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その後、士長は年に1,2回ほどの割合でこっそりと北の森へ通った。

行って何をするわけでもない。魔女は口を開くことはほとんどない。

しかし、士長はこの時間が大切だった。

不安や迷いを見せることの許されない魔術師たちのトップ、魔術士長という立場。心に抱える様々な思いを、彼は魔女にだけ吐き出した。

魔女はそんな彼の話をただ静かに聞いていただけだった。

そして数年後、その年森にやって来た士長の顔には苦悩が浮かんでいた。


「どうした」


なかなか口を開こうとしない士長に、珍しく魔女の方から問いかける。やがて、迷いながらも士長は言葉を紡いだ。


「…私には、愛する人がおりました…」


「ほう」


「彼女は異国の血を引く者で、父や母から結婚が許されませんでした。何度も両親とぶつかり、その様子に彼女は心を痛め…私の前から自ら姿を消したのです。手を尽くして探したのですが行方はわからず……。失望した私は、三年前に父のすすめにより今の妻をむかえました」


士長の握った拳が、小刻みに震えていた。魔女は黙って話を聞いている。


「しかし…先ごろ彼女が見つかったのです。彼女には、子供が一人いました」


「その子は、お前の子か?」


「おそらくあの時、彼女が姿を消したあの時…ッ、彼女は身ごもっていたのです。何も言ってはくれませんでしたが、それに気がついたからこそ、彼女は私の前から消えることを選んだのでしょう」


苦悩し、後悔するように、士長は目を閉じ両手で頭を抱えた。


「…私は、彼女に会いに行き問いただしました。最初は答えてはくれませんでしたが、何度も問い詰め、漸く諦めたかのように認めてくれたのです。ただ、子供に父親だとは決して名乗らないでほしいと……」


「何故?」


「私に、もう妻がいるからです。そして子供も。自分は貴族ではなく身分が釣り合わない。そんな自分が妻の心をかき乱してまで私といることは申し訳なくて出来ないと。それに子供をそんなごたごたに巻き込ませたくないようで。当時、私の両親は私の知らない所で彼女に色々と接触していたらしいのです。愚かな私はそんな彼女のために何も出来なかった…」


確かに、今更彼女と子供を家に迎えようとすれば要らぬ争いと混乱しか生まないだろう。

彼女はそれを望まなかった。ただ子供と静かに暮らしたいと望んだのだ。

士長は心の内にある苦しみや悲しみを押し殺し、父と名乗らないと彼女に約束したのだった。





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