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「ここから先は私と魔女様のみ入室させていただきます。皆様は隣室でお待ち下さい」


王子の部屋の扉の前で師長は皆にそう告げる。


「呪いの影響がどのようなものかわかりません。陛下たちを危険にさらすわけにはいきませんので、どうかご理解下さい」


そう言い、師長が頭を下げると王や宰相も頷き、隣室へと向かって行った。残ったのは魔女と師長と、そしてローレンの三人だ。

ローレンは部屋の前で見張りとして立つこととなった。


「では魔女様、参りましょう」


師長が扉を開き、魔女を促す。

魔女は数秒程部屋の奥を見つめ、やがて音もなく一歩踏み出した。

ローレンの前でゆっくりと扉が閉まり、師長と魔女の姿は消えていく。


(呪い…あの魔女は殿下を救えるのだろうか…)


未だにローレンの中で、魔女に対する言い様のない不安が渦巻いていた。



部屋の中はカーテンが締め切られ、薄暗い。近づくことは許されていないため、いつもは騎士や女官たちが控えているはずの部屋の中には女性がひとりいるだけだった。


「フィーリ」


師長が声をかけると女性は立ち上がり、頭を下げる。背中まである長い髪がさらりと流れ落ちた。

女性は魔術師のローブをまとっている。


「魔女様、こちらの者は魔術師団のひとり、フィーリと申します。呪いのため殿下の部屋への入室は制限しておりますので、女官たちも近づけません。ですので魔術師からひとり、殿下の世話係を寄越しています。フィーリ、こちらが魔女様だ」


女性が恐る恐る視線を上げる。


「…はじめまして、魔女様…。師長様より紹介いただきました通り、殿下のお世話をさせていただいている魔術師団のフィーリと申します」


フィーリはか細く消え入りそうな声で、なんとか魔女へとあいさつをし、再び頭を深々と下げる。

それはまるで魔女を見るのも見られるのも、なんて恐ろしいことなのかと怯えているようで、よく見ればその身体は細かく震えていた。


「フィーリ、殿下のご様子は?」


「は、はい。変化はなく、時折苦しそうな声を上げられることもあります。熱も下がったと思えば上がり、上がったと思えば下がり…回復の兆しはございません」


フィーリは師長の問いに、幾分安堵しながら魔女を視線から外す。

その顔には疲れが見えた。恐らく王子から片時も目を離すことが出来ないのだろう。

彼女の言葉に、師長の表情も曇る。


「そうか…。フィーリもご苦労だった。疲れているだろう、しばらく休んでいなさい」


「はい、失礼いたします」


フィーリは静かに、しかし足早に退室していった。

パタン、と小さな音を立てて扉が閉まる。


「…殿下の容態はご覧の通りです。いつ悪化したとしても、おかしくありません。事は一刻を争います。」


師長ははぁ、と疲れたようにため息をつく。

王宮にいる魔術師たちの頂点にいる魔術師長には、今回の責任が重くのしかかっていた。本当は、頭をかきむしり、全てを投げ出したいような心境なのかもしれない。

決して誰にも見せはしなかったが、魔女とふたりきりの状況で、わずかに綻んでしまったのかもしれない。


「魔女様、いかがでしょうか…。殿下をお助けする事はできますでしょうか…?」


不安の滲む声で、師長は魔女に問いかける。どうか頷いてほしい…もはやすがれる手は、そこにしかなかった。

祈るような気持ちで師長は魔女の返事を待った。


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