に通っているんだ。でも、勉強も運動もダメで、天は荷物を持たせずってヤツだと言われているんだよ。」

「天は二物を与えず、でしょう。」

 バカは吹雪も同じだった。

あぁ、これで諦めてくれると良いのだけれど。


 そのあとの私は最悪だった。

毎日のように彼が家にやってきて、数時間拘束されるだけでは済まされず、中等部に迎えに来るは、部活をしていると大声で応援するは、はっきり言って、金魚の糞状態。


本当にいたファンクラブの女子には睨まれるし、時には呼び出しも受けた。

もちろん、反撃して、彼女達を泣かせてしまった事もある。


やっと高等部に進み、平穏な生活を送れると思ったが、それも甘かった。

ファンクラブは、ここでも存在し、いや、凰士のファンは増える一方。

凰士もしつこく私を追いかけるのを止めようとしない。

どんなに冷たい仕打ちをしても無駄に終わり、そんな私に彼氏が出来るはずもなく、淋しい高校生活を送った。


凰士から逃げる意味もあり、大学部までストレートで進めるにも関わらず、遠くにある大学に進んだ私。やっと解放されると思ったのは、一週間にも満たない時間。

毎日の電話は我慢したし、メール・手紙攻撃にも耐えた。

でも、まさか毎週末遊びに来るとは思っていなかった。

そこが私の甘いところ。

お抱え運転手に車を出させ、私のアパートまで現れた凰士には、完敗しそうになった。

でも、ここで挫けない。

私は恋愛がしたいんだ。

ちゃんと彼氏を作り、大学生活をエンジョイするんだ。

そう思い、サークルに入り、合コンにも参加した。

やっとの思いで彼氏が出来ても、邪魔者が入るために、長続きはしない。

追いかけっこのような生活は大学時代までも続いていた。


『白馬のおうじ様には一度でも甘い顔をしてはいけない。情けを感じてはいけない。』

そう、悟りを開いたんだ。

ドキドキしながら、書いています。投稿するのは初めてなので、お手柔らかに感想などいただけると嬉しいです。

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