9
いよいよ明日の夜か、とローレンは夜空を見上げて思った。新月の前の夜は暗い。今夜も月は無いも同然だからだ。
今ローレンは城内の見回りを行っている。見回りはいくつかの組に分かれ、それぞれの組ごとに持ち場が決まる仕組みとなっていた。朝、昼、夜の交代制で、今日のローレンは夜の部の担当だ。城内の奥にある庭園を隙のない様子で巡回していたその時だ。
(ん?あれは…)
暗闇のなかを動くものが見えた。ぼんやりとした形からそれが人間だとわかる。
(こんな時間にこんな所で何をしているんだ?それにあの方向は…)
昼間は鳥のさえずりが聞こえ、日の光りに照らされ、人々の笑い声に溢れる庭園だが、夜になると人気はなくなり、昼とはうって変わって不気味なほど静かだ。
だから今ここに人影があるということは普段とは違うこと、すなわち異常ということになる。
ただでさえ、隠しきれない王子の事情で城はピリピリとした空気に包まれているのだ。
その状況下でこの異常は見過ごすことの出来ないものだった。
ローレンはそっと人影のあとを追う。そしてそれは予想通りの場所へと向かった。
(やはり温室か)
庭園の奥には小さな温室がある。
ここは何代か前の他国から嫁いできた王妃のため、彼女の祖国の花を育てる目的でられたもので、完全なる王族たちだけの空間だ。
その他に入ることを許されているのは、王より直々に指名された庭師ひとりだけだ。
人影は勿論彼ではない。
ではそんな場所へ入って行くのは誰なのか――、
ローレンは物陰に身を隠しつつ様子を窺う。
中から小さな声が聞こえてきた。
「……本当に、大丈夫でしょうか…」
「心配するな。万事上手くいく」
声は二人分。ひとりは謁見で魔女に噛みついたあの小物貴族、そして、もうひとりは―――――
「しかし、相手はあの魔女にございます。何を考えているのかわかったものではありません、バーデナー公爵様」
(な――ッ!?)
ローレンは息をのんだ。
怪しげなもうひとりの人影の正体は、なんと王弟であるバーデナー公爵であった。
嫌な予感に体が小さく震えた。
「何をそんなに恐れる必要があるのか。心配せずとも王子は助かりはしない」
「しかし、念には念を……」
「仕方がない、では……」
二人の口から信じがたい計画が語られる。本当にこれは現実なのだろうか。
やがて二人は闇に紛れて去っていく。それを確認し、ローレンもその場を後にした。
目的の場所へ向かう歩調が自然と速くなる。
着いたのは団長室。一瞬躊躇いが頭を掠めるが、それをローレンは振り払った。
数回のノックのあと、中から入れ、と声がかかる。
「どうした、ローレン。何かあったか?」
「…団長、報告があります」
ローレンは己が見たものを語った。




