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士長は、まるで懺悔をするかのように魔女に告白する。
その顔は悲しみを堪えるように苦しげに歪み、噛みしめた唇にはうっすらと血が滲んでいた。
沈黙が訪れ、風に木々が揺れる音だけが響く。
その音にかき消されてしまいそうな小さなため息をついた後、魔女は徐に口を開いた。
「私には、肉親というものの繋がりがわからない。家族と呼べる存在のことなど、もう覚えてもいないし、思い出すことも出来ない。だから、私にはお前の苦しみがわからない」
「チャルナ様…いえ、私事をつらつらとしゃべってしまい、申し訳ございません」
魔女の過去に関する伝承や記述は一切無く、誰も知らない。しかし、彼女が胸の内に抱えるものが何一つないとは思えなかった。こうして、言葉を交わせばなおのことだ。
自身の、情けない恥とも言えるような話で何か彼女の心に触れたりしてしまったのだろうか。
「…たとえ父と名乗れなくとも、お前に出来ることはあるのではないのか。拒絶されたと嘆くことで何かが解決するのか。考えろ、そして行動しろ。自らの罪悪感を無くすためではなく、今度こそ二人を守るために」
「守るため…」
彼女の言葉は厳しく、しかし突き放すような冷たさはなかった。
士長は彼女の言葉を噛みしめる。
一度は守れず、大切な女性は自分の元を離れていった。そしてひとりで子供を産み、育てていこうとしている。表から堂々と手を差し伸べられないのなら、裏から二人を支えていくことは出来ないか。
傲慢なことかもしれない。だが、彼女たちを見守っていきたいという想いは、抑えることが出来なかった。
自分は、二人の影となろう。それが望まれなくても、許されなくても。
「…チャルナ様、ありがとうございます」
「……」
何も言葉は返ってこなかったが、魔女が微かに笑ったような気がした。
それからも士長は森に通い続け、会う度魔女に、名乗りあえない娘の話をしたのだった。
「ずいぶんと大きくなりました。もう五歳です」
目じりにしわの寄り始めた顔で士長はうれしそうにほほ笑み、娘――エミリアのことを魔女に語る。
父親とは名乗れず、会うことも叶わないが、出来る限りの支援を続けていた。
「そうか」
「魔力に関しましては受け継いではいないようですが、、あの子は頭が良いのです。もう文字も読めるようで……」
うれしそうに語る士長の話を、魔女はいつも静かに聞いていた。
「では、本日はこのあたりで失礼いたします」
「ああ」
ほんのひと時の時間を過ごし、士長は帰っていく。
執務室へ戻る時、もうその顔から穏やかな笑みは消えていた。森を出れば、もう弱みなど見せない魔術士長としての顔しか許されないのだ。
気の抜けない張り詰めた空気の中で、また次に森を訪れる機会を待ち望んでいた。




